第12話 売人生活で気分上々⇧⇧

 商店の店主が、ドン引いた表情で俺に金貨と銀貨が詰まった袋を差し出した。

 ジルベットさんから貰った諸々のものを商店に持って行ったところ、思っていた以上に価値が高い代物だったらしい。

 最初は完全に盗品か強盗だと疑われてしまったので、俺はジルベットさんに贈与されたことを伝え、さらに職員がジルベットさんに確認しに行く事態。ちょっとした騒動になった。

 ちょうどキマってハッピーになっていたジルベットさんが、俺を恩人だと言ってくれたので、事なきを得た。

 いきなり目立ち過ぎてしまった感が否めない。というか、そんなに価値が高いものだったのか。


「これってどれくらいの金額なの? 俺、頭打って記憶飛んでるから、価値がわからないんだよね」


 店主に訊いた。

 実際に金貨袋を渡されてもその価値がどれくらいなのかわからない。


「節制すれば半年は働かなくても良いくらいの金額ですよ……」

「……マジ?」


 店主が顔を青くして答えて、俺も顔引きつらせる。

 思った以上の金額になってしまった。

 この世界の価値観が全然わからない。高そうな絵やら壺やらアクセサリーだったので、そこそこ高値がつきそうな気はしていたが、まさかそんな金額になるとは。

 ジルベットさんが物の価値をわかっていなかったというのもあるが、ちょびちょび使ってもせいぜいひと月分くらいにしかならないハッピーパウダーの分量に対して、ちょっと貰い過ぎな気がしてしまった。

 今度会った時にもうふた瓶ほど差し上げよう。


「さすがにこれだけ高額ですと全て持ち歩くのは危険だと思いますので、一旦金庫でお預かりしましょうか?」

「おっ! そんなサービスもあるのか」


 それは有り難い。

 まさか銀行みたいなサービスがあるとは思ってもいなかった。

 そういえば、日本でも江戸時代くらいには銀行に近しいサービスがあったって言うもんな。

 とりあえず、三分の一くらい持ち出して、他は商店の金庫サービスに預かってもらうことにした。

 特に今はハッピーパウダーが規制されているわけでもないし、この世界では俺がしていることは悪事と認識されているわけではない。特に預けておいても問題ないだろう。

 今はまだ家無しだし、今夜泊まるところも決まっていない。そんな状態で大金を持ち歩くのは得策ではなかった。

 もっとも、拠点ができれば全部引き出してそちらの金庫に移し替える等した方がいいとは思うが。


「これでも二か月問題なく暮らせるくらいの金額になるのか。凄いな、ジルベットさんの旦那さん」


 家も大きかったし、ジルベットさんも不自由なく暮らしているように見えた。それだけ稼いでるなら不倫も好き放題したくなる気持ちもわかる気がしなくもないが、それでジルベットさんが傷付いているなら、仕方ない。

 俺はあくまでも人をハッピーにして、そのお代としてジルベットさんから御礼の品を貰ったに過ぎない。彼女と旦那には心から感謝しつつ、これを資金源にして今後の活動に充てていこう。

 商店の店主に安宿を紹介してもらい、とりあえずひと部屋を一か月分押さえてもらった。それでも全然金は余っているので、本当に助かる。

 何だか、現世でも海外で取引する際はこんな感じで安宿を押さえていたな、と懐かしい気持ちになってしまった。

 ハバリアにいる間はこの安宿を拠点として動いていこう。町はそこそこ大きいし、まずは町全体を把握するところから始めた方が良さそうだ。

 寝床を押さえたら、今度は着替えの確保だ。今の俺は爺さんから貰った服しかないので、これ一着でずっと生活するのは嫌だ。

 服屋に行って、金貨袋を見せて適当に服を見繕ってもらう。

 有り難いことに、貴族向けの服の中には比較的スーツに近いものがあったので、黒シャツと黒ズボンの上下セットを一週間分と、それから部屋着も何着か購入しておいた。

 早速黒シャツ黒ズボンの上下セットに着替えて、気持ちを新たにする。

 うん、これでちょっと元の世界の俺に近付いた。

 とはいえ、外見が若い銀髪イケメンになので、完全にホストみたいな感じになってしまったが。それでも身なりが整うと、気持ちもシャキっとする。

 商店から紹介してもらった宿屋には共用の大浴場もあったので、風呂もそこで済ませた。これで身も心も服装も清潔になったので、これで心機一転して仕事に精を出せる。

 異世界の風呂事情が気になっていたが、町にはいくつかの大衆浴場があったし、宿屋にはこうして大浴場もついているので、そこまで気にする必要はなさそうだ。


「にしても、異世界の俺、マジでイケメンだな~」


 宿屋の部屋にあった鏡で自分を見て、思わずそう漏らす。

 日本でこの顔面だったらヤクなんて売らずに芸能人をやっていただろう。

 まあ、異世界にそんな職はないし、せっかく麻薬調合スキルがあるのだから──これが麻薬調合スキルなのかまだ把握していないが──その能力を存分に活かすつもりではあるけど。

 鏡の中にいる自分はまだまだ見慣れないが、これが今の俺だ。


「さて……んじゃ、早速異世界の皆さんをハッピーにしていきますか!」


 銀髪イケメンな自分の両頬をパンと叩いて、気合を入れた。

 見慣れていないとはいえ、これからはこの青年として生きていかねばならない。

 気持ちを切り替えて、頑張っていこう。

 俺は改めて自分をそう鼓舞して、異世界の町に出たのだった。

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