第6話 母さん、爺ちゃん、凛ご満悦。
「きゃー!お兄ちゃん!来て来てー!」
家のあちこちに思い付く限りの付与魔法をかけていると、俺のもとに凛が興奮して走って来たんだ。
「凛?どうした?」
「良いから、早く早く!」
俺の背中をぐいぐい押して、家の外に連れ出そうとする凛を見るに、おそらく爺ちゃんに何かあったわけではないだろう。
そう予測し言われるがままに外に出てみると、そこはまた景色が一変していたんだ。
「すっげー!これ全部実がなってんじゃん!」
「でっしょー!お爺ちゃんに言われた通り、凛頑張ったんだもん!」
凛が自慢するそこは、一面野菜畑と果樹園になっていたんだ!それも,収穫時期が違う物達が混在しているのは圧巻だった。
「うお、キャベツに玉ねぎ人参……胡瓜に茄子にトマトかよ……!しかも苺に梨に葡萄にさくらんぼって……!」
「どうだ、すごいだろう?まあ、ほぼ凛の力だがな」
「でもさぁ、爺ちゃんがこの辺りの区画を考えて木の棚や添え木したんだろう?二人の大作じゃん!家庭菜園のレベル超えてるよなぁ」
「そうだよ!凛はお爺ちゃんのサポートしただけだもん」
「凛、お前も十分凄えって!くっそぉ、俺負けてんなぁ」
「なに、適材適所だろう。俺は孫に恵まれてるよ」
爺ちゃんが朗らかに笑って俺達を褒めてくれる。うん、爺ちゃんのその考えがウチの家族の考え方なんだよなぁ。それぞれの長所で補い合う精神は、坂木家の持ち味なんだ。
すっかり景色の変わった庭?を見ていると、「きゃああ!」という母さんの悲鳴が聞こえてきたんだ。
声を聞いてバタバタバタバタッ!と走り出した俺と凛。母さんの声が聞こえた方へ辿りついたら……
「まあ、まあ、まあ!凄いわー!時間がかかる調理が一瞬なんて!」
憧れのキッチンでパンを作っている母さんが、時間経過付与付き棚を使って浮かれている姿だったんだよなぁ。
思わず俺と凛は入り口でへたり込んじゃったよ……
「母さん……何があったのかって思ったじゃん」
「そうだよぉ、お母さん心配したんだから!」
俺と凛がぶちぶち文句を言っても「あらぁ」と頬に手を当てて首を傾げる母さん。
「うふふ、そうね。此処は異世界だもの、警戒は必要よね。でも、洸ちゃん凛ちゃん!簡単に出来て、更に焼きたてのパンがそのまま保存も出来るのよぉ!お母さん本当に嬉しいわぁ!」
「まぁね……」
「あ!お母さん良かったね!」
作った張本人の俺は今かよ!と呆れてしまったが、凛は母さんに近づいて一緒に喜んでいる。凛……!お前はなんて良い子なんだ……!
そんな俺達の後ろからゆっくり追いついて来た爺ちゃん。
「おお、良い匂いがすると思ったら」
「見て下さい、お義父さん。これで、いつでもお腹空いたら出来立てのパンが食べられますからねぇ」
「遥さんや、出来たらおにぎりも作ってくれたら助かるんだが……」
「お爺ちゃん、お米好きだもんね!あ!そうだ、こっちでお米も育てようよ!」
「おお!それは良い!流石は凛だ!」
「あらぁ、新米もいいわねぇ。だったら、お漬物もつけようかしら」
……うん、まあ、流石我が家族と言うか、馴染み過ぎだろ!と言うか、思いっきり楽しんでいると言うか……気にしたら負けだな、こりゃ。
ワイワイと今後の展望を話し合う三人を横目に、アレ?と思った俺。
「なぁ、誰か父さん知らね?」
我が家の大黒柱である父さんの姿を見てないんだけど……?
「あら、繁さんなら外に居なかった?」
「あー!お父さん何か作ってた!」
「繁なら畑の隣の空き地で釜作ってたぞ?」
「釜?」
どうやら凛と爺ちゃんは父さんを見ていたらしい。母さんは更に理由まで知っているようだ。
「うふふー、夢だったのよねぇ。大きなピザ釜がお庭にあるの。ここなら出来るだろうって、繁さんも乗ってくれたもの」
「「ピザ釜!!」」「ほほー」
ホクホク顔の母さんの発言に、顔を見合わせて笑顔になる俺と凛。米好きの爺ちゃんは普通だったけど。
「お義父さん、お茶飲みます?」「おお、良いな」なんてマイペースな母さんと爺ちゃんはそのままに、俺と凛はまた外へ走り出す。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
走りながら俺に声を掛けてくる凛にちょっと速度を落として並走すると、にぱっと笑いかけてきた凛。
「お兄ちゃん、すっごい楽しそう!良かったね!」
「ん?俺そんなにいつも笑ってなかったか?」
「だって、お兄ちゃんいつも面白くなさそうにしてたんだよ?」
凛に言われて確かに……と思い当たる俺。
だってさぁ……最近、勉強勉強ばっかりで、俺は実際何したいんだろう?今の俺には何が出来るんだ?って悩んでいたんだよなぁ。
それが今日は……体感ではもう1日以上経ってるけど、まだ地球時間で言えば土曜日なんだぜ?そんな感じで時間もあれば、やりたい事も出来る力を手にしてみろよ。
そりゃ、誰だって嬉しいに決まってる!
