第12話 隣人の住居を整えよう!

 ん?なんか腹があったけえ……

 ……腹巻きでもしてたか?


「う?」


 う?って子供の声……?子供!?


 パチっと目が覚めたら、俺のお腹を抱いてこちらを見上げていた男の子(獣耳、尻尾有り)。


 あ、そおか……一緒に寝てたんだわ。


「よぉ、おはよう。トーニャ」


 ぽやっとしつつ頭を撫でると、「はよ」と笑うトーニャ。うん、こりゃ凛がめちゃくちゃ可愛がるわ。つか、可愛いすぎね?


 「洸——!起きてる?」


 「母さん。はよ」

 「はよー!」


 ヒョコッと母さんが起こしに来てくれたけど、目的はトーニャだな。


 「まあ、トーニャちゃん!おはよう!ケイトさん起きているわよ?おいでー」


 「あい!」


 母さんにも慣れたのか、ベッドをヨジヨジ降りるとトテトテと母さんに向かって歩いて行くトーニャ。……母さんも顔がゆるんでるわ。わかるけど。


 「洸も早くいらっしゃい。ご飯よ」


 「ほーい」


 トーニャを抱き上げて満足の母さんから声をかけられると、腹もグーっと鳴った事だし着替えていくかぁ。


 「はよー!」


 俺がちゃっちゃと着替えてリビングに行くと、ジャンさんとケイトさんが母さんを手伝ってくれたようだ。


 あれ?しかもちゃんとテーブルが八人用になっている。凛か?


 「お兄ちゃん、おはよう!見て、テーブル大きくしたの!」


 凄いでしょう、と自慢をする凛も可愛いもんだ。実際、籐のテーブルってオシャレだよな。


 「あれ?父さんは?」


 「繁さんはね。今日は寝て過ごすそうよ?たまにはいいんじゃない?いつも忙しく動いているんだもの」


 優しく語る母さんの姿に、ケイトさんもジャンさんに「あなたも休んでいて良いのよ」と気遣う姿を目にする。


 おしどり夫婦の姿ってどこでも同じなんだな。


 なんてほっこりその様子を見ていると、爺ちゃんから「突っ立ってないで食べろ」と招かれた俺。


 テーブルの上に並んでいるのは、焼きたてパンとクリームシチューにカリカリベーコンサラダに果物籠いっぱいのフルーツ。


 日本の自宅より贅沢してんなぁって思うのは、多分俺だけじゃないと思う。あ、そうだ。


「爺ちゃん、ジャンさん達の家って隣に建てるんだろ?父さん寝てると建てられないんじゃね?」


「ああ、それは心配するな。もう建っていたぞ。だからお前の仕事は山程ある」


「うぇ!?いつの間に!?」


「お兄ちゃんが寝ている間にだよ。ある程度家具もできてた!」


「え?凛、早くね?起きるの」


「だって、源ちゃんに起こされたんだもん」


 ああ、成る程。そういや、源と一緒に寝るんだーって連れて行ってたっけ。


「繁は沈没すると、何故か一回起き上がる癖があるからな。我が息子ながらわからんわ」


 爺ちゃん、俺も父さんのその癖で驚いた事あったわ……


 なんて思いつつ食事をしながら、それぞれ今日の分担を決めていくことになった俺達。


「母さんは家からリネン持ってくるわ。たしか、贈答品でシーツやタオルいっぱいストックしてあるもの」


「凛は小物作りかな」


「凛、助かる。俺は、照明の付与や水周りの付与して行くか」


「俺は温泉引くのはさっきやってきたからなぁ。どれ、遥さんの手伝い行くかな。食器の贈答品も結構溜まっていたからなぁ」


 って、あれ?ジャンさん達の前で『家』とか言ってるけど、もう俺達の事情って伝わってたっけ?


 思わず母さんとケイトさん達を見てキョロキョロしてたら、ジャンさんがどうやら察したみたいだな。


「コウ君。私は朝にチョウジュウロウから事情を聞いた。ケイトは昨日の夜ハルカから聞いていたらしい。


 ……不思議な事もあるもんだと思ったが、そんな事で恩人である君達の事を私達は拒絶や否定はしない。むしろ、そんな君達家族と知り会えた事が誇らしい」


 ジャンさんの言葉をケイトさんも笑顔で頷いて返してくれてい

る。


 そっかぁ……受け入れてくれたか……(嬉しい)


 お?じゃあ、これから遠慮なくいけるってわけだな?(ニヤリ)


「うっし!ヤル気でたぁ!ジャンさん達は源とトーニャをよろしく!爺ちゃん、俺もうやって来るわ」


「あ!お兄ちゃん、私も行く!」


 ヤル気十分な凛と一緒に駆け出して行く俺。


 その時は『和』と『もてなし』の日本人の底力、見せてやろうじゃないか!とその時気合いを入れていたんだけどさ。


 ————————結果……やりすぎた感はある。


 けど、我ながら大満足の出来栄え!早速、お披露目だ!


