第11話

私は崩れた家の前でただただ泣きじゃくるしかできなかった。

考えてみれば、光紗ちゃんの様子は昨日から明らかにおかしかった。


「あなたに何かあったら、もう耐えられそうにない」


今日も、目が覚めて話をしたときそんなことを言い出した。

こんなよく考えたら恥ずかしいセリフ、普段の彼女なら絶対に言わない気がする。

いつもだったら絶対に弱音なんかはかないのに私と別行動をするのを怖がったり、一緒に家の中を調べていた時も何か思いつめた顔をしていた。

まるで、もう生き残るのを諦めてしまっていたかのように。

そのことを思い出すことでかえって後悔が深まる。

たぶん、彼女はもう本当にいっぱいいっぱいだったのだろう。

思い当たることばかりが頭の中をめぐり、私はもう耐えられなくなった。

気づけば、変な笑い声をあげていた。


「なんだ私、やっぱり光紗ちゃんのことなんて好きなんかじゃ、全然なかった」


本当にその人のことが好きだったのならこんな些細な変化だって見落としたりなんかしないはずだ。思い返せば、私はずっとあの子のことを利用してきた

一番最初は、そう。昔に見た宇宙人と女の子のラブストーリーの舞台。

そのあとに教室でクラスの友達とああいう恋愛できたら素敵だねと言って話していた時だ。


「あんな恋してみたいよね。私が困ったときに颯爽と駆けつけてくれて、何事もないかのように助けてくれる。そんなかっこいい人いないかな~」


夢見がちだった当時の私は、そう言いながらクラスの女子たちとキャッキャと恋バナに興じていた。ただ、そこに水を差すものがいた。


「バカじゃないの。そんな都合のいい奴がいるわけないじゃん。頭の中お花畑?」


そういいながら、近くで話を聞いていた別のグループの女の子がが私たちに突っかかってきた。


「いいじゃない、夢見るくらい。乙女心がわからないの?」


そんな言葉に、ある一人の友人が反論するとその子と仲の良いグループ全体とけんかになった。


「大体から宇宙人がいるわけないでしょ。だいたい、白馬の王子様にあこがれてるのか知らないけど、あんたみたいなブスなんて馬面か本当に馬の王子様がお似合いよ」


 そんな程度の低い言い争いを始めると近くで見ていた光紗ちゃんが口を開いた。


「別に宇宙人はいてもおかしくないと思うけど? それに、容姿については別に美人かそうじゃないかなんてその人の主観でしかないじゃない。私は朔良のこと、かわいいと思うけどね。まあ、確かにあの劇の宇宙人はできすぎだとは思うし、今どき白馬の王子様って言っても、王政しいてる国なんてほとんどないけどね」


煽ってるのか、仲裁してるのかわからないことを言い出した。


「じゃあ証明して見せてよ。どこに宇宙人がいるっての。この中?」


そう言って、私のスカートを捲ってきた。とっさにおさえるけど、周囲にいたクラスメイトや友人たちにしっかりと見られてしまった。あまりの恥ずかしさに私は泣き出してしまう。


「最低、男子もいるのに。朔良に謝りなさいよ」


友人たちが、すぐに非難をしてくれるけれど、その子たちは動じない。

周囲の他のクラスメイトたちがにやけている。私はさらに泣いてしまう。


「なによ、別にみられて減るもんじゃないし、だれが見て喜ぶのよ」

「そう、見られて減るものじゃないなら、見せてよ」


そう言って光紗ちゃんは私のスカートを捲った子のズボンを下した。

これにはクラスの全員が唖然とした。突然の奇行にクラス全体に突然の静寂が訪れた。


「うん、別に同性の下着姿なんて見ても誰も得はしないよね」

「ふざけんなよ、この変態女」


顔を真っ赤にしてズボンを履くと、そう言って今度は光紗ちゃんのスカートを捲る。

でも、全然光紗ちゃんは動じない。なぜならスカートの下は黒いスパッツ姿だった。


「スカート捲りたいならいつでもどうぞ。でも、朔良のはやめてあげてね」


そういうとすたすたと自分の席に戻っていった。

その姿は舞台の宇宙人や王子様なんかよりもずっと、本当にかっこよかった。

それからなんやかんやあって喧嘩は収まり、その矛先は光紗ちゃんに向かっていった。

考えてみれば私はあのころからずっと、彼女を利用している。

自分が困ったとき、いつも助けてくれる都合のいい友人としてだ。

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