第47話 一緒に寝るのですか?

「えっその……私と一緒に寝るんですか?」

「ああ、そうだ。嫌なら無理強いはしない」


 でも、彼の瞳を見ているともっと近くで見てみたいという気持ちが湧いて出てくる……。


「お願いします」

「ああ……寝るだけだ。行為はしない。約束する」

「はい、お願いします」

「では、またメアリーの部屋で会おう。ポプリも持って来るよ」


 レアード様はそう言って、自室へと消えていく。私は自室に戻り、ベッドの上に座った。


「一緒に、か……」


 男の人と寝るのは勿論はじめて。そう言う行為は無しといってもやっぱり緊張する。


「……お風呂、入ろう」


 メイドが既に入浴の準備をしてくれていたので、割とすんなり浴室に入る事が出来た。浴槽に浸かるとお湯の温かさが身体に染み渡る。


「少し緊張、落ち着いてきたかも……」


 のぼせない程度に入浴を楽しみ、身体をしっかりと洗い流してお化粧もきれいに落とす。浴室を出た後は身体を綺麗に拭いて新たな下着と寝巻きに着替えた。


「入浴お疲れ様でございました。お飲み物はいかがなさいますか?」


 飲み物……いつもはお白湯やホットミルクと言った温かいものを飲んでいる。しかしながらレアード様の好みはどうだろうか?

 王太子妃としてそこは、しっかり振る舞わないと。


「レアード様は何が好まれるかしら?」

「ホットミルクはいかがですか?」

「わかりました。ではそれをお願いします。レアード様が部屋にお越しになられたら、その時に温かいものを持って来てくださいますか?」

「承知つかまつりました」


 うん、これで大丈夫な……はず。

 私はベッドの上に座り、ぼーーっと天井を眺めたり暗くなった外の世界を眺めたりする。

 

「真っ暗……」


 中庭の方へと近寄ると、月が見えていた。満月と半月の中間くらいだろうか? いびつな形だが、輝きは星々よりも上だ。


「王太子妃様。王太子殿下がお越しになりました」


 しはわらくして侍従がレアード様を引き連れて部屋へと現れた。レアード様も寝巻き姿となっている。


「メアリー、遅くなって済まないな。母上の様子を見に行っていたんだ」

「ご様子はいかがでしたか?」

「落ち着いているようには見えた。近頃胸が痛いようでな」

「痛み止めは飲まれておいでですか?」

「一応はな。あれこれ試しているみたいだが、薬によっては飲んだら逆に母上の体調が悪くなる物もあってな……」


 レアード様は私の隣に座り、そう息を吐きながら答えた。

 ここでメイドがホットミルクを持って来てくれたので、レアード様へと差し出す。


「頂こう。メアリー、ポプリも持って来たぞ」

「このポプリも一緒に置いて寝ましょう。良い眠りに期待できそうです」


 ホットミルクを少しずつ飲む。身体の芯から温まっていく気がする。


「美味しい……」


 ホットミルクの入ったカップを枕元の机に置く。するとレアード様はホットミルクの入ったカップを私へと手渡して来た。


「もう寝るのか?」

「すみません、疲労が……」

「そうか。俺もちょうど寝ようと思っていた所だ」


 2人、同じタイミングで布団を被る。私は無意識にレアード様へ背を向けていたけど、途中で向きを変えた。


「寝られるか?」


 レアード様と目が合った。そして近い。何度かキスを交わしているからこの距離感には慣れているはずだけど、それでもやっぱりどきどきする。


「た、たぶん……」

「狭かったらすまないな」

「それなら……大丈夫です」


 ベッドの広さは十分。そこは気にしなくても大丈夫そうだろう。


「おいで。背中向けて」


 レアード様が背中を向けた私を抱き寄せた。背中からお腹付近には彼の腕がある。


「良い匂いだ。ポプリからも良い匂いがしている」


 私の背中に何かあるような感触がある。おそらく、レアード様が顔を私の背中に埋めているような、そんな格好になっているのだろう。


「しばらく、こうしてもいいか?」


 レアード様からのお願いに、私はぜひお願いします。と答えたのだった。


「……」


 気がつけば朝を迎えていた。あれから私はぐっすり眠っていたらしい。疲労感もなく健康そのものだ。


「おはよう、メアリー」


 左側にはレアード様がいた。あれからずっと私の背中に顔を埋めて寝ていたのだろうか?


「おはようございます。よく眠れましたか?」

「ああ、おかげさまでぐっすりだ。まさか気がついたら朝を迎えるくらいに寝られるとは思わなかった」


 レアード様もぐっすり眠れたのは良かった。


「スレーヴ公爵夫人にお礼の手紙を書かねばなりませんね」

「そうだな。だが、ぐっすり眠れたのはポプリだけでない」

「?」

「お前のおかげでもある」


 にこりと笑いながら私の頭をぽんと何かを置くように撫でた。


「お役に立てましたら……幸いです」


 これからも、レアード様のお側にいたい。そう願わずにはいられないくらいの爽やかな目覚めだった。

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