第30話 雪合戦②
雪合戦。それは雪をボール状に固めて相手に投げつけ戦うゲーム。カルドナンド王国はよく雪が降り積もるので盛んに行われてきたゲームだ。
弟達はよく幼い頃から雪合戦していた記憶がある。
「メアリー、どうする?」
「レアード様……私は、その……」
「せっかくだ。してみないか? 運動にもなるだろう」
「……! そ、そうですね……!」
確かにはしゃぎまわれば運動にもなるだろう。私は童心に返り雪合戦を楽しむ事を決めた。
そうと決まればすぐ行動。という訳で応接室から雪がふかふかに積もった中庭へと移動する。到着してすぐイーゾルはぼふっと中庭に積もった雪の上にダイブした。しかもうつぶせに。
「ーー! ○×#□□ーー!!」
(何言ってるかわかんない)
ずぼっとうつぶせの状態から起き上がったイーゾルはつめてーー! でも雪うめえーーなどと子供のように叫んでいる。その姿にマルクとレアード様は楽しそうに笑っていたのだった。
「っし、じゃあはじめるか!」
マルクが積もった雪を握りこぶし大くらいの大きさに握ると、イーゾルに向けて投げた。雪玉はイーゾルの右肩にヒットし砕ける。
「おっ兄貴ーー!」
イーゾルも負けじと雪玉を作ってマルクに向けて投げつけた。彼の放った雪玉はマルクの顔面にヒットする。
「ちょ……! つめたっ」
「兄貴まだまだいくぞーー」
「くっそ、王太子様! あの、加勢をお願いします……!」
「マルクに言われたら仕方ないな……!」
イーゾルVSマルク&レアード様の構図で雪合戦が本格的に始まった。3人とも必死に積もった雪を雪玉に固めては相手に投げつけている。
しかも途中からマルクとレアード様組の方は役割分担と言うか、レアード様が雪玉を作り出来た雪玉をマルクがイーゾルに向けて投げると言う具合になってきた。そんな単独での戦いを強いられているイーゾルは木々に隠れながらヒットアンドアウェイを繰り返すと言う作戦を取っている。
とてもじゃないが、これはどう考えても私が出る幕ではない。いや、雪合戦したいとは言ったけどこれでは参戦するの怖すぎる……。
「姉ちゃんこっち手伝ってよ!」
そんな中イーゾルが私へとそう声をかけてきた。負けじとマルクが姉さんはこっちでしょ! と叫ぶ。
(え?!)
3対1になればイーゾルが不利だし……という事で私はイーゾル側へとついた。
「イーゾル、私が雪玉作るから!」
「おっけーー姉ちゃん!」
雪玉が当たりにくい木の裏に身を隠すと雪をかき集めてせっせと雪玉を作る。出来上がった雪玉はイーゾルが掴んでマルクとレアード様に投げていく。
「やっぱり役割分担大事だね、姉ちゃん」
「確かにそうね……ほら、出来たわよ!」
「へいへい!」
それから、最初に音を上げたのはマルクだった。肩で息をしながら両手をあげて降参の意志を示してくる。
「いやーー疲れた……ギブアップで」
「兄貴疲れるの早くない?」
「仕方ないだろ……王太子様はさすがでございますね……」
「体力には自信があるからな。王太子たるもの鍛えるのは必要不可欠だ」
その後は私も体力が切れてしまったので、最後はイーゾルとレアード様の一騎打ちとなる。木陰に隠れていたイーゾルもレアード様の前に出てきて、雪玉を両手に持ったまま見合っている。
「はっ!!」
両者同時に雪玉を投げた。そして両者ともに雪玉が身体にヒットする。
「……」
「……引き分け、ですね」
「そうか、メアリー……」
結果は引き分け。まさかの幕切れにレアード様は腰に手を当ててふふっと穏やかに笑う。イーゾルは雪の上にあおむけになり、手足をだらしなく伸ばして空を見上げた。
「あーー……! つっかれたーーでも楽しかったーー!」
イーゾルの子供のような叫び声が白に覆われた中庭中に響き渡ったのだった。
雪合戦後。弟達はレアード様の自室にてべしょべしょになったガウンを暖炉で乾かしていた。ホットミルクを飲みながら一息つく2人。その表情はとてもすがすがしかった。
「いやーー楽しかったわぁ……王太子様。今日はこちらで宿泊してもよろしゅうございますか?」
「おいイーゾル、しれっと泊まろうとするんじゃない。帰るぞ」
「だって兄貴帰ったらクソ親父がいるんだぜ? また喧嘩になったらどうするんだよ」
「それはそうだが……でも王太子殿下にご迷惑をおかけする訳には」
そうか。マルクは昨日とおとといに父親と喧嘩していた。確かに心配だ……。しかしながら貴族は基本王家からの許可がない限り、王宮には宿泊できないという決まりがある。
「わかった。宿泊を特別に許可しよう」
レアード様は快く弟達の宿泊を許可した。それを聞いてイーゾルはえ? マジで? と小声でつぶやきながら挙動不審な動きを見せ、やったーー! と両手を天へと掲げた。マルクも嬉しそうな笑みを浮かべている。
「あとで部屋へ案内させる。マルク、息抜きは必要だ」
「ありがとうございます。王太子殿下……!」
こうして2人は王宮でこのまま宿泊し、羽を休めたのち翌日の朝馬車に乗って帰っていったのだった。マルクと父親がうまくやっていけると良いのだが……。
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