殉礼 日本一ヒトが死ぬ心霊スポット
鉈手璃彩子
1.鎌野歪
【怪談】廃ホテル
これは、僕の高校の同級生のMくんから聞いた話です。
Mくんとは最近、たまたま会う用事がありましてね。僕がこういう怪談語りの活動してるの知ってくれていて、いやー実は俺もちょっと話あるんだけどさーなんて言って、聞かせてくれた話なんです。
具体的な場所はちょっと伏せるんですが、Kさんの家の近くに、大きなホテルの廃墟があるらしいんですね。山の中なんですけどけっこう敷地が広くて、地元では有名な場所だそうです。
いつの頃からだか、Mくんの中学の先輩とか、地元の友達とか――まあいわゆるちょっとやんちゃな子たちですかね。そういう子たちのあいだで、ある遊びが流行り始めたんです。
遊び。
その廃ホテルに忍び込んで、ある場所で写真を撮る、っていう、よくある度胸試しですよね。
で、そうすると、かならず心霊写真が撮れるんだそうで。
どんな写真だよって僕、聞きました。そしたらですね、なんとMくん見せてくれたんですよ。心霊写真。
いや、気味悪かったですよー。
使い捨てカメラの写真なんですけど、まあたしかに、なんていうか写り方が変なんです。明らかにおかしいんですよ。
うん、これはしゃべるより見たほうがわかりやすいかな。
写真は掲載許可をもらいましたので僕のSNSにアップしてますんで、よかったらご覧ください。
ただし、完全自己責任で。お願いします。
【閲覧注意】廃ホテルで撮れた心霊写真
でですね。
実は話ってのは、ここからなんです。
そのMくん自身、廃ホテルに行ったことがあるらしいんですよ。まあ、写真持ってるんだから、自分で撮ったのかな、って思いますよね。そうなんです。中学のときの先輩がけっこう怖い人で、後輩たちに肝試しをやらせてたらしくて。中学卒業してからもその辺の後輩見つけてはそういう遊びを強いてたんです。それでMくんも一回、高校一年のときかな、その標的になっちゃったんですって。理由はわからないって言ってました。いやもう、無差別テロですね。笑
で、そのとき先輩と、Mくんと、MくんのともだちのOくんが一緒に廃ホテル行きました。
夜の八時ぐらいにコンビニで待ち合わせて、そこから三人で山登っていったそうなんですけどね。なんと先輩、廃ホテルに着いたと思ったら入り口で立ち止まって、俺はここで待っててやるからふたりで目的の部屋まで行って写真撮って来い、って言うんですって。へ? ってなりますよね。そんなん、酷いじゃないですか。でも先輩はいわゆるバチバチのヤンキーで、逆らうとあとが怖いから、行きたくないとは言えないんですよね。しかも見張りが必要なんだとかみんなやってんだとかって言われたら、もう言い返せなくて。MくんとOくん、泣く泣くふたりでホテルに侵入して。
今までにも廃ホテルで度胸試ししてる人はたくさんいましたからね、Mくんも「撮れる」場所のことは噂に聞いてうすうす知ってたんですって。とある階の――これもちょっとぼかしますけど、ほかのとこと変わらない、ふつうの客室だそうです。
ただ入ってちょっと異様に感じたのが、その部屋の、ドレッサー? っていうのかな。あるじゃないですか、鏡があって、ちょっとした机になってて、ドライヤーとか化粧とかする、あのコーナー。そこにお花が生けてあったんですって。ワンカップの空き瓶を花瓶にして。造花だと思うって、Mくんは言ってましたけど。Oくんとふたりで気持ち悪いなあ。なんて大きい声で言い合いながら。
もう、テンション上げるしかありませんからね。
それですぐ帰りたいから、すぐ写真を撮ったんですって。もう急いで撮ったからピントとかぜんぜん合ってないだろうけど、五枚ぐらい、テキトーにばーっと部屋撮って。Mくんがカメラ持ってたから、Oくんの姿も撮って。
撮り終わった瞬間ふたりともダッシュ。我先にと、逃げるように入り口まで戻ったそうです。別にその部屋でなにか起こったわけではないんですけど、とにかくホテルのなかにいるのがすごい嫌だったと。
先輩でも良いから早く人に会いたいって。
そんな思いで入り口まで、戻ってきたんですね。
そしたら。
先輩がいないんですって。
――は?
ってMくんもOくんも、ぽかーんと口開けたまま、ストップしちゃって。
十秒ぐらいしてから、くそ! やられた! って膝を打ちました。ようするに先輩、俺らを騙して帰りやがったって。そう思ったそうです。
まあワルい先輩ですから。それぐらいのことはしてもおかしくないですよね。
そうなったらもうそこにいてもしかたないので。
MくんもOくんも先輩に対する暴言を吐き散らかしながら、すぐその場を後にしたそうです。
それで翌日。さすがに先輩からなんか電話とかメールとかあるだろと思ってMくん、身構えてたそうなんです。なんて言ってくるかなとか。どう反応してやろうかなとか。あちらからしたら、完全に騙してやったわけじゃないですか。それが悔しくて、なんとか冷静にならなきゃなー、なんて思ってたんです。
ところがね、あの日以来いつまで経っても、先輩からの連絡がいっさいなかったんですって。とはいえこちらから連絡とるのも正直避けていました。極力関わりたくないですから。Oくんのほうも同様で、先輩から音沙汰なく、会うこともない。
それで一ヶ月ぐらい経った頃でしょうか。
その先輩が亡くなっていたことを、これまた別の先輩から聞いたそうです。
Mくんもそんなに詳しくは教えてもらってないらしいんですけど、どうやら直接の原因は車のひき逃げらしくて。
いつ事故に遭ったかってのは、はっきりとはわかってなくて。ただ遺体が見つかった場所っていうのが、Mくんたちの住んでる町から十キロ近く離れた別の県の、山道だったそうなんですよ。
……。
あの夜、俺とOと一緒に廃ホテルまで行った先輩は、どっちだったんだろな。って。
Mくん僕に、そう言ってました。
心霊写真、見てくれましたか。みなさん。
見てくれた人はわかると思いますが、おかしいですよね。
そうなんですよ。
入り口で待ってるからって。
先輩たしかにそう言いました。
MくんもたしかにOくんとふたりで廃墟探索してたって。Oくんにも、僕その場で電話してもらって、一応確認したんですけど、その記憶に間違いはないと言ってました。
じゃあ、この写真に写っている人はなんなんでしょうか。
この、心霊写真の撮れるという部屋で撮られた五枚の写真、全部に写っている笑顔の先輩は。
……なんなんでしょうかね。
「廃ホテル」というお話でした。
ありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます