第21話 私もスキーに連れてって

 俺は時空の歪みの経過観察で基本はリモート授業。そのおかげであまり学校には行けないのだが、家から出られないという制約を受けて修学旅行に行けなくなった話をしなければならない。文化祭は学校で何かあっても展示のために持って行ったAAがあるから、時空の歪みから何か落ちてきても支えられるだろうというゆるい思考によって許可された。実際には超常現象は何も起きず、陰謀論者が出てきたけど。

 さて、修学旅行だ。我が校では2年生が12月に北海道でスキーをするということになっている。我が町と同じで田舎とは言え、スキー客の多いところでまたAAサイズの物が落ちてきたらと思うと、リスクが多すぎる。つまり、普段の学校生活同様に家から出られなくなった。

 俺が参加出来ないのは仕方ないこととは納得しているが、その先がどうにも納得いかない。学校側が修学旅行積立金の返金を申し出たところ、母さんは「だったら遙香ちゃんが行けばいいじゃない」と言い放ったのだ。

 しかし遙香もさすがに拒否をした。それはそうだ。北海道へのスキー旅行、そこそこのお金が動くのだ。しかし、遙香の顔がにやけているのを俺は見逃さなかった。理性で頑張って拒否しようとしたその姿勢、評価しよう。

「さすがに大のために積み立てたお金で私が行くなんて申し訳ないから」

 この遙香の言葉に、真面目な長谷川さんも頷いた。だが、数日後に形原さんの言葉で覆されたのだ。

「せっかくだからこの時代の旅行をしてきなさい。こっちは何かあっても屋形君と大君がいるから、なんとかなる」

 遙香は形原さんの言葉に、俺が同じ仕事をこなせると客観的に知らされた形になった。

「えっと、じゃ、楽しませてもらいます」

 少し苛ついた様子で参加を表明した。そして我が家、学校、局の三者が顔を合わせての緊急会議が終わった後だ。

「お土産は買ってくるから」

 くそ、なんだその勝ち誇った顔。

 かくして、俺の代わりに遙香が修学旅行に行くことになった。


 そして文化祭が終わって今、局から俺に連絡が入る。連絡してきたのは局長の形原さんだ。

「大君、授業中に連絡すまないね。君も北海道へ行けるチャンスが来た」

「今は休憩時間なので。それでどういうことです?」

 形原さんの指示でリモート授業用のPCのマイクとカメラをオフにする。

「あっちの自衛隊からの依頼でね、災害時のAAの運用試験をしてみたいと。こちらとしても寒冷地の運用には興味がある」

「なるほど、そのパイロットとして僕の手が空いているからと」

「富士見と屋形君も技術班として同行させるつもりだ。良ければどうかな」

「これはさすがに親に話さないといけないので、少し相談させてください。ちなみにAAの移動は? 学校に行くみたいに夜中に少し歩かせるというわけにもいきませんよね?」

「そこは空自が輸送機を出してくれる。君たちは普通に旅客機で向かい、現地で自衛隊と合流という流れて行こうと思う」

 なるほど、AAの研究や運用のためにちゃんと仕事してるんだな。

「それで、可哀想な君のために、学校の修学旅行と日程を合わせられないかと打診したところ、了承された。クラスメイトと一緒というわけにはいかないが、一人取り残されているのも惨めだろう?」

