第19話ミネス

 魔人ミネスは画策していた。魔族の力を借り、魔人王悲願の人類殲滅を目論む。


 魔族から召喚呪文を享受されたミネスは心躍っていた。


 「グランのやつガイアに遅れを取るなんて情けないわね。はぁ。」


 といいながら腹心を失ったのは手痛いとミネスも感じていた。


 ミネスは他の魔人とは別行動をとることになった。超強力な魔族の護衛がいるのだ。護衛としては十分だろう。


 北大陸を南下していると、とある青年に崖の道で出会った。


 「助かった。おーい止まってくれ!」


 ミネスは面倒くさそうに馬車を止める。


 「どうかされて?」


 「ああ、途中で馬車の車輪が壊れて、馬にも逃げられちまったんだ」


 大柄な青年は豪快に笑う。


 「それで?」


 「途中まで乗せてはくれないか?無論タダとは言わねえ。」


 「仕方ありませんわね。」


 この男に道案内でもさせようとミネスは思うのだった。









 魔人王の力はまだ復活して間もないため完全ではない。


 よって五大魔人最強のヴァンが護衛についた。


 何かあっては遅いからだ。


 魔人王の執念は底深い。


 これはほんの昔話と思って聞いてほしい。


 はるか昔魔人と人間は仲睦まじく暮らしていた。


 しかし、それは唐突に終わりを告げることになるのは少し先の話だ。


 人間と魔人の王は盟約を交わしていた。


 ・互いに手を取り、認めあうこと。


 ・魔人や人間といった種族の違いを差別しないこと。


 ざっくりと言えばこんな感じだ。


 しかし、ある時を境に人間は魔人に恐怖するようになった。


 人間と魔人との間に土地の利権を争う者達がいた。


 魔人の領土は人間の領土とさほど広さは変わらなったが、土地の肥え方に違いがあった。


 またある時、魔人が口論の末に人間を殺してしまったのだ。


 そのいさかいにより、決定的な亀裂が両種族に生まれてしまう。


 それが、大昔の対魔人戦争だ。


 そして、最も最近の対魔人戦争には若かりし頃のレッズも加わっていた。自分の正体に気付かぬまま。






 

 ミネスは男を最寄りの街まで送り届けた。


 「ありがとよ。お姉さん。これお礼な。」と言うと男は幾何かの銀貨を渡した。


 まあこんなものかしら。と思い銀貨を受け取る。


 その時だった。ミネスに遠方から弓矢が飛んできた。


 それを男は斧で弾き返す。


 「助かりました。」ミネスは猫を被った。


 「いいってことよ。それより姉さん狙われてるっぽいぜ。」


 「はい、どうしましょう。」


 「任せな。ここまで送り届けてもらったんだ。見過ごすわけにはいかねえ。」


 男の荷物は斧だったのか。


 男はかなり、いや相当の手練れだとミネスは踏んだ。


 まさか...いやミネスの勘は当たる。


 「おれはレクシード。六英雄斧のレックスなんて呼ばれたりする。」


 なるほどミネスの擬人化魔法はしっかり効いているようだ。


 「レックスさん。お助けください!」


 これを利用しない手はない。ミネスは謎の敵からの攻撃をレックスに対応させる算段をつけた。


 「ああ、もちろんだぜ!麗しの姉さん!」


 さてと。探知魔法で相手の正体を把握するか。ミネスは厄介な敵を発見する。


 この気、どこかでもしかして、六英雄弓使いゼノ!?


 ミネスは六英雄二人に出会ってしまっていた。


 矢が飛んできたのはかなり遠くに位置するあの山脈からね。さすが、あいつにしか出来ない芸当だわ。


 そして、レックスも気づいていた。噂に聞く超長距離の攻撃を可能とし、尚且つあの精度の弓を放つ者。


 ゼノしかありえない。と。


 直接の面識はないが、何故彼女を狙う。彼女は一体何者だ?そんな疑問符がレックスについた。


 ゼノに対しては物理的に攻撃を防ぐしか手立てはない。そうレックスは踏んだ。


 ゼノは近距離戦でも決して弱くはないが、護衛に相当な実力の黒い剣士を連れているそうだ。


 レックスの判断とミネスの判断は一致する。


 「逃げましょう!」二人は同時に叫んだ。








 レックス達はなんとかゼノから幾戦も降り注ぐ弓矢を回避、撃ち落としながら逃げおおせた。


 レックスはこう思った。この女何かあるな。そして、レックスはある提案をする。


 「お姉さん。俺を護衛に雇いませんか?」


 レックスは自ら監視をすることでその動向を見張ろうとしていた。


 「ええ、お願いします。」


 ミネスは正体がばれた時のことも考えたが、この戦力を上手く使えば戦闘では申し分ない。そして、道案内も必須だ。


 よって、魔人と六英雄の奇妙な協力関係が出来た。






 レッズ達は時間の限り各々のパワーアップに励んでいた。


 レッズは剣と気の修練。キーナは魔法の修練だった。


 レッズとグレスは木刀で稽古する。


 「チェリャー!!」


 「うおおおおお!!」


 「カン!カキン!」


 レッズの一撃は重いが、グレスの剣の精度も抜群だ。


 キーナは二人の達人の剣戟に息を呑む。


 勝者は


 レッズだった。


 「おっしゃー!これで、6勝4敗だな。」


 「ぐぬぬ。明日は負けん!」


 「キーナ。ちょっと休憩にしようか。」


 「はい。お二人とも中へどうぞ。お茶を出しますね。」


 




 「レッズ貴様も強くなったが、俺も修行を積み直している。」


 「ああ、そうみたいだな。お前の剣は鋭いよ。気の流れもスムーズだ。」


 「それでだ。明日は各々愛用の武器で模擬戦といかないか?」


 「あの時のリベンジだな。受けて立つぜ。」


 「お二人ともあまり無茶はされないようにとだけ言っておきますよ。魔人との戦いもこれからなんですから。」


 「ああ、わかっている。そのためにも今お互いがどこまでやれるのか確かめておきたい。」聖剣の使い手はそう言った。


 「わかりました。お二人がケガされても私が治癒しましょう。存分にやってください。」


 「ああ、助かるよ。キーナ。」赤髪は頭をぽりぽり掻きながら感謝を述べる。


 そして、翌日二人は再び激闘をするのだった。






 次の日、レッズはいつもの大剣を肩に乗せ、グレスは愛刀の聖剣を構えていた。


 「では、ゆくぞ!」グレスが大きく地面を蹴って凄まじいスピードでレッズに迫る。


 「おっしゃー!!」レッズはグレスに大剣を振り下ろした。


 レッズはグレスの剣を大きくはじくように打ち払う。


 そして、どんどん剣戟が苛烈なものになっていく。


 キーナ、クレイツ、カレン、ドルスが決闘の見届け人だ。


 皆素晴らしい剣裁きに感嘆の声を漏らしていた。


 これが六英雄レッズさんとグレスさんの力。見習うべきだわ。


 カレンがそう心で呟いていた。


 「お二人ともがんばってくだせええ!」


 クレイツはこれは男の勝負だと言って楽しそうに見物している。


 見世物ではないぞ。とグレスは思うのであった。


 そして、グレスがやや優勢に見え始めた。


 しかし、レッズも負けじとくらいつき勝負の行方は。


 その時だった。レッズの意思とは別に魔人族の紋章が目に浮かぶのであった。


 この決闘いや、レッズに何が起こっているのか。


 この時は誰も見当がつかなかった。


 


 




 


 


 


 

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