[総ルビ]元貧乏エルフの錬金術調薬店(web版)

２１ 芽が出たよ

●２１ 芽（め）が出（で）たよ

　お店（みせ）が決（き）まってすぐのころ。まず布団（ふとん）と枕（まくら）をマリーちゃん経由（けいゆ）で発注（はっちゅう）した。生活（せいかつ）費（ひ）だけは支度（したく）金（きん）として貰（もら）っていたけど、いかんせんそれだけでは足（た）りなかった。独立（どくりつ）に必要（ひつよう）なお金（かね）はまとめて月末（げつまつ）払（ばら）いということになった。月末（げつまつ）も無理（むり）なら翌月（よくげつ）以降（いこう）の分割払（ぶんかつばら）いも利用（りよう）できる。

　あとは食器（しょっき）類（るい）、火（ひ）で使（つか）う薪（まき）なんかが最低限（さいていげん）必要（ひつよう）だった。

　ご飯（はん）のパン（[bread]）は普通（ふつう）、買（か）ってくるものだし、おかずは具（ぐ）入（い）りスープ（soup）が一般（いっぱん）的（てき）で、簡単（かんたん）な調理（ちょうり）器具（きぐ）は錬金術（れんきんじゅつ）と共用（きょうよう）なので、普段（ふだん）からリュックサック（rucksack）に入（い）れている。

　夕（ゆう）ご飯（はん）を僅（わず）かな野菜（やさい）と燻製（【くんせい】）肉（にく）を入（い）れてスープ（soup）を作（つく）る。料理（りょうり）は家（いえ）で家事（かじ）もしていたので得意（とくい）だった。

　ただこの家（いえ）には自分（じぶん）とあとポムしかいなくて寂（さび）しかった。

「ポム、いただきます」

「きゅっきゅっ」

　夜（よる）も広（ひろ）い家（いえ）に一人（ひとり）だ。いやポムと二人（ふたり）きり。

「ポム、おやすみなさい」

「きゅっ」

　ポムを抱（だ）きしめて、眠（ねむ）る。

　宿屋（やどや）の狭（せま）い部屋（へや）も、寂（さび）しさを紛（まぎ）らわすためなら、有効（ゆうこう）かもしれないと思（おも）った。

　居抜（いぬ）き物件（ぶっけん）なので、ベッド（bed）も二（ふた）つ置（お）いてあった。

　隣（となり）のベッド（bed）は空（から）っぽだ。

　ポムは自分（じぶん）のベッド（bed）よりも私（わたし）の上（うえ）で寝（ね）たがるみたい。

　ポムがいてよかった。一人（ひとり）だったらもっともっと寂（さび）しいと思（おも）う。

　備（そな）え付（つ）けのタンス（[chest]）に、リュックサック（rucksack）から出（だ）した服（ふく）を入（い）れていく。

　でも一着（いっちゃく）分（ぶん）はリュックサック（rucksack）に残（のこ）して置（お）く。どこかに行（い）ったときに着替（きが）えが必要（ひつよう）になるかもしれないし。

　そうしてお店（みせ）の準備（じゅんび）をした。

　お店（みせ）は午後（ごご）から毎日（まいにち）、日曜日（にちようび）以外（いがい）は開（あ）けることにする。

　午前（ごぜん）中（ちゅう）は仕込（しこ）みや薬草（やくそう）園（えん）など、色々（いろいろ）やることがあるので、お店（みせ）は閉（し）めておくことになった。

　薬草（やくそう）園（えん）も種（たね）を植（う）えてある。

　建物（たてもの）の近（ちか）くは日陰（ひかげ）になるので、日光（にっこう）に弱（よわ）い、木陰（こかげ）や日陰（ひかげ）を好（この）む薬草（やくそう）を植（う）えた。

　逆（ぎゃく）に真（ま）ん中（なか）らへんは日光（にっこう）がよく当（あ）たるので、日向（ひなた）が好（す）きな薬草（やくそう）を植（う）えてある。

　特筆（とくひつ）することといえば、肥料（ひりょう）の堆肥（たいひ）に混（ま）ぜて、クズ魔石（ませき）を粉々（こなごな）にしたものを少量（しょうりょう）だけど、入（い）れてあった。

