第26話恩恵

 姉が公式愛妾になったお陰で我が家は多大なる恩恵を受けた。

 はっきり言って、レーゲンブルク公爵夫人の名前なんて必要ない。

 陛下は姉に“ボルドー公爵夫人”の称号と、領地、屋敷。姉との間に生まれた子供達にも“殿下”の敬称を贈った程だ。


 元々、ワイン産業で財を成した家だ。

 シャトール侯爵領はワインの産地として有名で、昔から上質なワインを生産していた。

 ワインのお得意様は、王族や貴族だ。高値で取引されている。

 特に王族への贈り物として喜ばれていた。


 そこに姉が陛下から贈られた領地。

 内陸部だが運河が幾つも流れている。ワインを加工する上でも適した土地だ。港もある。交易港として栄えている街だ。その街の郊外にワインの蒸留所を造れば、一大産業になるだろう。

 更には領地の外れにある森を開拓して牧場にすれば、乳牛も飼育出来る。ワインにあう加工品も作れる。


 私が考えついたのだ。

 当然、姉はとっくに思いついていた。

 更に、シャトール侯爵家との事業提携を陛下に願い出た。

 陛下は二つ返事で了承した。姉が陛下の寵姫だから、ということもあるだろうが。

 事業提携には、当然だが利益も絡んでくる。

 シャトール侯爵領とワイン産業の提携だ。

 この事業により、我が家は莫大な利益を得ることになるだろう。


 そう、レーゲンブルク公爵家との事業提携など比べるまでもない程に。

 姉が陛下の寵姫でなければ、レーゲンブルク公爵家と縁を断ち切ることはできなかっただろう。

 事業で結びついた関係。それは永遠ではない。

 五年、十年と契約更新を繰り返さなければならない。

 利益にならないものは切り捨てる。事業とは、そういうもの、だ。

 つまるところ、我が家はレーゲンブルク公爵家と手を切る良い機会を得られたということだ。



「これでようやく……か」


 父は感慨深げに呟いた。


「はい。ようやく」


 私は父に同意する。

 これでやっと、あの男と縁を切れるのだ。


 甥の廃嫡と、その死によって。




 


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