五組目 助手と博士
「なるほど! ここが例の部屋か!」
「……みたいですね」
『セッ○スしないと出られない部屋』。それはセッ○スしても構わないくらい互いのことが大好きな両片想いの男女を閉じ込めセッ○スさせほぼ強制的にくっつけることが大好きな淫魔が創り出した度し難き空間である。そこではセッ○スしなければ出られない代わりにあらゆる安全が確保される場所なのだ。
その部屋に連れてこられた被害者のはずの博士は手に持った大きな鞄を床に起き興味深そうに眼鏡越しに瞳を輝かせ部屋を見渡している。
「確かに出入り口は見当たらない。広いベッドに風呂場、トイレにキッチン……ふむ。生活するのには困らなそうな設備が整っているね。全部ピンクなのはどうかと思うがね」
「本当だ。……アホな目的で作られた部屋じゃなければもっといいんですけどね」
はしゃぐ博士の後ろでキッチンの冷蔵庫の中身を確認しているのは博士の助手である。五年ほど前から弟子入りし主に博士の身の回りの世話をしている。
「材料も一通りありますね。何か食べますか」
「そういえばお昼時だったね。ここにいる間は食事の必要はないらしいが……せっかくだし作ってもらおうかな。うーんと……アレがいいな。君が前作ってくれたあの……野菜と肉を煮込んだやつ」
「説明が大雑把過ぎますよ。……ポトフのことですか?」
「そうそれ」
「……分かりました。全く本当に研究以外興味ないんですから……」
色々と雑すぎる博士に呆れながらも助手が料理をしようと包丁を持った時、博士がポンと手を叩く。
「ああそうだ。試したいことがあったんだ」
「……包丁で自分の体の一部切るのは駄目ですよ」
「えー、ダメ? ここでは自害出来ないと聞いたから実証したかったんだが」
「駄目です。一応博士も生物学上は女性なんですから自分の体は大事にしてください。……ほら。切れません」
不満げな博士を納得させるため助手が自分の腕に軽く包丁を滑らせる。しかし肉どころか皮すら傷つかず【痛そうなのは嫌なのでやめなされ!!】とシステムメッセージらしきものが表示される。
「なるほど。自害は無理そうだ。いや、私は死ぬつもりは毛頭ないけど」
「俺だってないですよ。さっ、用事は済んだでしょう。料理の邪魔なので出ていってください」
「手伝おうか?」
「博士は料理ドヘタクソなのでいいです」
「なんだとう! 事実だが傷つくぞう!」
と、仲のいい会話をしながら二人はお昼ご飯を済ませるのだった。
◇◇◇
「……それでどうするんですか」
「何がだい?」
「いや……この部屋から出るんですよね?」
「出ないよ?」
「はい?」
博士の予想外の返答に助手は驚いて皿洗いをしていた手を止める。すると博士はああ、言葉が足りなかったねとベッドの上で足を組んだ。その仕草と雰囲気はミステリアスな大人の女性そのものだが博士のアレな面をよく知っている助手には『あ、また変な事言い始めるなこいつ』という厄介事の前触れでしかない。
「いや、発言を訂正しよう。しばらく出ないよ。せっかく衣食住整った設備があるのだから利用しない手はない。丁度手に持っていた実験道具の入った鞄もあることだし閉鎖空間で立証したい実験がある。最低でも二、三ヶ月は滞在するよ。君は元々住み込みで助手をしているんだから問題ないだろう?」
「……ベッド一つしかないんですけど。床で寝ろと?」
「一緒にベッドで寝ればいいだろう。形が悪趣味とはいえこんなにバカデカいならサイズ的には問題ない」
「……本気で言ってます?」
「ハハハ。もし襲いたくなっても我慢するんだぞ? 研究が終わるまではね」
「……誰が襲いますか!!」
博士のからかうような視線から目を逸らし助手は黙々と料理の後片付けをする。
こうして博士と助手の奇妙な『セッ○スしないと出られない部屋』同居生活が始まったのである。
◇◇◇
「うんうん。確かに快適な空間だったね。研究も捗ったし満足だ」
「はあ。よかったですね。……まさか半年もここに住むことになるとは思いませんでしたよ」
部屋に閉じ込められてから早半年が過ぎていた。予定よりも長引いたがようやくこのピンク空間から出られることに助手は安堵し溜め息を吐く。
「後は出るだけだ。というわけでセッ○スしようか助手君」
「えー……」
どこまでもマイペースな博士はムードもへったくれもないままベッドインの提案を助手にする。これには助手のテンションもだだ下がりである。
「えーとはなんだねえーとは。私とセッ○ス出来るんだぞ!?」
「……はあ」
「……えっ。なんだいその反応。え? 君みたいな若い子がセッ○スしようと誘われたら興奮するんじゃないのかい!?」
「その誘い方で興奮するやつは猿以下ですね」
「えー!? ……ちょっと待ってくれ。物凄く今更な確認だが……助手君は私の事が好きだよな? 噂ではこの部屋は両想いだけど恋人同士じゃない男女二人が拉致されるらしいぞ!? こうしてこの部屋に私といる時点でそれは揺るがないよな!?」
「……」
不敵な態度から一変して不安そうに助手を見上げる博士を正直めちゃくちゃ可愛いなと思う助手だが同時にこうも思った。
──なんかこの人に素直に好きって言いたくないな
