第37話 策の結末

「戦勝祈願……ですか」

「うむ」

 

 後日、広忠は家臣である本多忠高に戦勝祈願に赴くことを伝えた。

 

「今川から出陣の知らせは来ておらぬが、いつ来ても良いようにな」

「成る程。良き案かと。では早速……」

 

 立ち上がろうとする忠高を広忠は制止する。

 

「いや、お主には城を守ってもらいたい。儂が戦勝祈願に行っている間に攻められては困るからな。信頼の置ける者に任せたいのだ」

「……しかし、道中賊に襲われるやもしれませぬぞ」

「大丈夫だ。少ないが護衛は連れて行く」

 

 その広忠の言葉に、忠高は渋々了承する。

 そして、とある事を思い出す。

 

「……そういえば、あの……たきとか言う商人が持ってきた物は……」

「あぁ……物は良かったのだが、中々ふざけた額を提示して来てな。一喝して追い返したわ」

「左様でしたか……因みに、中は何でしたか?」

 

 忠高は竹千代の入った箱を持ったからか、中身が気になっている様子であった。

 しかし、広忠は答えない。

 

「……少々答えられぬな。それを言ってしまえばあの者らの身に危険が生じる可能性があるからな」

「成る程……そこまで……でしたら、深くは聞かぬ方がよろしいですな」

 

 忠高は頷き、話を本題に戻す。

 

「さて、戦勝祈願はいつ行くのですかな?」

「あぁ。今日もう行こうと思っている。早ければ早いほど良いからな」

「確かに、そうですな!」

 

 広忠は立ち上がる。

 

「さて、儂は早速準備を進める。お主らも城を守る準備をしておけよ」

「は!」

 

 そして、広忠は忠高に守りを任せて岡崎城を出る。

 忠高はこの時、何事も心配は無いと思っていた。

 それは、忠高だけでは無く、城にいた皆がそう思っていた。

 

 

 

「……おかしい」

 

 広忠が城を出てから既に二日。

 広忠からの知らせもなく、既に捜索も出されていたが、影も形もない。

 距離的にはいったその日、遅くても次の日には帰ってきてもおかしくは無かったのだった。

 捜索に出た者達の報告を待っている忠高の下に知らせが届く。

 

「忠高様! 広忠様が見つかったとのことです!」

「そうか! すぐに迎えに……」

「そ、それが……」

 

 伝令の男ははっきりとした事は言わない。

 

「なんだ!? はっきりと言わぬか!」

「ひ、広忠様は……」

 

 側近は、意を決して口を開く。

 

「広忠様は賊に襲われ、既にお亡くなりになられておりました!」

「な……」

 

 

 

「な……なんと……」

 

 知らせを聞いた忠高はすぐさま現場へと向かった。

 忠高の目の前には、焼け落ち、廃墟と化した小さな村があった。

 

「広忠様……」

 

 忠高の目の前には、焼け焦げた死体が大量にあった。

 その中の一つに、小刀を置かれたものがあった。

 

「こちらのご遺体の持っていたこちらの刀が、殿の刀でした……」

「そうか……しかし、何故このような所に……」

 

 この村は目的の神社からは遠く、立ち寄るにしても不自然であった。

 

「……御遺体の数が、ここの村人と合わせても数が合いませぬ。恐らくは道中賊に襲われ、数を減らしつつなんとかここまでたどり着き、抵抗虚しく……」

「……もう良い……」

 

 忠高は遺体に手を合わせる。

 

「……今川殿に知らせを。織田に知られる前に、今川殿に知らせねば」

「……承知しました」

「そして……こんな事をした賊を必ずや見つけ出し、必ずや殺せ」

 

 忠高は仇を討つ覚悟を決める。

 そして、その言葉を待っていたかのように、側近が口を開く。

 

「……それが……その賊は尾張から来たという噂が」

「尾張から……という事は……まさか……」

「……織田が、関わっているかも知れませぬ」

「……」

 

 忠高は拳を握りしめる。

 

「……戦の用意をしろ。必ずや……必ずや仇を討つぞ!」

 

 忠高の目には、涙が浮かんでいた。

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