テイルダイバー
APURO
第1話
全ての物語が集う街、御伽町。小説から噂話まで物語なんでもある。それと、物語に付随する物も物語達同様揃っている。
御伽町に居れば、世界中の物語に触れることができる。それがこの町の最高のポイント。
人口は約280万人。人口の7割はクリエイターとクリエイター志望。17のエリアに区切られており、エリア毎に特徴があり、ずっと住んでいても飽きることがない。
中学生一年からこの街に住んでいる僕が言うんだから間違いない。
中央エリアには人類が誕生してからずっと生えていると言われている創世樹(そうよじゅ)が聳え立っている。高さは30メートルもある。普通のビルよりも大きい。
倒れる事はないだろうけど、もし、倒れてしまったら甚大な影響が出るのは間違いない。
創世樹には不思議な力があり、触れた者の才能や能力によって、創作道具を与える。その中でも、創世樹に認められた者には神創具(しんそうぐ)が与えられる。
神創具を所有する者は自身の想像力を使い、想像したものを現実世界に召還する事ができる。
その行為を実像化(じつぞうか)と言う。
遮光板や強化ガラスが町をドーム型に覆っている。それと、気温と湿度を一定にするシステムがあり、一年間ずっと同じ気温。雨は街の中に入って来ない。気候に左右される事無く生活が出来る。その全ては生活している僕らの為ではなく、保管されている本や美術品の為。
御伽町は物語中心で回っている。
僕と幼馴染で夢幻学園(むげんがくえん)の一学年上の莉乃(りの)姉はドラゴンの背中に乗って飛んでいる。
このドラゴンは僕が実像化したドラゴン。「オズの魔法使い」の登場人物であるブリキの木こりを上空から探している最中。
「賢ちゃん。まだ見つかんないの」
隣で座っている莉乃姉がうな垂れている。
莉乃姉は僕と居る時以外はしっかりとしている。でも、僕と居る時だけだらけている。僕の事を舐めているのだろう。それ以外理由が分からない。
グレーのロングヘアー、瞳の色はブルー、可愛いと言うより美人なフェイス。身長は170
Cmある。僕より10cmも高い。
ただただその点は憎い。いや、羨ましい。
それに出ている所は出ているし、引っ込むところは引込んでいる。頭脳明晰、運動神経抜群、性格も姉御肌。周りから見れば完璧な女性かもしれない。
でも、僕からしたらただの面倒な幼馴染でしかない。だけど、相手をしてしまう。だって、小さい頃から好きだから。でも、それに気づいてもらえてはいないだろう。
ずっと、何年間も遊ばれているだけなんだ。男じゃなく弟みたいな扱いで。
「文句言わずに探せよ」
「あれれ。お姉さんに命令するのかなぁ」
「仕事をサボっている人にそれを指摘する権利はないよ」
「うるさい」
莉乃姉は立ち上がって、ふらふらな足取りで僕の前に来ようとする。
「おい。危ないだろ」
止めようと莉乃姉の手を掴もうとした。しかし、僕のせいで莉乃姉のバランスが崩れて、落下されたら困る。莉乃の身も危ないし、背負っているリュックには色々と大事なものが入っている。だから、僕は手を掴むのをやめた。
「平気、平気」
莉乃姉は僕の前に来た。
「前見えないって」
「私は見えるでしょ」
「それはそうだけど」
「それでいいじゃん」
「よくないって。僕らの目的はブリキの木こりを見つけることだよ」
正論と言うか、任務だ。これは僕と言うより、上の命令だ。
「実力行使だぁ」
莉乃姉は僕に抱き付いてきた。柔らかい胸が僕の顔面を襲う。
「おい。止めろって」
これを誰かに見られたら僕は殺されるだろう。莉乃姉は夢幻学園の男子生徒達から絶大な人気を誇っている。それは学年問わずに。告白は3日に一回のペースでされている。そして、男子生徒達は告白を断られ撃沈している。
「いやだぁー」
莉乃姉は胸を顔面に擦りつけてくる。呼吸が出来ない。
