第8話 加納口の戦い 開戦

「かかれ!」

 

 織田、朝倉の連合軍二万五千は斎藤利政の軍、四千が籠る稲葉山城に攻めかかる。


「放て! 敵を近づけるな!」

「止まれ! 一度様子を見るぞ!」


 しかし、積極果敢に攻めることはなかった。

 

「稲葉山城は堅城。無理に攻めては兵を無駄に死なせますからな」

「あぁ。敵も稲葉山城に籠もりさえすればそう簡単に負けることは無いと考えている事だろう。ならば、無理に攻めることはない」

 

 織田家の重臣、平手政秀の言葉に織田家の当主、織田信秀が答える。

 

「しかし、相手はあの斎藤利政。どのような策を使ってくるかはわかりませぬぞ」

「あぁ。我等は大軍だが、そこが弱点にもなりうる」

 

 信秀は近くに布陣している朝倉軍を見る。

 

「朝倉の軍。あれらが合わさってこの大軍ですからな……烏合の衆と呼ばれても仕方がありませぬ」

「……そして、大軍故の油断も生じる。無理に攻めては、そこを利政に突かれてしまうからな……」

 

 織田朝倉連合軍は、土岐頼純、土岐頼芸らの要請をうけて出陣した。

 利政は西美濃にて朝倉軍と戦いを繰り広げたが、尽く敗戦。

 被害は少なかったが、多くの城を明け渡し、稲葉山城に籠ることとなった。

 

「朝倉軍の実力は凄まじいようにも見えますが……良いように誘い込まれたようにも見えますな」

「うむ。だから積極果敢に攻め込めぬ。方方に火を放ちつつここまで来たが、何もして来ぬ……どんな罠があるか分からんからな」

 

 信秀は稲葉山城を見つつ、呟く。

 

「……さて……どうやって攻めるか……」

 

 

 

「と、信秀は考えておるだろうな。だから積極果敢に攻めて来ぬ。火を放って挑発しているが、構うことはない」

 

 利政は城内で戦況を見渡しつつ、呟く。

 

「では、ここまでは策の通りと?」

 

 時田は光秀の言った通りに城内で大人しくしていた。

 そして、利政の意向で利政の側で戦を見ていた。

 

「うむ。これまでも儂は奴と戦を繰り広げておる。奴の考えや戦い方は分かっておるからな」

「……所で、十兵衛様はどちらに?」

 

 利政は表情を変えずに答える。

 

「城の外だ」

「城の外ですか!?」

 

 利政は頷く。

 

「城外に少数の兵を忍ばせておる。我が息子の高政に指揮を任せて五百の兵をな」

「たったの五百……ですか……」

 

 時田は少し慌てだす。

 

「そ、それだけの兵で何をするつもりなんですか!?」

「案ずるな。奇襲をかけさせるだけだ。たった五百で二万五千の兵にな。まぁ、それなりの損害は出るだろうが……ん?」

 

 すると、時田が居ないことに気が付く。

 一瞬の隙に、この場を離れていた。

 

「……全く……まぁ良いか」

 

 利政は戦況を見て口を開く。

 

「そろそろ頃合いか……」

「殿、予想通り敵が動き始めましたぞ」

「うむ。予定通りいつでも動けるように準備を進めよ」

 

 側近が頷き、すぐさま行動に移す。

 

「さぁ、時田よ……儂の戦を見ておくがよい」

 

 マムシの戦が、始まる。

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