第15話

昨日のテレビの反響は凄かったみたいだ。

 フギンが用意した魔法競技場の前にはアルバロールの住民や来れる距離の村や街の住人達の長蛇の列が出来ている。

 魔法競技場の施設の大きさは人間界で言う陸上競技場程だ。かなりの人数が収容できるみたいだ。

 僕とフギンはテーブル前の椅子に座って、面接を始めた。

 一人目はコックの男だ。

「えーっと、料理が出来るんですね」

「はい。どんな料理でも作れまず。でも、他の街に配達するにはどうしても距離が遠くて」

「貴方、数年前まで魔王城でコックをしていましたよね」

 フギンは質問した。

「はい。辞めてからは色々な土地に行って修行していました」

「やはり、そうでしたか。どうにかできませんかね」

「そうですね。経歴も才能もありそうですし」

 これ程の人材を無駄にするのは勿体無い。どうにかして、活かせないものだろうか。距離が問題なんだよな。

「どうします?」

「……フギンさん。人間界のデリバリーって知ってます」

「あの出前とかの事ですよね」

「はい。そうです。移動魔法で配達するってのはどうでしょう」

「そ、それは面白いですね。移動魔法に長けている者達を大量に雇えばいけると思います」

「じゃあ、今回来ている人達の中で移動魔法に長けている者は全員採用しましょう。あと、この方法を使って、配達業も作りましょう」

 人間界にあるものを二ウムヘルデン仕様にすれば色々と役に立つな。

「そうですね。いいアイデアです」

「あ、あの私はどうなるんですか?」

 コックの男が訊ねて来た。フギンと二人で盛り上がってしまった。

「えーっとですね。あと何人かは料理関係の人達が来ると思います。その人達とチームを組み料理店を作りましょう。デリバリー限定の」

「デリバリーとはなんですか?」

「配達販売です。それも魔法で。それなら冷める事なく料理を遠い人にも提供できるはずなので」

「わ、分かりました」

「また後ほど連絡するのでお待ち下さい」

「あ、ありがとうございます」

 コックの男は僕らに頭を下げて、去って行った。

 一人目でこれだ。どんどん才能が見つかるはずだ。そして、その才能を活かせるアイデアが生まれてくるはずだ。きっと、みんなに活気が生まれてくるはず。


 一日目の面接が終わった。やっぱり、才能発掘をしてよかった。様々な才能に出会えた。絶対に今日出会った才能達はこの国を盛り上げてくれるはずだ。

 キアラの様子を見にレッスンスタジオに向かっていた。魔王城の廊下の窓から外を見る。

外はすっかり夜になっていた。建物の明かりで街全体が綺麗に見える。どこの世界も夜景は綺麗なものなんだな。

 レッスンスタジオの前に着いた。

 レッスンスタジオの中では汗を流して、ダンスの振りを練習しているキアラが居る。まだ下は向いているが。でも、ずっと練習してたのが分かる。昨日に比べて見違える程に上手くなっている。

 ダンスの振りの練習がひと段落するまで、ドアの前で待っておこう。途中で止めるのは悪い。

 キアラの動きが止まった。その後、水筒とタオルが置かれたレッスンスタジオの端の方に向かおうとした。そして、僕の方をふと見た。

 キアラは顔を真っ赤にして、こちらにやってきてドアを開けた。

「い、いつから居たの?」

 キアラはおどおどした声で質問してきた。

「ちょっと前かな」

「そ、そっか。でも、ドアを開けて入ってくればいいのに」

「邪魔したら悪いかなと思って」

「……あ、ありがとう」

「ダンス上手くなってるね」

「ほ、本当に?」

「本当だよ」

「……嬉しい」

「あ、昨日はごめんね。店に戻れなくて」

「いいよ。だって、色々と忙しかったんでしょ」

「まぁ、そうだね。衣装のデータは見たよ。あれでいいと思うよ」

 今朝、フギンからデータが送られてきたのを見た。露出度の多いデザインじゃなくて本当によかった。

「よかった……あのー仁哉って凄いね」

「なにが?」

「お父様の考え方を変えたり、国の人たちを盛り上げたり」

「いや、凄くなんかないよ」

「す、凄いの……本当に凄いの」

 キアラの声は力強かった。こんなふうに声が出せるんだ。ちょっとびっくりした。

「……そう。ありがとう」

 なんか照れて上手く言葉が出ない。我ながら恥ずかしいな。

「うん……うん」

「……あのさ。練習付き合うよ」

「ほ、本当に?疲れてるでしょ」

「大丈夫だよ。だって、僕は君のマネージャーなんだから」

「う、うん。じゃあ、練習付き合って」

「わかった。まずは水分補給して」

 キアラは頷いてから、水筒を取りに行った。

 僕は練習に付き合う為にレッスンスタジオの中に入った。

 

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