第8話報告(ベアトリクスside)

 ランドルト侯爵家の三姉妹の真ん中に生まれた娘。

 それが私、ベアトリクス・ランドルト。


 侯爵家は、どこの派閥にも属していない中立を保ち続けている。

 建国当時から続く、由緒正しい家柄。

 建国以来の宮廷貴族で領地を持たずに、政財界で力をふるってきた。

 王家も無視できない力を持っている。

 だからこそ、婚姻に置いても慎重になるし、なにより“血統保持”にうるさい。

 もっとも“血統保持”に関しては古い血筋ほど、管理下に置かれているので我が家だけではない。


 なのに……



「お父様。レーゲンブルク公爵の嫡男達が男爵家の庶子と大変親密な関係を築いております。速やかに手を打ってください」

「わかった」


 父は書類に判を押しながら、小さく頷いた。

 驚かないところを見ると、もう把握しているのでしょうね。


「王家も動いている。……本当にいいのか?」


 父は書類から顔を上げずに尋ねてきた。

 婚約者の処遇についてだろう。

 王家が動いたとなると生半可な処罰では済まない。


「もちろんです」


 そう答えると、父は小さく溜め息をついた。


「わかった。……確かに伝えたぞ」


 そう言うと父は再び書類に判を押す。

 私はそれを確認して、父に頭を下げた。


「お気遣い、感謝します」


 そしてそのまま部屋を後にした。

 これで男爵家は終わりだ。

 公爵家もどうなることか……。王家が動くということは、そういうことだ。

 王家が絡んでいる婚姻契約だというのに、それを反故にするかのような言動。彼らは理解していないのか、それとも忘れ去っているのか。

 どちらにしても、身の程知らずも甚だしい。


「それにしても……、困ったわ」


 婚約者の挿げ替え、もしくは他家との婚約。

 いずれ王家から下されるだろう。

 そこに、当事者の意思は反映されない。


 まぁ、王家が絡まない結婚であっても、貴族の結婚の場合は個人の意思など殆ど無視される。

 極々稀に、相思相愛の相手と結ばれるケースは稀にあるが、それも数十年に一度あるかないか。


 兄姉が多く、地盤固めが不要な末っ子なら「好きな人と結婚していい」と言われることもあるだろう。殆どないけど。ただし、その場合は「これ以上の地盤固めをすると上の連中から睨まれるから」が理由だ。もっと深読みするなら「上の相手を選ぶなよ。下を選べ。ただし敵対派閥はダメだ。中立派閥から選べ」とか。別の意味で無理難題を吹っ掛けられるので、正直言って自由結婚も地獄である。


「はぁ……」


 私は溜め息をついた。

 この年齢で婚約解消。憂鬱だった。

 同年代の目ぼしい令息は、既に婚約済み。

 ほぼほぼ狩りつくされて、残っているのは残りかす。運よく有望物件を捕まえられたとしても、相手はワケアリ物件だろう。

 本当に憂鬱だわ。

 まぁ、幸いなことに王家が動いてくださったおかげで、不名誉なレッテルを貼られずに済みそうだけど。


「偉そうなことは言えないわね。私もこれでワケアリの傷物物件だもの」





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