第11話 アンナ視点①

 私はアンナ・クルーディアスキー。クルーディアスキー男爵家の令嬢だ。

 私は生まれた時から可愛いとずっとちやほやされてきた。クルーディアスキー男爵家は没落貴族でもないし男爵の中ではむしろ恵まれている方。私はひとりっ子というのも相まってずっと両親からはたくさんの愛情を受けて育ってきた。


「アンナは可愛らしいわねえ。どんなドレスでも似合うわ」

「ありがとうお母様!」

「アンナは美しい子だ。将来が楽しみだよ」

「ありがとうお父様!」


 小さい頃から可愛い。美しい。何を着せても似合う。将来が楽しみだ。そう言われて育ってきた。社交場へと行くと必ず目立って、周囲の貴族達からかわいいかわいい美しいと言われる。それが楽しくてうれしくて本当に仕方がなかったくらい。

 成長した私は貴族学校には行かず、家庭教師をつけてもらい彼女に色々と勉強を学んだ。勉強は嫌だったけど社交界で目立つにはそれ相応の知識もつけておかなければならないってお母様が言ったから仕方なく学んだ。


「アンナ、社交界で貴族の当主や令息達を相手するには頭がよくないとだめなのよ? 勉強はしっかり励みなさい」

「はい、お母様」

「あなたは可愛いわ。でも可愛い以外にももう何個か武器があった方が強いと思わない?」


 確かにそう。武器はあればあるほど良い。それは私にも当然理解できる。

 可愛さを、美しさを維持する為に私は嫌いな努力だってちゃんとこなした。お化粧に髪結いは流行をちゃんと取り入れて、ドレスだって極力私を引き立てるカラーリングにデザインのものを選んでいる。可愛いと言われる為にはちゃんと努力しないと!


 だけど、私は悔しい思いをした。それはフローディアス侯爵家の結婚式だった。

 一応私の友人であり肉体関係もある某貴族令息が、ウィルソン様の親しい友人だったという繋がりがあり私は結婚式に参加する事が出来たけど……その時の私は完全に脇役どころかいない者扱いだった。

 皆、花嫁であるメアリー様ばっかり見ていて、「可愛い」も「美しい」も全部メアリー様のものだった。


「ねえ、見て。メアリー様美しいわ」

「本当! 綺麗ねえ」

「美しい花嫁衣装だわ」


 何よ。あれのどこが可愛いのよ。地味な容姿をした不細工な令嬢じゃない!

 どこからどう見ても私の方がかわいいのに。ここにいる令嬢の中で一番かわいいのは紛れも無く私なのに!


「はっ、あれのどこが可愛いのよ」

「? おい、アンナ。どうしたんだよ」

「ウィルソン・フローディアス侯爵とメアリー・ラディカル子爵令嬢ね……覚えたわ」


 覚えておきなさい。この可愛いくて美しい私をいない者として扱ったその罪を!


「悔しい! 悔しい悔しい悔しい!」


 結婚式に耐えきれず、私は途中で抜け出した。こんな幸せに溢れて私に見向きもしない場所なんていたくない。

 家に帰ろうとしたけど、それだけではなんだかメアリー様に負けた気がして癪だから……いつも懇意にしている伯爵家の方の屋敷に向かう事にした。


(あの方に慰めてもらおう。ついでにメアリー様の噂を流しておこう)


 屋敷の門番に伯爵はいないかと尋ねる。しかし……。


「伯爵は留守です。フローディアス侯爵の結婚式に参列していますから」


 嘘でしょ、姿は参列者の数が多すぎて見えなかったけどいたの?!

 仕方ない、なら他の相手してくれる方を探そう。


 だけど、探し回っても皆結婚式に参列中か別の場所へと移動していて留守だった。


「あなた誰です?! ……まさか浮気相手じゃないでしょうね?!」

「ちっちがいます!」


 浮気を疑われて奥方に怒鳴りつけられる事もあった。何よりあんなブスなおばさんに怒鳴りつけられなきゃいけないのよ!? 

 はあ……どれもこれもメアリー様のせいだわ。あんなにちやほやされるだなんて許さない!


 でも神様は私に味方してくれた。結婚式から数日後。なんと、ウィルソン様は結婚式の後メアリー様とは初夜を迎えなかったと聞いた。

 勿論メアリー様に月のものが来たから……という理由は無い。これってチャンスじゃないかしら? と考えた私はすぐにウィルソン様に近づきアピールした。


「ウィルソン様ぁ。私、アンナって言います! ずっと前からお慕いしておりましたぁ」


 最初は相手にされなかったけど、あのおじさん、いや伯爵家の人達の力も借りたりしてメアリー様の悪評をウィルソン様に聞かせた所、徐々にウィルソン様は私に靡いてくれた。


「アンナ、そうなのだな。そんなに……あいつは酷い女なのか」

「はい……そうなんですぅ。私見てしまったもの。結婚式の時にメイドにきつくあたるメアリー様を……」


 そして伯爵家に招き酔いつぶれたウィルソン様を私が眠るベッドに移動させたら既成事実の出来上がり。

 本当は私は妊娠していない。けど、その方がより優位になると考えたからだ。


(ふふ、これでウィルソン様は私のもの……!)


 そしてメアリー様をフローディアス侯爵家から追い出す事に成功した。念には念を入れて、その夜の社交場にて彼女が浮気性だと噂も流しておいたのに。

 ……なんで王太子様と婚約しているのよーー!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る