第4話 確認事項

 「うっまああああい!」


 「柔らかいわぁ」


 「この肉高級牛肉にも負けねえな」


 バーベキューコンロの上でジュージューと焼ける肉と、家から持って来た野菜やご飯で、現在第一回坂木家異世界晩御飯開催中!


 俺は美味さのあまりに思わず叫び、母さん父さんは猪もどき肉をじっくりと味わって食べている。


 あ、もちろん母さんのスキルで安全確認の上で食べているんだ。肉を解体するのも忌避感は母さんなかったみたいだし、母さんのスキル様様だよなぁ。


 凛と爺ちゃんもニコニコ美味そうに食べているし、肉は遠慮なくガッツリ食えるし言う事無し!


 「嬉しいわぁ!うちの男性陣よく食べるから、お肉の心配せずにゆっくり食事出来るなんて……!」


 「そうだよぉ。いつもお肉お兄ちゃんやお父さんと取り合いになるんだもん。焼肉でこんなにゆっくり食べれるの嬉しい!」


 「まあ、俺は肉はそんなでもないが、この肉は食べやすいなぁ」


 「お義父さんもしっかり食べて下さいね。なんたって洸のバッグの中にはまだまだお肉があるんですから!」


 お肉の焼き加減を見ながら母さんが爺ちゃんにもとりわけてあげる中、凛も母さんを手伝いながら食べている。


 俺のバックは時間停止、容量無限に付与しているから山だった魔物も全部収められて俺もホクホクだ。ゴブリンはさっさと爺ちゃんが埋めたけどさ。


 そんな感じで思いっきり肉を詰め込んで食べ終わると、俺は凛が爺ちゃんの為に作ったロッキングチェアにドカッと座り天井を見る。


 「くはぁ〜、異世界最高〜!」


 呑気に叫ぶ俺に家族みんな笑いあうけど、そこは爺ちゃんがしっかり釘をさしてきた。


 「洸、油断は禁物だぞ。まだまだこの世界の状況だってわかってはいないし、常に命の危険は隣合わせだ。……魔物を殺傷する事には、忌避感が無いようにされているようだがな」


 「確かに親父の言う通りだな。それをいい事に力を持った事で慢心や自惚れに陥ると、必ず痛い目に合うからな。……いいか、洸、凛。この力は家族の役に立つ事だけに使うと約束してくれ。出来るか?二人共?」


 和やかな雰囲気から真剣な表情に変わった爺ちゃんと父さんの言葉に、俺と凛は互いに顔を見合わせたんだ。


 ……確かに俺も、ちょっと力持って自分を過信した感じはあったんだよなぁ。


 少し反省して凛をみると、凛も何か思う事があったんだろう。さっきまでの雰囲気とは違い、真剣な表情でジッと俺を見ていた。


 二人で頷き合い「「わかった」」と声を合わせて言うと、父さんは俺と凛の側に来てぎゅっと抱きしめてきた。


「うん!父さんは嬉しいぞお!二人共物分かりが良くて!」


 凛はきゃーと喜んで父さんの腕の中にいたが、俺はゲッと言って早々に逃げ出す。


 うちの家訓として、父さんだけじゃなく爺ちゃんもよく俺達に言い聞かせていたからな。


 人を駄目にするのは自惚れと自己過信だって。だからどんなに優位な立場に立っても、現状を見極める事は忘れるな。それを忘れるならば、大切な人を傷つける事になるってさ。


 ……まあ、この世界の場合は、マジで命がかかっているからな。正直、爺ちゃんや父さんの心配な気持ちもわかるし無理はしねえよ。


「うふふ、母さんも嬉しいわぁ。二人共優しく育ってくれているんだもん。あ、でも母さんからも一つお願い。洸も凛も子供だけで行動しないで誰か大人と一緒に動いてね」


「わかってるって」


「うん!凛、危ない事しないよ」


「大丈夫だ、遥さん。洸と凛には俺が付き添うさ。幾らでも時間あるし無茶はさせんよ」


「くっそお!親父はいいよなぁ、時間あって!俺、仕事あるから土日しか来れねえわ」


「うふふ〜、母さんも時間ある時付き合うわよお」


 こんな感じで真面目な話の雰囲気はすぐなくなって、またいつもの雰囲気に戻ったけど再確認事項が増えた。


 子供だけで動かない。

 優先すべき事は仕事や勉強。

 力を無駄に使わない。

 何事も協力する事。

 必ず誰かに伝えてから、異世界に来る事。


 何よりも命を大事に行動する事。


 「まあ、みんなわかっているだろうからコレ以上は言わんぞ。それよりも、こっちで1日過ごすと時間の差がどれくらいあるのか試してみたいから、こっちで寝てみないか?」


 父さんの粋な提案に即座に返事をする俺と凛。


「凛!ベッド人数分作ってくれるか?俺と父さんと爺ちゃんで布団一式持ってくる!」


「もちろん任せて!あ、お兄ちゃんマットレスも持って来てねー!」


「あー、マジックバッグあっちでも使えたらいいのにー!」


 そう、俺と凛の会話で気づいただろうか?残念な事にマジックバッグや凛が作った籠でさえ異空間は通らなかったんだ。


 余計な異分子は地球に持ち込まないようにされているらしい。めっちゃ残念だ。


 という事で、男性陣が地球と異世界を何往復かしている間にベッドは完成。勿論、時間差があるから苦労したけどさ。


 最後に父さんが男性陣と女性陣に部屋を分けて臨時の寝室を作り、布団をセットする。


 そして爺ちゃんはというと……


「うむ、臨時の露天風呂だな」


 温泉脈誘致、掘削、石化、適温設定で、男女別源泉掛け流し風呂を作ってたんだ。もちろん父さんも乗って壁や床や排水口をつくり、凛は木で桶と風呂椅子も作ってくれたな。


 その間に母さんもみんなの下着やパジャマやタオルを持ってきてくれて、俺はというとーーー


「うしし……!一回やってみたかったんだよなぁ」


 みんなのベッドに安眠と回復の付与魔法をかけていたんだ。これで明日も全員万全の状態で動けるからな!