　これは王都（おうと）だと、魔素（まそ）が極端（きょくたん）に薄（うす）いことが品質（ひんしつ）の低下（ていか）に繋（つな）がることが分（わ）かっていたので、それの改善（かいぜん）になるはずだった。

　実家（じっか）の薬草（やくそう）栽培（さいばい）に関（かん）する書物（しょもつ）に書（か）いてあったことの受（う）け売（う）りだ。

　実家（じっか）では特（とく）に魔素（まそ）が濃（こ）い場所（ばしょ）で育（そだ）つ特殊（とくしゅ）な薬草（やくそう）用（よう）に、同様（どうよう）の対策（たいさく）をしたことがあるから、たぶんイケると思（おも）う。

　ただ今回（こんかい）は濃（こ）い用（よう）じゃなくて、ほぼないのを普通（ふつう）くらいにするという違（ちが）いがあるので、必（かなら）ずうまくいくとは限（かぎ）らない。

　錬金術（れんきんじゅつ）師（し）とは慎重（しんちょう）なのだ。万（まん）が一（いち）、自然（しぜん）災害（さいがい）のようなことになってはいけない。中（なか）には自然（しぜん）に強（つよ）く作用（さよう）する薬（くすり）なんかもあるので、いつでも慎重（しんちょう）であることは重要（じゅうよう）だ。

　マリーちゃんと二人（ふたり）で頑張（がんば）った。

　ポムはその辺（へん）でころころしていた。日向（ひなた）ぼっこなんかもこの子（こ）は好（す）きだ。

　オープン（open）してから一週間（いっしゅうかん）、なんとか経営（けいえい）できた。

　飴（あめ）とかも準備（じゅんび）して、数日（すうじつ）経過（けいか）したある日（ひ）。

　薬草（やくそう）園（えん）では、ユグドラシル（Yggdrasil）の木（き）は今（いま）のところ枯（か）れないで元気（げんき）だ。

　それから早（はや）い薬草（やくそう）の芽（め）がもう出（で）始（はじ）めていた。

「ミレーユさん、ほら、芽（め）、芽（め）がああ」

「うん。薬草（やくそう）はたくましいのもあるから、早（はや）いね」

「はい。芽（め）が出（で）てますうぅううう」

　マリーちゃんが楽（たの）しそうだった。こういう植物（しょくぶつ）栽培（さいばい）とかもしたことがなかったらしい。

　さっそく芽（め）が出（で）て感激（かんげき）していた。

「これは　（▼）ルーフラ草（そう）。中級（ちゅうきゅう）ヒーリング（healing）ポーション（potion）のベース（base）原料（げんりょう）だね」

「ああ、これが中級（ちゅうきゅう）ポーション（potion）の材料（ざいりょう）なんですね」

「はい。王都（おうと）では、かなり入手（にゅうしゅ）困難（こんなん）で、栽培（さいばい）農家（のうか）も近郊（きんこう）農家（のうか）のごくわずか、だそうです。メイラさん曰（いわ）く」

「へえ、メイラ副会長（ふくかいちょう）は詳（くわ）しいんですね」

「そりゃあね。薬草（やくそう）卸問屋（おろしどんや）の娘（むすめ）だから」

「そうらしいですね」

　水（みず）やりも終（お）わった。

　二人（ふたり）でお昼（ひる）ご飯（はん）を軽（かる）く済（す）ます。

「ミレーユさん。ついに午後（ごご）ですね」

「はい」

「覚（おぼ）えていると思（おも）いますが、ちゃんとご用意（ようい）しましたよ」

「そうですね」

「なんか返事（へんじ）が棒（ぼう）ですね」

「はい」

「緊張（きんちょう）してますか」

「だって、だってええ、は、恥（は）ずかしいんだもん」

「自分（じぶん）で決（き）めたことなのに」

「だって、だって」

「はいどうぞ。メイド（maid）服（ふく）です」

　マリーちゃんが荷物（にもつ）から私（わたし）のためのメイド（maid）服（ふく）を取（と）り出（だ）してくれる。