[総ルビ]元貧乏エルフの錬金術調薬店(web版)

１２ 屋上の薬草園だよ

●１２ 屋上（おくじょう）の薬草（やくそう）園（えん）だよ

　席（せき）を立（た）ち、階段（かいだん）に向（む）かい上（のぼ）る。

　ドア（door）を開（あ）けると一面（いちめん）、薬草（やくそう）園（えん）になっていた。

　この商業（しょうぎょう）ギルド（guild）の建物（たてもの）はけっこう大（おお）きいので、畑（たはけ）も思（おも）ったよりずっと広（ひろ）い。

　ポムがうれしそうにポンポン飛（と）び跳（は）ねていた。

「そちらのスライム（slime）は随分（ずいぶん）楽（たの）しそうだな」

「あの、ポムは薬草（やくそう）を食（た）べるのが大好（だいす）きなんです、そ、それで、えへへ」

「構（かま）わんよ。ポム君（くん）が食（た）べるくらいならいくらでも食（た）べていい」

「よかったねポム。食（た）べていいって」

「きゅっ」

　畑（はたけ）の中（なか）に突撃（とつげき）していって夢中（むちゅう）になって薬草（やくそう）をむしゃむしゃしだした。

　なんだか最初（さいしょ）に会（あ）ったときみたいで、微笑（ほほえ）ましい。それに懐（なつ）かしい。

「薬草（やくそう）を食（た）べるスライム（slime）か。珍（めずら）しいな」

「そうなんですか？」

「ああ、テイム（tame）したスライム（slime）はよく見（み）かけるが、ほとんどは雑食性（ざっしょくせい）だな」

「ポムも一応（いちおう）、雑食性（ざっしょくせい）ですよ」

「そうなのか……私（わたし）は初（はじ）めて見（み）る」

「ほほう」

　それにしても広（ひろ）いんだけどね。植（う）わっている草（くさ）が代替（だいたい）薬草（やくそう）のモリス草（そう）しかない。

　王都（おうと）では薬草（やくそう）といったらずばりコレだけど、でももっと効果（こうか）が高（たか）くて育（そだ）てられる薬草（やくそう）だってあると思（おも）うんだ。

　土（つち）をチェック（check）してみる。

　栄養（えいよう）は及第（きゅうだい）点（てん）だけど、それはここが普通（ふつう）の花畑（はなばたけ）だったらの場合（ばあい）だ。

　魔素（まそ）が足（た）りてない。魔素（まそ）が弱（よわ）いと薬草（やくそう）としての効果（こうか）がかなり弱（よわ）くなると思（おも）う。

　魔素（まそ）はあらゆるところに漂（ただよ）っているけど、街（まち）の中（なか）はどうしても弱（よわ）まるのが避（さ）けられない。

　モリス草（そう）は露店（ろてん）でも売（う）っているくらいだから、余（あま）り気味（ぎみ）ではないだろうか。

　それよりは増幅剤（ぞうふくざい）のミルル草（そう）のほうが、栽培（さいばい）するなら向（む）いていると思（おも）う。

　ミルル草（そう）も薄（うす）くて少（すく）ない土（つち）でも育（そだ）つから。根（ね）っこが大根（だいこん）タイプ（type）ではなく、細（こまか）い根（ね）が横（よこ）に広（ひろ）がるように伸（の）びるからちょうどいいはず。

「なるほどな、ミルル草（そう）か」

「はい。おすすめです」

「しかしだよ」

「はい」

「うちのお抱（かか）え錬金術（れんきんじゅつ）師（し）たちはミルル草（そう）の種（たね）の増幅剤（ぞうふくざい）の入（はい）ったポーション（potion）を作（つく）れるのかい？」

「う。えっと修行（しゅぎょう）してコツを掴（つか）んだら、たぶん」

「ならすぐには無理（むり）だな。まあ一割（いちわり）ほど試験（しけん）栽培（さいばい）してみよう」

「はい。それくらいが最初（さいしょ）はいいかもしれませんね」

　栽培（さいばい）時期（じき）をずらして植（う）えてあり、ここの薬草（やくそう）園（えん）は一年中（いちねんじゅう）安定（あんてい）して取（と）れるように調整（ちょうせい）しているそうだ。

　もちろん外（そと）からもモリス草（そう）は買（か）っているけれど、ここの薬草（やくそう）園（えん）があるから、最低（さいてい）限度（げんど）は確保（かくほ）することができる。

　たとえライバル（rival）のメホリック商業（しょうぎょう）ギルド（guild）が市場（しじょう）の薬草（やくそう）を買（か）い占（し）めても、ここの薬草（やくそう）があるから買（か）い占（し）めることが実際（じっさい）にはできないのだ。

　そういう保険的（ほけんてき）な意味合（いみあ）いが強（つよ）いと説明（せつめい）してくれた。

「色々（いろいろ）大変（たいへん）なんですね」

「ああ、まあね」

「でもなんでそんなに薬草（やくそう）に力（ちから）を入（い）れているんですか」

「うちはね、もともと薬草（やくそう）の卸問屋（おろしどんや）だったんだ」

「なるほど」

「まあそれもだいぶ昔（むかし）のことだけど、それで今（いま）もこうして薬草（やくそう）の管理（かんり）にはうるさいってわけだわ」

「ふむふむ」

　商売（しょうばい）にもそのお店（みせ）の歴史（れきし）っていうのがあるんだね。

「どうだろう。こんな私（わたし）たちのホーランド商業（しょうぎょう）ギルド（guild）だ。薬草（やくそう）卸問屋（おろしどんや）と錬金術（れんきんじゅつ）師（し）、悪（わる）くない組（く）み合（あ）わせだと思（おも）う。ギルド（guild）の力（ちから）は実際（じっさい）には少（すこ）し弱（よわ）いが、これから強（つよ）くなるはずだ。いや一緒（いっしょ）にギルド（guild）を強（つよ）くしていかないか」

「はい。でも、一応（いちおう）公平（こうへい）にって話（はなし）なので、明日（あした）はメホリック商業（しょうぎょう）ギルド（guild）を訪（たず）ねてみます」

「そっか、いい返事（へんじ）を期待（きたい）している」

「期待（きたい）に添（そ）えるかは、まだ分（わ）かりません」

「正直（しょうじき）なところも好（す）きだよ」

「そんな」

「うふふ」

「あっそうだった。ところでメホリック商業（しょうぎょう）ギルド（guild）ってどこにあるんですか？」

「それを私（わたし）に聞（き）くのかい、ミレーユちゃんは」

「はい。だって知（し）らないし。知（し）らない人（ひと）には聞（き）きづらいから」

「冒険者（ぼうけんしゃ）ギルド（guild）の隣（となり）だよ」

「なんと」

　こうしてホーランド商業（しょうぎょう）ギルド（guild）への訪問（ほうもん）は終（お）わり、風（かぜ）精霊（せいれい）の宿（やど）り木（ぎ）亭（てい）に戻（もど）っていった。

　明日（あした）はメホリック商業（しょうぎょう）ギルド（guild）へ行（い）かなくちゃ。