第19話 大人って面倒くせえ

「ディグレンが見つかった!?」


 とりあえず迎える準備の為に動き出そうとしている所に、ジャンさんが戻って来たんだ。で、母さんがジャンに説明しているところだけど……


「そうか……やっぱりヤレンがディグレンを守っていたのか」


 ジャンさんは予想していた通りだったのか、ふう……っと息を吐いてソファーへと座る。


 俺はなーんか納得出来なくて、やっぱりジャンさんに聞いちゃったんだよなぁ。


「ジャンさん。父さん達がヤレンって奴も一緒に連れてくるけどいいのか?」


「あらぁ、洸。まだ納得してなかったの?」


「だって母さん!アイツ、ジャンさんを売った奴なんだぜ?そんな奴また裏切るに決まっているだろ!なあ、凛もそう思うだろう?」


 俺の声を聞いた母さんがキッチンから顔を出して意外そうな顔をしてたけど、むしろその態度の方がわからなくて凛にも聞いてみたんだ。


「お兄ちゃん、凛もジャンさんは大切な仲間だよ。だからこそ、ジャンさんの態度を見ようよ」


「ジャンさんの……?」


 凛の言葉に俺はジャンさんに顔を向けると、ちょっと困った笑顔を俺に向けていたんだよ。ジャンさんならもっと怒っていい筈なのに。


「コウは優しい。私達の為に怒ってくれたんだな。ありがとう」


 立ち上がって体を少し屈め、俺の頭を撫でるジャンさん。


「ディグレンのことはわからないが、ヤレンの立場なら少しわかる。彼はディグレンの幼馴染でな」


「幼馴染?ジャンさんとは?」


「まあ、顔馴染みってとこだな。それでも彼からは時折ディグレンから受けた悪口のフォローがあったからな。無口だけど、困っている人に、そっと食料の差し入れをしていたらしい」


「だったら!なんでジャンさんを売ったのさ!」


「……例えば、もしハルカが敵に捕まったとして、コウは私達の情報を吐けばハルカを離してやる、と言われたらどうする?」


「そんなん、父さんや爺ちゃんや凛や源と一緒になって全員守るに決まっている!」


「そうだな。サカキ家は全員強い。だが、もし力がなかったら?家族全員が既に捉えられていたら?自分が確実に助けられるのがハルカだけだとしたら?周りが圧倒的な武力で固められていたら?……どうすると思う?」


 ……どうって、付与魔法がなくて、家族が全員捕まっていて、周りが制圧されていたら絶望的じゃん……母さんだけでも助けられるなら……売るのか?ジャンさん達を?


 戸惑っている俺に優しく微笑み、ポンポンと頭を撫でるジャンさん。


「……仕方がない状況だってある。もしかしたら打開出来る案もあるかもしれないが、迷ったりすぐ言葉が出てこないという態度が一つの答えを肯定していると思わないか?」


 ジャンさんは敢えて答えを言わなかった。俺にそんな事を言わせない優しさを持つジャンさん。


 ……俺はそんな状況に陥った事なんて一度もない。だけど、やっと実感する。


 ここは、命の価値が平和な日本とは違って低い。


 そこまで追い詰められて冷静な判断が出来るか?いやむしろ母さんを見殺しに出来るか?


 出来ねえよ……俺には出来ない。


 逃げられる今だからいいけど、逃げられない状況にいたらと考えるだけで寒気がする。


 ……そっかぁ。俺は甘ったれだったんだな。


「お兄ちゃん。凛もそう言う時、どうすれば良いかわかんない」


 俺が不安そうな顔をしていたら、クイクイッと凛も服を引っ張って不安な顔になってしまった。


 ……やべえ、妹をも不安にさせちまった。


「大丈夫だ、凛。俺達には力がある。だから、備えれば良いんだ。……そうだよ!備えりゃ良いじゃん!凛も手伝ってくれ!どんな備えがあれば良いか、一緒に考えようぜ!」


「うん!」


 俺達がいつもの雰囲気に戻ったのを確認したジャンさんは、俺と凛の頭にポンと手を置いてから母さんに何かを話に行ったんだ。そして、俺達に手を軽く振ってまた自分の家に戻ったジャンさん。


「母さん、ジャンさんはなんて?」


「なんかね。ヤレンさん自身から呼ばれるまで家から出ないって言ってたの。ジャンさん、ヤレンさんの気持ちを思ってあげているのね」


 え?ジャンさんそこまで気にする必要あるか?