と。
「あれ!? あれあれ!? なぜ黙っているんだい!? 好きだよね!? だから家事全般してくれたし色々世話してくれていたよな!?」
「助手ですからね」
「えっ。た、確かにそうだが……それだけじゃないだろう? 好きでもない相手にあんなに甲斐甲斐しく世話は焼かないだろう?」
「まあ、時々……いや、しょっちゅう駄目な人だなぁとは思いますけど尊敬はしてますよ」
「尊敬!? ええ!? 普段なら喜ぶところだが今は違う! 私に女性としての魅力を感じてはいないと!?」
「……」
「じゃあここに来てから夜中たまーにごそごそしてたのは!?私との同衾に興奮して性処理してたんじゃ……私をオカズにしてたんじゃないのかい!? 」
「なっ……そういうところですよ!?」
「ば、馬鹿な……そんな……助手君は私にメロメロなはずなのに……」
「博士のその自信どこから来るんですか」
「えーと……ほ、ほら。胸だってそこそこあるだろう?」
テンパりまくった博士は助手の手を取り胸に触れさせる。そこは確かに柔らかく助手の手のひらに納まりきらないほどには質量を感じさせるくらいに膨らんでいた。服越しでこのサイズなら脱いだらもっと大きいのだろう。
……もっとも博士はものぐさかつ自分に無頓着なので風呂上がりにタオルを巻いたまま研究に没頭していたり寝起きにダボダボのシャツ一枚で出てきたりするのでそのサイズ自体は助手も知っているのだが。
「そうですね」
何をしているんだこの人はと呆れながらもちゃっかりしている助手はその胸をしっかりと揉んでいる。むにむにと自分の手の動きに合わせて形を変える胸に興奮はするもののそれを悟られるとドヤ顔されそうなので真顔で揉む。
「……なんだよぅ! 統計によると男性の大半はおっぱいが好きなんだろ!それもわたしのおっぱいを揉んでいるのになんでムラムラしないんだ!」
「ナンデデショウネー」
「うう……眼鏡か? この地味な黒眼鏡がよくないのか……? それなら気に入っていたけど外して……」
博士が泣きべそをかきながら黒縁の眼鏡を外そうとした瞬間助手は胸を揉んでいた手で眼鏡を外そうとする手をやんわりと、けれどしっかりと掴み止める。
「それは大丈夫です」
「えっ……でも」
「 眼 鏡 は 外 さ な い で く だ さ い 」
「あ、うん。分かりました……」
助手の今まで見たことのない気迫に博士は思わず敬語になりながら眼鏡を外そうとするのをやめた。助手は隠れ眼鏡スキーだったのである。
「分かっていただいたのならよかったです」
「う、うん……えと……私のこと嫌い……?」
「はぁ……んなわけないでしょう。嫌いだったら博士みたいな面倒くさい人の世話なんてしませんよ」
「じゃあ……好きかい……?」
「…………ええ。まあ、好きですよ?」
「なんで疑問形なんだよー」
「じゃあ逆に聞きますけど博士は俺の事好きなんですか?」
「えっ。……す、好きなんじゃないかな?」
「ほら。博士だって疑問形じゃないですか。今更照れくさいんですよそういうの」
「な、なるほど。興味深いデータが取れたね。……互いの気持ちも伝えあったことだしそろそろシようか。……い、嫌じゃないだろう?」
「はい。この部屋に拉致されてからずっと抱きたかったので」
「……へ?」
博士がどういう意味だい? と訊ねるより先にドサリとベッドに押し倒された。驚く顔の博士に対し助手は冷静に博士を見下ろしながら服に手をかける。
「ま、待ってくれ。せめてシャワー、あと電気を消して……」
「もう待てませんよ。……半年もお預け食らってたんですから」
「えっ、あっ、まっ、ちょっ…………」
半年『待て』状態だった助手を恋愛ポンコツ処女の博士が制止出来るはずもなく、博士はわーわー喚きながら助手と結ばれたのだった。
◇◇◇
『今回は致すまでが長かったですね』
「それもまた良きナリ。そんな気はしてたし。ああいう同棲までしてるのにくっついてないカップルはあと一歩が踏み出せないんでこうやって拉致する必要があったんですね」
『……やり取りからしてあのままでもそれなりに仲良く過ごせていた気もしますが』
「それは同感。でもそんなの関係ねぇ。俺はあの二人がセッ○スするまでの過程が見たかったんヨ」
『……いつものやつですか。ふむ……あの、少しよろしいでしょうか』
「ん?なに?」
『次の対象者は決まっていますか?』
「うんや。まだ未定だけど」
『……先に候補を絞っていたところこの部屋に召喚する条件を満たす男女で気になる二人見つけまして』
「えっ、珍しいね水晶玉クンが気になるなんて。詳細kwsk」
『家の都合で男として育てられ女であることを隠し騎士団長になった女性とその事に感づいてそれ以来気にかけていたら段々騎士団長に惹かれていった女口調の副団長(男)の二人なのですが』
「ええええええ何それ初めてのチョイスがそれぇ!?!? 才能あるよ水晶玉クン!!」
その後淫魔キブリーと水晶玉はその二人組について詳細なデータを調べノリノリで次のターゲットに決まったのだった。
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