時田は時々時を巡る 〜前世が明智光秀JKの、本能寺の変、真相解明録〜

@nakamurayukio

第1話 運命の始まり

 1582年、6月2日、本能寺の変。

 戦国時代、織田信長を重臣、明智光秀が突如として謀反を起こし、殺害した事件である。

 光秀が謀反を起こした理由が分からず、多くの研究者が多くの説を提唱してきたが、確実なものは何一つとして無かった。

 その真実が分かるのは、本人のみ。

 

「えー、よって、織田信長は明智光秀に殺され、その仇をうったのは……時田、答えろ……時田?」

 

 時は現代。

 とある高校のとある教室では歴史の授業が行われていた。

 教師の質問に答える声は無く、代わりに寝息が響いていた。

 

「おい! 時田! 起きろ! また寝てるのか!」

「ん……はい」

 

 怒鳴られ、その女子生徒はやっと起きる。

 寝ぼけた眼で黒板に書かれた文字を見つめ、状況をなんとなく理解する。

 

「あ〜……羽柴秀吉?」

 

 後ろに一纏めにされた肩ほどにまで伸びた髪を垂らし、首を傾げる。

 その時田の答えに、周囲の者は笑う。

 

「何? 羽柴って……」

「豊臣だよな……」

「……ちっ」

 

 時田が笑って来る者達を睨む。

 その今にも殺されそうな表情に、笑っていた者達は竦む。

 すると、その様子を見た教師が渋々口を開く。

 

「あー……豊臣秀吉は前は羽柴秀吉という名前でな。さらに言えばその前は木下藤吉郎だったりする。時田の言う事は間違って無いぞ。知識の無い状態で人を笑えば、自分が恥をかくことになるから、気を付けろよ。時田も、分かるからって寝るな」

「……はい」

 

 その教師の言葉に時田も答え、周りも静かになる。

 が、時田だけでは無く他の者も居眠りや落書き、余所見をしている者が目についた。

 気が緩んでいると見た教師は、口を開く。

 

「良いか、この前、他のクラスの男子生徒が行方不明になった事件があっただろ?」


 数ヶ月前、他のクラスの男子生徒が休日、出かけてくると言ってから帰ってこなかった事件がある。

 警察の調べによると、岐阜城を見に行った所までは確かだったらしいのだが、その後の行方が分からなかったとの事だ。


(……岐阜城ね……)


 時田は教科書を見る。

 そこには岐阜城については書かれていないが、時田は知っていた。

 その前は稲葉山城で、信長の歴史を語る上で欠かせない城である事を。


「不審者の情報は無いが、他人事じゃないんだからな。夜出歩いたりしないで、気を引き締めるように。時田も、あんまり夜更かしするなよ。」


 そういった所であまり生徒の状況が変わっていない事を確認し、教師は諦め、授業を進める。


「じゃ、授業を続けるぞー」


 

 

「はぁ……たったの一行か……」

 

 昼休み。

 時田は今日の授業を思い出しつつ、昼食を済ませて日課の昼寝をするべく、静かな場所を探していた。

 廊下を歩きながら、呟く。

 

「図書室は……うるさいんだよな」

 

 この学校の図書室は何故かゆるく、とてもうるさい。

 昼寝をするには向いていないのである。

 

「じゃあ……やっぱりあそこか」

 

 時田は階段を登っていく。

 時田は屋上へ行こうとしていた。

 そして扉を開けようと、ドアノブに手をかける。

 

「……ま、そうだよね……なら……」

 

 屋上への扉は鍵がかかっており、行く事は出来なかった。

 しかし、屋上へ出る術を時田は知っていた。

 

「……よっこらせと」

 

 何とか人が通れるサイズの窓がある。

 その窓には鍵がかかっていない。

 というか、中から鍵を掛けるタイプなので、問題は無い。

 屋上にいる間に窓に鍵をかけられても、その時は友人に連絡すれば良いだけである。

 

「……」

 

 時田は窓を通りつつ呟く。

 

「……胸が小さくて良かった……いや良かったのか?」

 

 独り言に自分でツッコむ。

 確かに、胸が大きい人なら通るのには苦労する。

 この時だけ、それに感謝していた。

 

「……んー、いい天気だ」

 

 窓を通り抜け、時田は空を見上げる。

 

