第15話魔人族襲来

 魔人族はもうすぐ襲来する。しかし、魔人王レーネストのもとへ行くための秘宝もまだ十分でない。


 そんな中、北大陸が魔人族の被害を受けたと報告されたグレスはすぐさま指示を出す。


 「貴様とその従者は魔人族鎮圧のために北大陸へ向かえ。」


 「ああ、今度は魔人族が相手だな。」


 「レッズさん。現地民のためにも急いで行きましょう!」


 「ああ、そうだな。」


 北大陸にはレッズの故郷もある。


 そういう意味ではレッズも急いで飛んでいきたい気持ちがあった。








 北大陸に上陸した魔人は嗤う。「久しぶりの人間の領土だな。さあ、暴れるか!」


 「ヴァン様。この街の人間の処遇はいかがなさいますか?。」


 「知らん。興味がない。お前の好きにしろ。」


 「かしこまりました。」と言うと、その魔人は醜悪な笑みを浮かべた。


 「六英雄あたりが出てきてくれると面白いんだがなあ。」


 その時赤子をあやす女性がいた。赤ん坊は大泣きしている。


 部下の魔人ジースは目障りだと親子を殺そうとした。


 だがジースの魔の手が親子に届くことはなかった。


 キーナのビッグバンが発動したからだ。「あなた達が例の魔人ですか!?なんてひどいことを!」


 「おや、もしかしてサンライトのお二人ですか?六英雄大剣のレッズを擁しているそうですね。」ジースが忌々し気にキーナを睨みつけている。


 「何大剣のレッズだと?ジース。こいつは俺の獲物だ。」と主人は言う。


 「名乗り遅れたなあ。俺はヴァン。五大魔人なんて呼ばれたりする。」


 「何だと!」いきなり五大魔人とはなんともタフな戦いになりそうだ。


 「先手必勝!!」とヴァンは手甲鉤でレッズを襲う。


 レッズは大剣でそれを薙ぎ払う。


 「うひょー。すげー力だ。お前やるじゃん。」強敵を前にヴァンは無邪気に喜んでいる。


 「罪のない人の住む街を軽い気持ちで壊しやがって。許さねえ。」レッズの怒りは魔人の頂点に近い存在には届かないが。


 「弱え奴は死ぬ。自然の摂理だろ?お前たち人間は精神も軟弱なのか?」


 レッズは怒りを抑えながら冷静に闘うことを決めている。


 足元を掬われ、万が一の失敗をしないためだ。今回はレッズにとっての家族のような、いやそれ以上に大切な人の一人を連れている。


 したがって、レッズがやられるわけにはいかないのだった。


 キーナの方はジースと相対していた。ジースはモーニングスターを扱っている。


 あの細身でよくもまあ。キーナはそう思っていた。


 先制したのはキーナだ。「ビッグバン!!」


 以前より威力は増していた。これも修行の成果か。


 「この魔力量。人間にしておくには惜しいですね。」


 「あなた?何を言っているの?」









 ユーゼたちは壁画を見て一つの仮説を立てていた。


 魔人族は人間と祖先をたどれば同じところへ行き、途中で別れたのではないか。


 そして、世界の向こう側にある未開拓大陸の魔族と関わりをかつて持っていた。


 魔族との交流のことは古代文字でそれに近い内容が書かれていた。


 「これは驚いたね。世紀の大発見だ。」ユーゼは言う。


 「ええ。ですが、どうやって絶縁世界の向こう側とやりとりしていたんでしょうか?」カレンは素直に疑問を提示する。


 「それは私にもまだわからない。だが調べればもっと魔人族や失われた記録を取り戻せるかもしれない。」ユーゼはそうカレンに返したのだった。









 「人間と我々の祖先は同じなのですよ。ところがある時に分岐しましてね。まあとにかく才ある者は魔人になれるというわけです。」


 「私は魔人になんてならないわ。今の人間としての暮らしに不満はないもの。」


 「そうですか。それは残念です。あなたの魔力量はいまや五大魔人の方々にも匹敵するのに。」


 「知らないわ。あなたは私がここで倒すもの。」


 「ほう。ではやってごらんなさい!」ジースはモーニングスターをキーナにぶん回した。


 対して、キーナは強固な防御魔法フルバリアを使った。


 「この程度じゃ傷一つつきませんか。ではこれはどうでしょう。」


 「雷帝よ。我にその偉大なる稲光の力を貸したまん!」


 モーニングスターが電気を帯びた。


 さらに「身体強化!!」


 「これで行きますよ!」


 「フルバリア・ダブル!」


 尋常ではないその衝撃をキーナは受けとめられるのか?







 一方レッズの方は苦戦していた。やはり五大魔人は強すぎる。


 レッズは防戦一方になりつつも必死に状況を打開しようとしていた。


 レッズは大剣に気を流し込んだ。そう漆黒の大剣と呼ばれるものに。


 赤く埋め込まれた石が光り、レッズの目に魔人族の紋章の欠片が映る。


 「まさか。あんた。いやあなた様は。間違いない。その紋章は魔人族王家のものだ。」


 レッズは動揺を隠さなかった。だが、ここで攻撃を止めるのはもっと愚かだと、ヴァンに強力な一撃を叩き込んだ。


 しかし、「本来なら我らが主であるあなた様にご無礼をしました。」


 赤黒くなったその手甲鉤は真価を発揮したのかレッズの完璧な一撃を相殺した。


 「ジース。退散だ。」


 「了解しました。ヴァン様」


 キーナはなんとかジースを食い止められたのだった。


 二人の屈強な魔人は影をなくすようどこからともなく消えていく。いつものように。


 同時にレッズは膝から崩れ落ちる。


 「俺が魔人族王家?何かの間違いだろ?」


 「キーナがレッズの顔を掴みこっちを向かせる。」


 「私は!!私はレッズさんが魔人族の王家だとかそんなの関係なくどこまでもついて行きます!だから安心して。レッズさん。」


 「レッズはその言葉を聞いて我に帰る。」


 「ああ、そうだな。俺にはキーナもいる。クレイツやカレンさん。ドルスさんだって。」


 「そうですよ。私たちは大切なもののために戦うんです。レッズさん。あなたの強さが頼りです。」


 レッズは急に照れたようにあっちを向いた。


 しかし、キーナの方に向き直し。「任せろ!!」屈託のない笑みを浮かべ、そこにはもう不安の影がなくなっていた。


 レッズは気づいた。グレスだけでなく。こんなにも頼れる存在、相棒ができていたことに。







 その頃、五大魔人で会議が行われていた。そこには、グラン、ミネス、ヴァンの姿があった。


 そして、まだレッズ達に存在を知られていない五大魔人ベガ、アレンも遅れてくる。


 嘆きの魔人グラン、厄災の魔人ミネス、怒りの魔人ヴァン、悲劇の魔人アレン、苦しみの魔人ベガ、錚々たる面々だ。


 この五魔人が集まったのは他でもない。


 赤髪の戦士についてだ。それも人間と言われていたはずの。


 「結論から言うが、行方不明になっていた魔人族第二王子ガイア様が見つかった。」そうヴァンは告げる。


 「本当か?ガイア様の髪色は茶髪だったはずだが。」ベガは問う。


 「髪色に関してはわからない。だが、王家の紋章の欠片を目に宿しておられた。」ヴァンはありのままの事実を告げる。


 「なるほどな。恐らくガイア様だろうが。今さら何になる。あの方は人として生きると決めたのだろう。」


 「ああ、だが、俺は次期魔人王にガイア様を推す。」


 他の大魔人の注目がヴァンに集まるのだった。


 

 






 

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