第4話 配信②


「どうも、ヤタです。美少女です」


【あ、どうも】

【あ、どうも】

【どうも、あ】

【あ、美少女だ】


 初配信から一週間が経過した。

 あの日以来、連日配信を続けていくことで心身ともに配信とダンジョンに慣れていき、上層のモンスターは向かうところ敵なしだ。

 最初は一時間程度しか行動できなかったが、今はダンジョン内に満ちている魔素というスピリチュアルなものが身体へ馴染んでいき、なんと三時間も行動できるようになった。


「今日もスライム達をずっぽり倒していきますよ」


【綺麗なお口から汚い言葉】

【スライムがかわいそうに見えてきた】

【実際手っ取り早いしな】


「私のボディは疲れやすいのでサッと倒すほうがいいだけです。他意はないですよ? ……本当ですよ?」


 ずいっ、とリスナーたちへ顔を近づける。


 自分がされたら心拍数が上がるであろうことは熟知している。画面の向こう側とはいえ、これだけ顔が近づけば少しは効くはずだ。


【ちょ】

【おいバカやめろ】

【綺麗な顔近づけんな】

【やば惚れる惚れる……惚れた】

【あーあ、お姉さんのこと惚れさせちゃったね?】

【ゆ、ゆり……】


「ちょろいですね……お姉さんは正気に戻ってください」


 思いの外、効きすぎたようだ。照れ隠しで思わず生意気な子どもっぽい態度をとってしまった。


【この……キがっ!】

【ちょっと変な扉開きそうになった】

【おおおおおおち着けお前ら】

【お前が落ち着け定期】


 一旦、配信の雰囲気を仕切り直すために軽くを手を叩いた。


「はい、遊びはここまでにしてダンジョン行きますよー」


【はーい】

【はいせんせー】

【今日はどこいくんですかー】


「いい質問ですね。今日行くのは中層入り口付近のスライム狩りです。聞いたところ上層スライムより少し上質なコアが取れるとか」


 中層に生息しているデミスライムというモンスターは身体の一部が流体ではなく岩や鉄などの固形になっており、コアにもその成分が含まれていて武器の素材になる。それなりに需要もあるため、相場も1500~3000エルと上層の数倍だ。


【ほう、中層ですか】

【たいしたものですね】

【デミかー、あいつらの体当たり痛いから気をつけろよー】

【駆け出しの頃に骨折したわ】

【ずっぽりいけそうにないが】


「まあ私もそこまで馬鹿じゃありません。しっかりと新技を覚えてきたんですから」


 当然、デミスライムは強化した素手程度では逆に怪我をして反撃をくらうのは予想できている。

 俺はルミさんから「市販の簡易計測器でも魔力量の底が見えませんね……実は大物だったりします? どこかの王族とか」と言われたので魔力量には自信がある。

 実際にその魔力量を活かしたゴリ押しの魔法を覚えた。制御はかなり甘いがギリギリ実戦で使えるとルミさんにも見せ、確認はしている。


「あそこが中層の入り口ですね。おお、やはり上層より人が少ない」


【上層が多すぎるだけ】

【つか一週間で中層は早いな】

【ヤタちゃんまだ子どもなんだから無理すんなよ―】

【おいバカ】


「子どもじゃないんですけど!? 心外ですっ!」


 つい脊髄反射で反応してしまった。


【ぷりぷり怒らんで】

【はーお姉さん怒った顔もすき……】

【ネキは何でも好きだな】


「っとそんなどうでもいいことに反応してる場合じゃなかった」


 コメント拾いもいざ戦闘が始まればできなくなる。

 深呼吸をし、精神状態を安定させる。魔法の制御はとにかく精神の影響を受けやすい。

 まだ荒削りの新技は特に気をつけなければならない。


「デミスライム捕捉……魔力を安定、安定、安定……両手の形へ制御……」


 ぶつぶつと小声で口に出しながら魔法を発動する。

 口に出すとイメージしやすく、自分の声で脳が活性化し、制御が乱れにくくなる。


【緊張する】

【え、これなに】

【これ、手か】

【いやいやこんなん魔力足りないだろ】


「ふうっ……できました。さあ行きますよっ!」


 強化魔法を全身にかけ、デミスライムたちへ目掛けて全力疾走。


「むんっ」


 右腕を振り抜くと魔法で作られた自分の上半身ほどもある拳が追従して振るわれる。


 岩を砕いたような打撃音。

 同時に壁から水っぽい音も響き、何かがべちゃりと落ちた。


 俺はすかさずもう片方の腕を振り抜いた。

 先と同様に反対側の壁にもべちゃりと水風船が潰れたような音が鳴る。


「よっとと、あった」


 砕け散った岩の近くにただのスライムと化したデミスライムが瀕死状態で落ちていた。


「ずっぽりと……ヨシッ! デミスライムのコアゲット! あっちにもう一個取りに行ってきまーす」


 コメントが静まり返り、数十秒ほどすると再び流れ出した。


【……】

【……】

【……ハッ!】

【ちょっと夢見てたわ】

【幼女が"魔法剛拳"でデミスライムワンパンする夢見たわ】

【俺も】

【あっしも】

【私も】

【某も】




【これは勢い出るぞ、今のうちに古参名乗っとけ】




 視聴者数126人

 投げ銭:6500エル

 登録者数:190人


 この日を境に少しずつ噂になっていく。

 ビギナー用ダンジョンには魔法系脳筋幼女が居ると。

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