 「え?本当に此処に住んで良いのかしら……?」


 劇的アフターを見せたジャンさん家。ケイトさんが恐々として入って行く家の間取りは2LDKなんだ。


「この玄関は凄いな……」


 ジャンさんが固まる玄関は白の大理石の玄関だ。これは父さんが起きてから頑張った傑作。籐の靴箱の隣に大きなクロークが付いていて玄関収納はバッチリ。


 照明は魔石を電球みたいにして枝を編み込んだ傘を被せているからアジアンチックにもなっている。


 ジャンさん達は靴を脱ぐ習慣はないけど、一応スリッパも備えているぞ。


 リビングに続く廊下の右側には洗面脱衣室と温泉が引かれた浴室。ここは凛が頑張った。脱衣籠や棚や浴槽や洗面桶に至るまで完備。木の香りが優しく包み込む温泉付きお風呂は、俺達も入りたい程。


「まぁ、こんなに綺麗なんて……」


 やっぱり女性といえばトイレなんだろうな。ほぼ現代に近いトイレになったんだ。消臭/浄化はパッシブで付与したし、証明もスイッチ式。トイレスリッパ、トイレットペーパー完備。これは母さんかな。


 「葉っぱでなんか拭かせられないわ!」って言ってたからなぁ。……やっぱこっちってそうなんだ……


 でもケイトさんが喜んだ1番は此処だったかな。


 「まあああ!お水が!お水がこんな簡単に……!まぁ!押すだけで火がつくなんて!」


 そりゃ、女性が1番いるのはキッチンだもんなぁ。水周りの処理は頑張らせて頂きました!あと父さんも。それに追加で洗濯機(洗浄/柔軟/乾燥)をスイッチポンで出来るようにもしたし。


 リビングは正に凛と父さんの独壇場。籐の二人がけソファーが二つにローテーブル、観葉植物や花が吊り下げられていて、まさにアジアンチック。


 母さんも家にあるファブリックで合いそうなクッションやら、レースやら持ってきて飾って遊んでたな。


 で、寝室はワイドキングサイズベッドがデーンとあった。勿論日当たりも良いし、カーテンは母さんどこから持ってきたのか遮光カーテンつけてたし。


 布団は客用布団持ち出してきたんだな。なんか、この間自宅に通販から布団届いてる……と思ったら、これか。


 寝室には凛に間接照明作ってもらって付与したな。天井照明も勿論全室完備だぜ!


 あともう一部屋は今は客間だな。トーニャがおっきくなったら子供部屋になるように。


 って感じの家が俺達にかかると、なんと一日もかからず出来てしまう。


 後は、食材は畑の管理をお願いしたから自由に持っていっていいし、母さんが調味料を分けてたから味付けだって豊富に出来るだろうし、食器は贈答品がいっぱいあったからそれで足りた。


 爺ちゃんと父さんなんか「肉の仕入れに行って来るわ」って言ってたし、肉祭りまた開催だな!って約束したし!


 今は母さんと凛が、父さんと母さんのお古の服を二人とトーニャに合わせているし。あ、トーニャの服、俺の小さい頃のじゃん。……よく持ってたなぁ、母さん。


 そしたらさぁ……ケイトさんは母さんに抱きついて泣きじゃくるし、ジャンさんは俺らを抱きしめて感謝して離さないし、トーニャは面白がって抱きついて来るしで、ちょっと対応に困ったよなぁ。


 日本人ってストレートな好意を態度で表されると、一歩引く国民性だし。俺、純粋な日本男子だし!決してケイトさんに抱きつかれた時、柔けえなんて思って無いぞ!


 うん、でもハグは慣れないとなぁ……まさか、親愛の意味で頬キス付きもされるとは思わんかった。トーニャからも貰ったけどさ。日本人は恥ずかしがりやなんですぅ!


 そこ!母さんは馴染むの早すぎ!凛はジャンさんに頬キス駄目!いえ……その!ジャンさんも俺には良いですからぁ!


 なんてドタバタしたけど、無事ジャンさん一家はお引越ししたんだ。


 その日の夜は庭でバーベキューになったしな!トーニャが笑顔で源と遊んでいる姿はプライスレスだし、ジャンさん達がほぼ焼いてくれたから食べることに精を出して、腹もぽっこりになってしまった。


 うぉっ……明日から走り込みしないとやばい……。


 え、いや、ジャンさん!俺そこまで鍛えたいなんて思って無いっす!って、爺ちゃんまで強制参加ってなんだよー!


 俺はゆったりスローライフ希望なの!

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