あーどうにかなりそうだ。だって、僕も男だ。莉乃姉はその事を忘れているのか。それともそれを知っている上でやっているのか。痴女なのか。もしくは変態なのか。いやいや、そんな事を言うのは失礼だ。でも、どう形容すればいい。腑に落ちる言葉が浮かばない。
「ブリキの木こりを南エリアで発見。進行方向は中央エリアです」
耳に付けているインカムから創護社のテイルダイバー司令室に居る女性オペレーターの声が聞こえる。
「了解。こちら、巌谷賢(いわやけん)ならび未明莉乃(すえあきりの)は捕獲に向かいます」
「よろしくお願いします」
インカムの通信が切れた。
「そう言う事だから離れて」
「ちぇ。いい所だったのに」
莉乃姉は不機嫌そうに頬を膨らませて、僕から離れた。
何がいい所だよ。危うく気を失いそうだったよ。
「ふざけるのは任務が終わるまで禁止だよ」
「終わったらふざけていいの」
莉乃姉は目を輝かせている。なんで、そんなに目をキラキラさせる。びっくりだ。
「駄目だよ。子供かよ」
「お姉さんに向かって失礼な。あとでお仕置き確定」
「うるさい。行くよ。座って、ドラゴンの背中を掴んで」
「はーい。了解」
莉乃姉は僕の指示に従い、ドラゴンの背中を掴んだ。どことなく仕方がなさそうに見えるが。
今はそこを指摘しない。
「ドラゴン。南エリアに行ってくれ。指示はあとで出すから」
ドラゴンは吠えた。これがOKの合図だ。
ドラゴンは翼を羽ばたかせ、南エリアに向かって飛んでいく。
高速で移動しているせいで、顔面に風が直撃する。そのせいで息が出来ない。これがドラゴンで移動する難点だ。その代わり、あっという間に目的地には着くが。
ドラゴンが止まった。
ファンタジー作品で出てくるようなメルヘンな建物と自然がいい感じにマッチした街並み。
眼下に広がる景色はたしかに南エリアで間違いない。あとはブリキの木こりを探すだけだ。
「賢ちゃん。あれじゃない」
莉乃姉が中央エリアに続く道を指差した。
僕は莉乃姉が指した方に視線を送る。
「居た。莉乃姉ナイス」
ブリキの木こりが中央エリアに向かって歩いている。街の人々はコスプレをした人だと思っているのだろう。あまり気にしていないように見える。
「お!褒められた」
「ドラゴン。ゆっくりと下降して、ブリキの木こりを捕まえてくれ」
ドラゴンに指示を出す。
ドラゴンは僕の指示通りに下降していき、ブリキの木こりを前足の爪で傷つかないように掴んだ。
「OK。じゃあ、そのまま中央エリアの創護社に向かってくれ」
ドラゴンは鳴いて、周りに迷惑を掛けない程度に翼を羽ばたかせて、浮上して、中央エリアに向かっていく。
「あー終わった」
「終わってないよ。創護社に戻って、黒改したオズの魔法使いの世界にダイブして、ブリキの木こりを戻さないと」
《黒改》(こくかい)。本の表紙が黒く染まり鎖が纏わりつく現象。創世樹と対を存在、黒現樹(こくげんじゅ)から生み出された黒現具(こくげんぐ)によって、作品の内容を改変されると起こる。黒改されたままの状態で放置しておくと、その本がオリジナルになってしまい、人々の記憶も改変されてしまう。人類史そのままが変わってしまう恐れがある。恐ろしい現象。ごくまれに黒現具を使用しなくても、自然発生する事もある。それにこの黒改から元の状態に戻すにはその作品の正しい内容を覚えていないといけない。
「たしかに」
「たしかにじゃないよ。行くよ」
「りょうかいー」
「適当に返事しない」
「叱られた」
莉乃姉は俯いて、落ち込んでいるように見える。自分が悪いんだから反省すべきだ。
僕はインカムのボタンを押す。
「ブリキの木こりの捕獲完了。黒改したオズの魔法使いとピノッキオの冒険を準備しておいてください」
「了解しました。ただちに第一ダイバールームに2冊とも運びます」
「お願いします」
僕はインカムのボタンから手を離した。
これからが本番だ。二つの世界に入るのは気合が居るな。でも、仕方が無い。それがテイル
ダイバーの仕事だから。
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