 そんな画策をして風呂に向かうと、臨時とはいえ立派な温泉施設ができていた。


 「おおお!何これ⁉︎まんま銭湯じゃん!」


 「ふふん、いいだろう。まあ、脱衣所と後は浴室だけの簡易銭湯だがな」


 「洸、すまんが結界をここにもかけてくれんか?湯気や匂い対策に」


 驚く俺に自慢気な父さん。爺ちゃんは浴室の屋根が無い為俺に結界付与を頼んできた。


 俺はもちろん了承し結界を張りついでに、浴室空気循環・脱衣場と浴槽に常時清潔付与もかけておく。


「ウチのお風呂よりいいわぁ!しかも水道代を気にしないでたっぷりのお湯に入れるのねぇ!」


 完成した銭湯を見て、どこまでも現実的な母さんの反応にみんなが苦笑い。


 凛を伴ってキャッキャ言いながら風呂に入りに行った母さん達を見送り、俺達も入りに行ったんだけど……


「うむ!最高に贅沢だな!」


「これで危険がなけりゃ最高なんだけどよ」


 並んでゆっくり身体を洗う爺ちゃんと父さんを尻目に、俺はさっさと済ませ大浴槽に入りにいく。


 ……あの二人、年なのに身体つき良すぎるから、比べられんの嫌なんだよ……


 そんな本音を隠す為に「あ“あ”あ“あ”〜」とお湯に浸かりながら声を上げる俺。


 いや、マジで気持ちいいんだけど!しかも上を見上げると日が沈みかけているのかオレンジ色の空!すっげえ解放感!


 「爺ちゃん、最高!」


 俺がご機嫌で叫ぶと、爺ちゃんと父さんも浴槽に入ってきた。勿論、気持ちよさそうに野太い声であ“あ“あ”合唱してるけどさ。


 「この泉質は疲労回復と美肌効果があってな。遥さんと凛だけじゃなく、俺達もトゥルントゥルンのスベスベ肌になるぞ」


 顔をお湯で洗いながら思い出したようにいう爺ちゃんに「誰得だよ」と突っ込む俺だけど、父さんは「背中ニキビに効くなら良し!」とお湯を自分にかけている。


 俺達の声が聞こえていたのか、壁一枚挟んだ女湯では「「きゃああ!お爺ちゃん最高!」」と凛と母さんが叫んでいたのには、笑った。


 ゆったりと浸かって全員が風呂から上がり、ほっこほこにあったまったところで、母さんが家から準備して来た麦茶を飲み干す。「「「ぷはあっ!」」」と水分補給にも満足したところで、凛が気付いたんだよ。


「あのね、おトイレってこっちに作らないの?」


 その言葉に今気付いたと言わんばかりにポンっと手を叩く俺達。


 男性陣は家に戻りゃいいだろ的に思っていたけど、考えりゃめんどくせえもんな。


 急遽、突貫工事に入る父さんと俺。父さんは壁で個室を二つ作り便器を制作。俺は付与魔法で使用毎に浄化魔法と消臭魔法を付与。


 ……魔法って便利だけど、実際どうなってるんだろうなぁ。まあ、考えてもわかんないだろうけどさ。


 「あら、こっちにもトイレ作ってくれたのね。あ、手洗いの代わりにアルコール除菌ボトル持って来ようかしら」


 完成したトイレの様子を見た母さんが、パタパタとスリッパを履いて家に取りに戻っていく。


 こういう気の利くところって流石母さんって思うんだよなぁ。


 俺達用にもスリッパを用意してくれていたから、靴から履き替えてパタパタと寝室へと移動する。


 戻って来た母さんにどれくらい時間経ってた?と聞くと……


「あのね、1時間くらいしか経ってなかったの!」


 そんな嬉しい報告が聞こえて来た途端に、1番喜んだのが父さん。


「うおおお!念願の一週間ゴロゴロ休暇が異世界で出来るじゃねえか!……いや、待て!毎日仕事から帰って来る度に異世界で休暇が取れるって事か!!」


 ……と、まあ両手をあげて喜ぶ姿に、大人になる辛さを見た気がしないでもないけど。


 俺も毎日学校から部活やって帰って来ても、異世界に来たら存分に遊べるって事だよな!


 凛と二人でハイタッチをして喜ぶ姿に、「ちゃんと勉強もするのよ」と苦笑いの母さん。


 そんな母さんも「うふふ〜、こっちでいっぱい料理作っておくと楽よね〜」と何やら画策中。


 「まあ、みんな。時間はたっぷりあるのはわかった事だし、まずは休もうや」


 みんなが野望にワクワクする中、あくびをする家長の爺ちゃんの一言でそれぞれベッドに入って就寝。


 俺は灯りの付与魔法を解除してからベッドに入る。


 ……明日はこっちでも個室が欲しい……


 安眠魔法でスコンと眠った爺ちゃんと父さんのいびきを子守唄に、俺も疲れからすぐに眠りに入って、異世界一日目が終了したんだ。

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