第41話 四季結界補修の日(4)
もうそのあとは和気藹々の優しい世界。
いつしか婚約破棄された令嬢同士が話を始めて、俺もその輪に入れてもらう。
一応同じ学校の令嬢だが、クラスも学年も違う人ばかり。
あの股ゆる女、男ならクラスも学年も超えて唾つけてやがったのか。はあ。
二桁の婚約破棄って話を聞いた時からそんな気はしてたけどな。
「すみません、わたくしそろそろ……」
「わたくしも」
「談話室までご一緒しましょうか」
そして一時間すぎると、四級量の人たちがちらほ退出し始める。
えーと……四級量の人たちが約一時間ってことは……あの股ゆる女、四級量以下だったってこと? ヤバくない?
普通に訓練もせず生きている人たちだよ? 四級量って。
逆にどうやったらそれ以下になる?
「申し訳ありません、我々もそろそろ……」
「ええ、無理せんといてね」
二時間に差しかかりそうになると、三等級量の人たちが立ち上がる。
一気に半分以下の人数になった。
残りの人数は五人。
小百合さんも残っていたので、椅子を立ち上がって小百合さんの隣に「いいですか?」と断りを入れて座る。
「小百合様は二級量なのですか?」
「ええ。鍛練は怠っていないのですが、一級量にはどうにも届きませんの。ですが、
「小百合様でもそのくらいなのですね……」
良家のお嬢様の“鍛練”でも、いって二級量なんだ。
ってことは、俺って結構無茶な霊術、霊符作りしてたってこと? え? 自覚なかったな……。
「美澄様! 大変です!」
「どうしはったん? そないに慌てて」
「玄関の結界符が破かれて床に捨て去られています! 討伐隊を呼びましたが、近くで食猿の鳴き声を聞いたという者が出ました! ここは危険です! すぐに結界補修を中止して、談話室の皆様をこちらに避難させませんと!」
「……わかりました。すぐにこちらに皆はんを戻してください。使用人も全員、大広間に集めてくださいな。全員が集まったら結界を張ります。水と食糧もすべて運び込み、討伐隊が食猿を討伐後速やかにお帰りいただきまひょう」
美澄様が飛び込んできた使用人に淡々と命じて、水晶に触れる。
思わず小百合さんと顔を見合わせてしまった。
玄関の……あの
「あの、その結界霊符が破かれたのは――内側から、ですか?」
思わず聞いてしまった。
だって、そんな馬鹿な真似する奴、一人しか心当たりねぇし。
使用人は困惑の色を見せつつ、こくり、と強く頷く。
まあね、外には霊符は貼ってなかったもんね、内側からに決まってるよね。
「つまり内部にそんな阿呆な真似する
「美澄様、犯人を先に捜すべきではございませんか? そのような者を結界の内側に置くのは危険です」
「場所の記憶を覗く霊術があるさかい、犯人探しは後日でもできる。今は犯人含めた全員の安全が最優先どす」
小百合さんがほんの少し恐怖を滲ませながら進言したが、美澄様の判断は犯人を生かして後日捕えること、らしい。
ま、その方が後味悪くない。
どうせ八つ当たりで結界霊符を破ったんだろうけど、食猿の話聞いてなかったのか、自分は絶対に大丈夫だとあの無駄に自信満々な頭で思ってたのか。
馬鹿のやることはどうしても馬鹿らしい。
「食猿は危険度赤の神格級どす。舞はん、悪いんやけど、結界張る時手伝ってくれへん? まだ霊力量に余裕あるやろ?」
「はい! え! むしろ結界霊術を教えてくださるんですか!? やりますやります!」
「まあ、心強いお人やわ〜」
絶対すごい! やるやるやらせてくださいー!
わぁい、とはしゃぐ俺に、ドン引きの小百合さん。
「急ぎ! 籠城戦やで!」
「は、はい!」
「結城坂様、わたくしたちも談話室の皆様をこちらの大広間にお連れするのをお手伝いいたしましょう」
「あ、待ってください。それなら私は玄関の結界霊符を追加で貼ってきます」
「へ?」
小百合さん、良家令嬢とは思えない声出しだな。
ははは、俺に任せろ!
結界霊符、弱いやつなら量産してきたぜ!
なんでかって? ……霊術と霊符の存在を知ってから夢中で勉強して練習してたやつを、美澄様に売りつけられないもんかと思って持ってきていたのだ!
約五年分の結界霊符だよ!
「っていうわけでいっぱい持ってきたので、弱い結界の霊符なんですけどないよりマシかなって」
「せやね。ぜひ貼っつけてきてくれる? でも、食猿近くにおるらしいからほんま鳴き声聞こえたらすぐ戻ってくるんよ」
「わかりました! ……えっと、でもその、食猿の鳴き声ってどんな声なんですか?」
「ホォーホォー、という、鳥に近い鳴き声やそうよ。精神に干渉する鳴き声やさかい、長時間聞かん方がええわ」
「わ、わかりました」
鳴き声までヤベェのかよ、食猿って。
っていうか、そんな相手を討伐部隊の人たちはどうやって倒すのだろう?
滉雅さんたち、大丈夫?
……いや、俺がそんなこと心配するのも失礼だろ。
討伐部隊の人たちはプロだぜ?
「美澄様、これもお渡ししておきます。どうかもしもの時は迷わずお使いください」
「これは?」
「『自動防御』の……守りの霊符です」
その場の他の小百合様を含めた四名と、呼びにきた使用人にも手渡す。
十枚持ってきたから、残りは美澄様に全部渡した。
「ええの? 舞はんの分は」
「私はもうすでに腕に巻いておりますので、大丈夫です! では、玄関に行ってまいりますね」
「お願いね」
「はい!」
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