第33話 プータロー魔導師

「それにしても、まさかメルヴィも異世界転生できてたとはなー」


 正直、これには驚いた。

 フランと再会できた時はもしかするとと思っていたけれど、実際にこうして会えると感慨深い。

 まあ、三者三様で全く外見が異なるので、再会と言えるのかは定かではないのだけれど。


「ほんまですねー。これが俗にいう異世界転生かーってなりましたわ」

「私もそれなったー! あれ、ほんとに意味わかんなくて混乱しかなかったよー」

「混乱しまくって吐きそうになりましたわ。ただ、めっちゃ美人やしスタイルもええから、これはこれでアリやなってすぐに思いましたけどね」

「わかるわかる、私も」


 女性陣、割とすぐに異世界人としての自分を受け入れたらしい。

 まあ、西洋人風の要素が強い異世界人の容姿なので、スタイル含め東洋人的には憧れるものが多いのだろう。

 最初は抵抗があったが、こうして半月も経てばさすがに俺も受け入れられる。さすがに三十代のおっさんから十代後半くらいのガキんちょに変わったのは受け入れ難いものがあったが、慣れてしまえば悪くない。

 というか、良いことの方が多い。実際に身体は元気だし、バカほど食っても胃もたれもしないし、酒を飲みまくっても二日酔いしない。若いって素晴らしい。ちなみにこの世界では十五歳で飲酒解禁だそうなので、十代後半のガキんちょが酒を飲んでいても問題ない。

 ただ、あんまり酒が美味しくないので、浴びるように飲むといっても日本にいた頃みたいな量は飲めなかった。美味いのはワインくらいだろうか。麦酒はまだまだ精度が低い。


「で? こっちのメルヴィは、何をやってる人なわけ? 見たところ魔導師っぽい服だけど」


 俺はメルヴィの服装を見やった。

 彼女は魔導師風のローブの上から肩にアーマーを装備している。胸部をそこまで見せつけていたらアーマーの意味なんかないんじゃないかと思うが、まあファッション的なものかもしれない。


「今はプータローやってますねー。もともとはハバリアの近くにある魔法学校の教師やったみたいですわ」

「教師!? メルヴィが? それは……冗談だろ?」


 こんなエロい格好をした教師がいたら、さぞ男子生徒は毎日悶々としたものだろう。

 まあ、関西弁の御蔭でお色気効果は中和されているような気もするけども。


「ほんまですわ。ヤク売ってた人間がお子さんに物教えれるわけあらへんやん? 辞めてやりましたわ」


 それが、彼女が魔法学校の教師を辞めた理由らしい。

 悪いことをしていた割に、結構良心が残っているというか、何というか。俺もメルヴィの爪の垢を煎じて飲んだほうがいいのかもしれない。


「あちきに教えられることなんて、ヤクとかモクしかありまへんからねー。あと、規則正しい生活とかあちきには難易度高過ぎます」

「まー、生活リズム無茶苦茶だったもんな、俺ら」


 密売組織時代、それはもう夜型の生活が当たり前だった。

 昼くらいに寝て夜に起きる、みたいな生活だ。

 そんな人間が、いきなり早寝早起きは無理がある。

 ちなみに、俺とフランは割と自由に生活している。馬車サービスに勤め始めた当初は朝から出勤していたが、それも最初のうちだけで、そのうち昼くらいから出勤したり、もし採取の予定があれば朝から出勤したりとバラバラだ。

 ハッピーパウダーの売り上げを馬車サービスの方に横流ししているので、ろくに仕事はしていなくても売り上げだけはきっちりと上げている──ことになっている──ことから、割かし自由が利く。フランはこちらの宿主が早起きだったからなのか朝から働いているが、俺は基本的にゆっくりめの出勤だった。


「んじゃ、今から職探し?」

「そうなりますかねー。なにやりまひょか」

「んじゃ馬車サービスやる? 俺とフランの友達って言えばすぐ雇ってもらえると思うけど」


 今他に働き手いないし、と付け足す。

 それに、メルヴィも一緒に働いてくれるとなれば、色々助かる。

 販路確保や拡大、それに原材料採取と動きやすくなるだろう。

 今は限られた時間で採取を行っているが、ふたりが町で馬車サービスをやってくれているなら、俺はその間一日中外で採取ができる。そうすれば、新しい麻薬も調合できるかもしれない。

 探索と採取は同時にやっていると結構時間が掛かる。丸一日探索に費やせるとすると、新しい原材料の発見にも繋がるだろう。


「馬車サービスってタクシーみたいなやつでっしゃろ? 馬車の運転なんかしたことありまへんけど、あちきにできますかね?」

「できるできるー。私が教えるよ」

「ほんまでっか? そしたらあちきもそこで働こかな~」

「やったー!」


 俺が口説くまでもなく、フランが勧誘に成功していた。

 そういえば、このふたりって結構仲良かったんだっけ。女同士ということもあって、色々話す機会が多かったのだろう。

 ともあれ、グリフォン馬車サービスに新たな御者が加入するのは有り難い。というか、もう俺達が三人揃ったならとっとと乗っ取ってしまった方が早いかもしれない。

 その手立ても近々考えておこう。

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