「それ、おかしいって!堂々と居れば良いじゃん」


 俺の反応にちょっと困った表情になった母さん。


「洸がもうちょっと大人になればわかるわ。今は状況を見てしっかり学びなさい。但し、ちゃんと周りの事も考えるのよ?」


「……一応、わかった」


「なら、洸と凛も手伝って。お客様が二人増えるのよ?多分、繁さんは二人をこの家に入れるつもりはないわ。だから外に作るの。やってくれる?」


「簡易で良いんだろ?」


「凛もやる!」


 にっこり笑う母さんはそのまま食事を作り始める。おそらくディグレンさん達の分も作っているんだろう。獣人って結構食べるからなぁ。


 「じゃ、凛行こうぜ」


 「うん」「わんっ!」


 俺が凛と外へ行こうとすると、いつの間にか源が尻尾を振って凛の隣に居たんだよ。


 ……仕方ねえな。源も連れて行くか。



 ————なんて思っていた俺を叱ってやりたい。



「源ちゃん!次来たよ!」


「ワン!ワン!ワン!ワン!」


 凛が木を操り家を作っている間、誰よりも働いてくれたのが源だ。吠えるだけで宙に石の矢が出現し、魔物に向かって行くんだぜ?命中率も高いときた。


 「凄えなぁ、源。うちの成長株じゃねえか」


 仕留め終わった後、褒めてと言わんばかりに俺の足元に来てお座りをする源に、俺は思いっきり褒めて撫でてやる。


 コロンと腹を出す源が可愛くて「うりゃうりゃ」と腹を撫でてやっていると、「まあ!大量ね!」と家から母さんも出てきたんだ。


 辺りに転がる猪の魔物を、スイスイ解体してはポイポイマジックバックに詰めて行く。


 ……スキルとはいえ、母さんも凄えよなぁ。


 そして、驚きの事実が判明!


「あら?もしかしてこれも出来るのかしら?」


 血の匂いがまだしていたんだろう。ガサっと大きな蛇が今度は現れたんだ。それを冷静に見つめる母さん。


「ちょ!母さん逃げろって!」


 凛も源も不意を突かれてしまい、母さんへ向かう魔物へ攻撃が出来なかったんだけど———


「確か蛇って、内臓と心臓が繋がっているのよね?じゃあ、頭と皮と内臓【分離】っと」


 呑気な母さんの声の後には、頭が取れて内臓と皮が分離した状態の蛇の肉が母さんの目の前にあったんだ。


「あ、やっぱり出来たわぁ!肉の鮮度も良いし、これは唐揚げかしら!」


 そんな上機嫌な母さんがマジックバックにパッと肉を収納し、地面に残ったのは頭と内臓と皮。


「んー、これは要らないかしら。【ゴミ箱】行きね」


 母さんが手をかざすと、パッとそれらが消えた!と言うか……


「母さん、これいつから使えたのさ!」


「つい最近かしら?私もね、守られているだけじゃ嫌だなぁって思ったら、スキルに詳細が更についていたのよ」


 母さん……「だから試しちゃった」じゃねえし!危なかったんだぞ!一応、俺の結界付与があったとしても!


「お母さん凄いねー!生きている状態から解体できるんだ!もしかして、今1番強いのお母さんじゃない?」


「あらあら、凛ちゃん。私のこの【分離】は魔物(食材)限定よぉ〜。やっぱり強いのは、人間も拘束や攻撃が出来るみんなよね」


 うおっ、母さん……サラっと怖え事言ってるけど、対魔物だったら母さん最強じゃね?


 という事は……!ジャンさん、俺が1番弱いかも知れないんだけど……!


「お兄ちゃん!家出来たよー!見て見てー!」


 俺が結構なショックを受けている間に、なんと凛は立派な平家のログハウスを建てていたんだ。


「うおお!凛、凄え!このログハウスの造りどうやって知ったんだよ!」


「お父さんの本、お母さんに持って来て貰っちゃった」


 凛が手にしているのは父さんの愛読書、某有名建築雑誌の住宅特集の号だったんだけど……


「へえ!この造りいいな!今布団足りないから、一段高くして床を畳にすると、そのまま寝転がって貰えば良いんじゃね?」


「あ、いいね!やってみる!」


「窓は、父さんが来たらつけて貰って……俺はまず、この家に結界の付与をかけたら良いか。ん?拠点の結界と結合出来る?イメージすりゃ出来そうだな。……おし!【結界拡張】付与!」


 お!成功、成功!


 グワっと結界が広がり、平家ログハウスも無事包まれたんだ。これで魔物や悪意のある人間は入ってこれないな!


「洸だって凄いわよ?この結界が私達の安心基盤になってるんだから」


 満足気に頷く俺を見て後ろから褒めてくれた母さん。何気に俺がショック受けてたの、気付いてたのか……!


 ってか、また源が魔物倒したらしい。凄えなぁ。源は異世界でも番犬の務め果たしているよ。


 よし!俺も、やれる事頑張るかな。

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