第22話 VS五十鈴


「準備は良いですか運殿」


「もちろん。イグニッション、フォークリフトモード」


 ナヴィによって洗練されたデザインとなったトラック装甲の鎧を纏う運。


(お、これはちょっとロボット感があってカッコ良いぞ? 何よりこのツノ。ナヴィ、男のロマンが解ってんな~)


「お兄ちゃん、五十鈴さん。準備は良い? 始めるよ」


 久遠の掛け声で両者ともに構えた。


「始めっ!」


 開始と同時に飛び出したのは運だった。


 初速から最高速度のロケットスタートで一気に距離を詰めてのショルダーチャージの構えであったが、それを迎え撃つ五十鈴は刀を鞘に納めたまま目を閉じて精神を研ぎ澄ませていた。


「居合い・閃」


 運が間合いに入った瞬間、五十鈴の瞳は開かれた。


(これはヤバイ! スキル自由旋回で真後ろに回避だ!)


 思考加速によりそれを察知した運は素早く後方に飛び退くが、五十鈴の剣先が僅かに早く運の右手の装甲を二つに切り裂いていった。


「流石は運殿、これをかわしましたか」


「そちらこそ。普通はこの装甲、切れないんだけどな」


「ふふ、精霊の力を宿した刃ですからね」


「それは厄介そうだ」


 二人は仕切り直しとばかりに構える。


(リーチ的に不味いな。どうしても居合いの間合いを攻略する必要がある。何か使えそうなものは無いか……?)


「どうしました運殿。こちらから行きましょうか?」


「いや? 今良いことを思いついたところさ」


 そう言って運は新たに二本の剣を両手に生成した。


「ワイパーブレード」


「ほう。剣も使えましたか」


「行くぞ!」


 再び最高速度で飛び出す運。間合いに入ると同時に繰り出される五十鈴の居合い斬り。運も素早く反応し片方の剣でそれを受ける。


「くっ! やはり受けるにはブレードの強度が足りない、が!」


「!! しまった! 一本の剣は下から居合いをいなす為の剣!」


 五十鈴の居合いを何とかいなし、すかさずもう一本の剣で反撃に転じる運。


「くっ! ウインドブロー!」


 居合い斬りを外し崩れた体勢のまま風魔法を放ち、その反動で後方へ飛び退く五十鈴。


「くそ! しかし体勢を崩したな!」


 間髪置かずそれを追い詰める運。


「ウインドブレード!」


 風の斬撃を放って運の追撃を防ぐ五十鈴。


(今突き放されるとまたあの居合いを掻い潜るのはちと厳しい! ここは突っ込む!)