「まあ、な。自覚してたが……悪かったな、心配掛けて」
二人ともいつの間にか立ち止まっていたらしい。俺は凛の頭にポンポンッと軽く手を置いて笑いかける。
「良いよ!心配なら凛が幾らでもしてあげるし、お兄ちゃんにも凛の事を心配させてあげる!」
「ブハッ!何だよ、それ」
「だってお母さん、心配は愛情の裏返しなんだって言ってたもん!だから、お兄ちゃんには凛をもっと心配してもらわないと駄目なの!」
「……そか」
上目使いで可愛い凛に可愛い事を言われ、思わずちょっと力を込めて撫で撫でしていたら「もうっ!」って怒られたけどさ。
俺の妹が可愛い過ぎる案件は、父さんと共有しようと思う。
……多分、俺の態度についてはみんなが気づいていただろうし。少し笑顔を見せて安心させた方が良いだろうな。
それにこんな家族が一緒だからこそ、俺は俺でいられるんだろうなぁ……恥ずかしいから、あえて言わないけどさ。
「じゃ、父さんのところへ『ピンポーン』……あ?」
凛と一緒に父さんのところへ向かおうとしたところ、地球の家のインターフォンの音がしたんだ。
勿論、この機能は母さんに言われて俺が作ったんだ。倉庫の扉をほんの少し開けていると、地球側の音が拾える事がわかってさ。
実は、[収音]と[共鳴]を付与したワイヤレススピーカーを異世界に持って来ている。調整は密かに苦労したんだけど、インターフォンと人の呼び声に反応するようにしてたんだ。
ただ音量は考えものだよなぁ……
悩む俺を不思議そうに見る凛の後ろで、「あらあら」と母さんが扉に向かって行く姿が目に入る。
「なんだ?お前達まだ廊下に居たのか?」
ヒョコっとキッチンから顔を出す爺ちゃんに「今行くとこ」と俺が返事をして動こうとすると、「今インターフォンの音鳴らなかったかぁ?」と顔を出した父さん。
「お父さんにも聞こえたー?」
凛が嬉しそうに父さんに走って行き飛びついて行く。父さんはデレデレになりながら凛を受け止めて、凛の頭を撫でながら俺と目を合わせる。
「ああ、あれだけデカければなぁ。と言うか、洸!お前も一旦家に戻ってみろ!勿論、凛もな?」
父さんが何やら含んだ言い方をするけど、俺と凛はさっぱりわからない。爺ちゃんは爺ちゃんで「あれか!」と言って一人で納得しているし。
凛と二人顔を見合わせて首傾げてたけど、とりあえずピザ釜を後で見る事にして家に向かった俺達。
「まあ、出発は明日なの?」
「そうなのよ!もう準備はほぼ出来ているんだけどね」
家の玄関から母さんの声が聞こえるけど、この声はお隣の向井さんの奥さんだろうな。
ヒョコッと壁から顔を出して玄関の様子を見る俺と凛。アレ……?
「源ちゃん!!」
「源?」
思わず飛び出して行く凛と俺。だって、俺と凛がよく遊んでいた芝犬の源が奥さんと一緒にいたんだ。
「ワンッ!」
凛を見た途端に、お座り状態から立ち上がって喜ぶ源。相変わらず凛ラブの源は、抱きついた凛の顔を舐め回している。
「あらぁ?二人共まだ呼んでないのに」
「お母さん!源、また預かるの?」
源が大好きな凛も大喜びで母さんに聞いていたけど、答えてくれたのは向井の奥さん。
「凛ちゃん。源を大切にしてくれる?」
向井の奥さんは凛の目線まで屈んで真剣な表情で凛に聞いている。……なんか、いつもと雰囲気違うな。
「勿論!でも、どうしたの向井さん?いつもちゃんと預かってるよ?」
「うん、そうね。……あのね、今度北海道に転勤になってね。次はペット禁止のマンションなのよ。だから源を大切にしてくれる凛ちゃん洸くんに、源をお願いして行っても良いかしら?」
そうか!父さんや爺ちゃんが言っていたのはこの事か!?
「勿論!!!勿論大事に大事にするよ!」
向井の奥さんの問いかけに、笑顔でぎゅッと源を抱きしめる凛。
「俺も大切にします。安心して下さい」
源の頭を撫でながら、俺も向井の奥さんに宣言する。母さんも向井の奥さんと顔を合わせて笑顔になってる。
……でもほんのちょっと、向井の奥さんが寂しそうに見えたのは気のせいじゃないだろうな。源は元気いっぱいだけどさ。
しっかり挨拶を済ませて、俺と凛に重ねて源のことをお願いして行った向井の奥さん。次の日に無事北海道に旅立って行ったんだ。
俺達坂木家に、新たな家族を残して———
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