「あの、旅費とか遙香に使うから返金してもらってないんですが」

「公費だ」

「行きます!」

 俺に使うはずのお金で遙香が修学旅行に行き、遙香を預かるはずの局のお金で俺が旅行に行く。なんだか不思議だ。

 詳細はまた後日ということで、この電話は終了。授業には間に合った。


 放課後、いつものごとく俺の部屋に集まる遙香と笑美。本当に君たち暇だね。

「今日は重大な話があります」

 部屋に入るなり俺にそんなことを言われ、かしこまる笑美。

「どうせ新しいプラモの予約を勝ち取ったとか、スマホゲームでランキング上位に入ったとかでしょ」

 遙香はいつも通りだ。ペットボトルの紅茶を一口含むとちゃぶ台に置き、あしらうように言う。

「いや、違うぞ。なんと俺も北海道に行くことになりました」

 勉強机用のガスチェアに座る俺は、ちゃぶ台を囲む二人を見下ろすように、得意げに発表した。

「え、一緒に行けるの?」

「あら、良かったじゃない。経過観察が終わるの?」

「いや、自衛隊からの呼び出しで。俺とAAセットでな」

「そっか、北海道には行くってだけかぁ……」

 残念そうな笑美を横目でちらりと見てから、俺に視線を向け直した遙香が真っ当な意見を口にする。

「それ私の仕事じゃないの?」

「それがな、やっぱりこっちに来ちゃって色々とアレだから、遙香は普通に過ごしてほしいって形原さんが。で、外に出れない俺こそAAとセットならって判断らしい」

「結局一緒に行けないのかぁ……」

 ぽつりと呟く笑美。本当にごめんって。

「笑美はどうせクラス違うじゃない」

「それはそうだけどさ、みんな一緒に行きたかったな。スキー場ではクラスなんてないようなものだろうし」

 二人が話している間に俺もお茶を飲み、途切れたところで話を続ける。

「でもワンチャンある。形原さんが掛け合ってくれて、日程は修学旅行に合わせてくれるかもしれない」

「例えば、行き帰りだけは一緒かもしれないってこと?」

 笑美の言葉に力が戻る。

「その通り。ちなみに現地では富士見さんと屋形も一緒だ」

「オタクが3人でむさ苦しいわねぇ」

 遙香は容赦がないな。ちなみに屋形はそれほどオタクではないと思う。メカが触れるだけでオタク扱いされるのは、未来でも同じなのか。

「今回は初の遠征だからな。特に屋形にはいてもらわないと、現地で動かなくなったりすると困るしな」

「じゃ、うまくいけば空港のお土産売り場くらいまでは一緒にいられるわね」 

 心なし嬉しそうな遙香の言葉に、笑美が頷く。あくまでも詳細はこれから詰めていくという段階なので断定は出来ないが。

「ところでどっちを持って行くの? 両方?」

「赤だな。実質赤が俺用みたいになってるし」

「そうね。どちらか片方は置いておかないと、町の観光資源としても困るわね」

 遙香は自分のいた時代の技術が、この時代でただの観光資源になっていることに慣れきっている。最初は色々と文句を言っていたのに。それは俺も同じか。最近じゃ観光客相手にAA乗りとして働いている。夏休みにドブ漬けのペットボトルを売っていたのが懐かしい。


 北海道の件は、また決まり次第報告ということでお開きに。玄関まで笑美を送ると、遙香は俺と一緒に部屋に戻る。何でついてくるんだよ。

「笑美は可愛いわよねぇ……」

 呟きながら、本棚の漫画に手をかけた。

「どうしたんだ急に」

「ううん、女の子だなーって」

「お前も女の子だろ」

「あら、こんなガサツな女をちゃんと女の子として見てくれるの?」

 こいつは何を言ってるんだ。確かにガサツだが、話し方も立ち振る舞いも、育ちの良さがにじみ出ている。こっちに来たときに比べて、今はかなり庶民って感じになったが。

「とにかく、女子力ってやつでまったく敵わないってことよ。女子としての内面の話よ」

 俺のベッドに寝転んで漫画を読み始めた。

「そういうところが女子力不足だろ。部屋着に着替えてこい。制服がシワになるぞ」

 俺でさえ帰ったら真っ先に着替えるのに。楽な格好になりたいだけなんだけど。

「はいはい、あとでね」

 もう遙香は漫画に集中していた。女子力について言及しただけで、特にどうにかする気はないのか。


 後日、俺の北海道行きが修学旅行と同日で正式に決定した。陸自がトレーラーでAAを取りにきて、輸送機の発着できる基地まで移動。そこで輸送機に積み込んで北海道へ。帰りはそのまま逆のルートだ。富士見さんと屋形はAAの移動からで、俺は普通に修学旅行と同行で北海道へ行き、現地集合。形原さんと長谷川さんは有給。完璧すぎる段取りだ。残るAA、青の方は役場で突っ立っていてもらおう。

 そういえば、屋形は遙香みたいに普通の高校生をさせてもらってないよな。これは言うべきか言わざるべきか。未来の技術と、そのメカニックという役割から忙しそうではあるんだけど、少し可哀想だ。元の時代では高校生していたはずだし。

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