第40話 ダンジョン②

「すごい……!」


 フアナはバルタザールの戦う姿を後ろから見ていた。


 フアナたちが三人でやっとの思いで倒してきたモンスターをバルタザールは一人で楽々と倒していく。


 バルタザールが強いことはなんとなくわかっていた。でも、こんなに強かったなんて。ちょっとしたら、叔父さんより強いかも。


 剣を振るバルタザールの姿は美しい。まるで流れる水のよう。


「バルタザール……。底が知れませんね……」


 声に振り向けば、フェリが諦めたような辛そうな顔をしてバルタザールを見ていた。


「フェリ?」


 フェリに声をかけると、フェリには珍しい泣きそうな情けない顔を浮かべていた。


「いえ、羨ましくなるくらい強いなと思いまして。わたくしにもあの力があれば、どれだけの民を救うことができたでしょう……」

「フェリ……」


 フアナはフェリの思いを知ってる。フェリの生まれた場所がピンチだということも。


 なんとか力になってあげたい。フェリは大切なお友だちだ。お友だちのピンチに助けないなんて嘘だ。


 でも、戦争という大きな戦いの前では、フアナの力はものすごくちっぽけだ。とてもフェリを助けることはできない。


 フェリのために一族のみんなの命を懸けることもできない。フアナは無力。


 でも、そんなフアナでもフェリを助けたい。力になりたい。


 フアナはそっとフェリの手を握った。


「フアナ……」

「フェリ、大丈夫。フアナが一緒」


 フアナも何が大丈夫なのかはわからない。でもフェリは微笑んでくれた。


「ありがとうございます、フアナ」

「ん」


 フアナは頷くことしかできなかった。



 ◇



「まぁ、こんなところか」


 時間にして三十分ほど。次々と襲い来るモンスターたちを一人で倒し続けた。


 やっぱりバルタザールの体はすごいな。まったく疲れを感じない。それどころか、動いているうちにどんどん動きがよくなっている気さえした。もしかしたら、この体はスロースターターなのかもしれないな。


 ドロップアイテムもかなり手に入った。クロウラーの糸玉やジャイアントセンチピードの牙や甲殻、他にも鱗粉や錆びた剣などなど。これらは収納魔法の中に入れて、後で売却する予定だ。


「そろそろ行こうと思うが、大丈夫か?」

「ん」

「大丈夫ですわ」

「十分に休めました。ありがとうございます、バルタザール様」


 念のためフアナ、フェリシエンヌ、エステルの顔色を見るが、どうやら大丈夫なようだな。


「じゃあ、行くか」


 それから、オレたちはモンスターの掃討を再開した。


 やっぱりスタンピード寸前だったダンジョンはモンスターに溢れている。モンスターの集団と戦闘していたら、別のモンスターの集団が現れたなんて日常茶飯事だ。


 まぁ、そういった場合、オレも加勢してサクッと片付けるのだが。


 第二階層に降りると、モンスターの密度はさらに増した。ゴブリンがホブゴブリンに代わるなど、一部モンスターが上位種になっているのも脅威だ。


 フアナたちは大丈夫だろうかと思っていたのだが、オレの予想に反してフアナたちはモンスターと戦い勝っている。


 おそらく、今までのモンスターとの戦闘を経て、それなりにレベルアップしているのだろう。ダンジョン攻略の最初の頃よりも動きがいいくらいだ。


 そんなこんなで途中で休憩を挟みつつ、オレたちはダンジョンの最下層である第三階層の最奥までたどり着いた。


 目の前にあるのは、洞窟には不自然な錆びた鉄の両開き門扉だ。この先はボス部屋である。ダンジョンのボスはタイラントセンチピード。巨大な暴れん坊ムカデだ。


「覚悟はいいか?」

「ん」

「いつでもかまいませんわ」

「どうぞ、ご随意に」


 まぁ、今のフアナたちなら楽勝だろう。オレは高みの見物かな。


 なんて思いながら、特に緊張することなく扉を押す。ギギギッと錆びついた嫌な音を立てながら、しかし扉は軽く開いた。


「なっ!?」


 そこでオレは驚愕することになる。


「タイラントセンチピードが二体!?」


 なんと、通常は一体のはずのボスが二体いたのだ。これもスタンピードが近いからか? なんにせよ迷惑なことだ。予定が狂う。


「フアナたちは右のを頼む」

「左はどうするのですか!?」

「オレが片付ける!」


 フェリシエンヌの悲鳴のような問いかけに冷静に答える。


 さすがにタイラントセンチピード二体はフアナたちには厳しいだろう。一体はオレが受け持つことにした。


 タイラントセンチピードが、その大きな牙をガチンガチンッと打ち鳴らして威嚇していた。その見た目はたしかにボスに相応しい威容を誇っているように見える。でもキミは所詮は序盤のダンジョンのボスでしかないんだ。分を弁えろ。


「大人しく逝っとけ!」


 せっかくだ。あれを使おう。エフェクトがカッコいいオレのお気に入り魔法だ。


 選択するのは闇魔法。その中でも最上級の魔法。ラスボスであるオレしか使えない魔法だ。


「プリズン・オブ・ジ・アビス!」


 その瞬間、ボス部屋の床に混沌の闇が広がった。

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