「……空の光景だけは、いつの時代も変わらないな」

 

 時田は呟く。

 

「……なんで、生まれ変わったのかな……」

 

 時田ひかる

 その前世は、明智光秀であった。

 戦国時代、第六天魔王と呼ばれた織田信長を本能寺にて討ち取った人物である。

 本能寺の変を起こした張本人である。

 

「ま、ほとんど覚えてないんだけど」

 

 時田はその場に寝転がる。

 時田が明確に覚えている記憶は、竹藪で竹槍で突かれる記憶だけである。

 つまり、死の間際の記憶だけが残っていた。

 

「……ふぁ〜あ」

 

 誰もいないので、だらしなく大きなあくびをする。

 この陽気で徐々にやってくる眠気に、時田は身を任せた。

 目を閉じ、眠りに落ちた。

 

 

 

「……ん」

 

 目が覚める。

 しかし、おかしいことに気が付く。

 

「……何処?」

 

 辺りを見渡すと、竹林であった。

 見慣れた校舎は何処にもなく、草むらの上で眠っていた。

 

「……ん〜、どうしたものか……」

 

 状況が掴めないが、時田は落ち着いていた。

 時田は余程のことが無い限り、取り乱したことは無かった。

 時田からすれば、その程度のことだった。

 前世の記憶があるお陰で、精神年齢や脳年齢は高校生のそれではなくなっているのである。

 落ち着いて、状況の把握に努める。

 

「おい! そこのお前!」

「はい?」

 

 すると突如として声をかけられ、振り返る。

 そこには、令和の時代には似合わない、それこそ、戦国時代の百姓が着るような服を着た男達がいた。

 時田の頭に、とある仮説が浮かぶ。

 

(まさかね……)


 男は少し警戒しつつ声を掛ける。


「お前、こんな所で何しておる!? ……なんじゃその格好。奇妙な奴だな」

「あー……どちら様……ですか?」

 

 時田は回答を慎重にする。

 何故ならば、その男たちは竹槍を手にしていたからだ。

 対して時田は武器を持っていない。

 警戒するのは当たり前であった。

 

「……その装い……立派には見えるが、珍妙な格好だな……まぁ良い。武士ではないな……落ち武者という訳でも無いか。お主も来い! ほれ!」

 

 すると、竹槍をやや強引に手渡される

 

「え? ちょっと!?」

「お主も男なら……」

 

 その言葉に、時田は怒りを覚える。

 一瞬状況を忘れてそのまま怒りをぶつける。

 

「……ちょっと待って。女なんだけど」

「……え?」


 男達は時田の胸を確認する。


「……ま、まぁそんな事どうでも良いから来い! こっちだ!」

「ちょっと、今とこを見たの?」

「い、良いから行くぞ」

 

 時田に睨まれ、一瞬怯んだが手を引っ張られ、男達に連れて行かれる。

 

「ちょっと! そんな事って……」

「……待て! 来るぞ……」

 

 男達は少し行った所で止まる。

 

「良いか、合図で一斉に突くぞ」

「ちょっと、まだ話は……」

「分かった分かった。取り敢えず一緒に突け。そしたら話を聞いてやるから。ほら、もう来るぞ」

 

 時田は渋々頷き、了承する。

 しかし、状況は掴めていなかった。

 そして、指示を待つ。

 

(……狩りか何か? 一体何を仕留めるの……)

 

 すると、遠くから足音が聞こえてくる。

 人のではなく、有蹄類の足音であった。

 それが段々と近付いて来る。

 

「今だ!」

 

 男の声で一斉に竹槍を突き出す。

 時田も恐る恐る目を閉じながら、竹槍を突き出した。

 すると、時田の手に何か硬いものに突き刺さる感触が来る。

 

「……え?」

 

 目を開けると、そこには甲冑を身にまとい、馬に乗った男の脇腹に時田の竹槍が、突き刺さっていた。

 人を、刺したのであった。

 

「……あ、あぁ……」

 

 しかし時田が驚いていたのはそれだけでは無かった。

 馬上の男に、見覚えがあったのだ。

 馬上の男はこちらを驚いた顔で見ていた。

 

「な……」

「……私が、私が……殺したって事なの……」

 

 時田は竹槍を手放す。

 

「……私が、明智光秀を殺したの!?」

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