「うおおおおおおっ!」


 幾つもの風の刃を装甲を盾に正面から突き破って距離を詰める運。


「くううっ!!」


 体勢を崩している五十鈴と剣を付き合わせること十数合、いよいよ押され気味の五十鈴に運の剣が届くと思われた時だった。


「アクセラレート!」


 瞬時に加速し後方に飛び退く五十鈴。運の剣先はその残像を切ったに過ぎなかった。


 両者はまた距離を取って構え直した。


「くそう。魔法が厄介だな」


「なるほど。運殿の弱点がわかりましたよ? 次はこちらから行きます!」


 五十鈴は一度剣を鞘に納め、右手を前に突き出した。


「サンドストーム!」


 運の足元から砂塵の竜巻が発生し、それが運の視界を完全に遮った。


「くそっ! 何も見えない! が、こちらにはスキル衝突回避支援システムがある……なにぃ!? 砂塵でミリ波レーダーが妨害されて何も見えねぇ」


「ウインドブレード!」


 そこへ背後から飛んで来る衝撃波が運に直撃した。


「くっ! 後ろか」


「まだまだ! ウインドブレード・乱打!」


 と思えば今度は前から、右、左と全方位から飛んで来る斬撃に運は翻弄された。


「思った通り! 運殿の弱点は遠距離からの魔法攻撃ですね!」


 運を取り囲む砂塵の周りを高速移動しながら斬撃を放ち続ける五十鈴。


「何も見えないし、手も足も出ない! こうなったら一度空に飛んで逃げるか」


「そうはさせません! アースバインド」


 突如足元から隆起した土壁により下半身を完全に拘束される運。


「くっそ! やべぇ。逃げらんねぇし、振り返れん!」


「言っておきますが、降参するまで一切手は抜きませんよ!」


 振り返れない運の背後から集中して斬撃を放ち続ける五十鈴。砂塵も継続したままだ。


「これは本当にやべえ。居合い斬り程じゃないにしてもこれ以上は装甲が保たない」


(五十鈴、まさかこんなに強かったとはな)


 一方的に不利な状況に合っても運は自然と笑っていた。


(これはもう、出し惜しみしている場合じゃねえな)


「運殿。意地を張っていると、そろそろ遠慮なくトドメ、行きますよ!」


 一時的に斬撃が止んだ。そして五十鈴は剣を鞘に納め、居合いの構えを取った。


「迷ってる暇はねえ。換装! ユニックアーム!」


 その一瞬の隙をついて運は切り裂かれた右手の装甲を換装した。ユニックとはトラックに設置されるクレーンのことであり、先端にはワイヤーで伸びるフックが付いている。


「運殿! トドメです!」


 五十鈴は身動きの出来ない運の背後から居合いの構えのまま飛び掛った。


「間に合えっ!」


 運はそれとほぼ同時に真上に向かってワイヤーフックを伸ばしていた。


「お覚悟! 居合い・閃!」


 放たれる五十鈴の居合い斬り。果たしてそこに運の姿は。


「なっ!? いない!? 何処に!?」


「上だ!」


 運は上空の樹の枝に巻き付けたワイヤーを巻き取り、その場を逃れていたのだった。


「くっ! 流石は運殿! しかし自ら居場所を明かすなど!」


「こっちを見たな?」


「!?」


 五十鈴が運のいる上を見上げると、運は余裕の笑みを浮かべていた。


「ヘッドライト・ハイビーム!」


「うっ! 眩しいっ! 目がっ!」


 運から放たれた強烈な光によって一瞬にして視界を奪われ怯む五十鈴。


「ようやく隙を見せたか」


 その隙に五十鈴の背後に回り込む運。


「くっ! まだっ!」


 闇雲に背後に剣を振り払いながら後方に逃げようとする五十鈴。


「逃がさない。ユニックアーム!」


 そしてその最後の斬撃をかわしながら、運はワイヤーで五十鈴の身体を完全に拘束したのだった。


 飛び退いた勢いのままに地に倒れた五十鈴はそのまま身動きが出来なくなった。


「はぁ、はぁ……参りました。完敗です」


「はぁ、はぁ……正直、こちらも苦し紛れだった」


「まさか運殿がこんな手を残していただなんて……」


「五十鈴こそ。間違いなく今まで俺が戦った中で……って、うわ、ごめん」


 運は五十鈴の姿に気がついて即座に背を向けた。


「運殿、どうかされ……へわっ!?」


 五十鈴は倒れ込んだ勢いで腰布パレオが捲れ上がっていたのだった。そして複雑に絡まるワイヤーによって拘束された五十鈴にはそれを自力で直すことは出来ない。


「み、見ないでくださぁい……」


「見てないよ! 今ワイヤーも外すから」


「んっ! いやあ、ワイヤーが擦れて……んっ!」


「ご、ごめん。後ろ向いてるから見えなくて」


「み、見ないでぇ……んんっ!」


 そこへ杖を振り被って飛んで来る久遠。


「このぉ! へんたああああいっ!!」


 その全力の一撃は完全に無防備の運の後頭部に直撃し、運は気を失った。


 こうして運VS五十鈴のラストマンスタンディングはまさかの久遠で終結した。

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