第十五話:凱旋と掛け違い
パルマム奪還を果たしてオーヴィスに帰還した慈達一行。聖都の住人達は、勇者シゲルの勝利と凱旋を盛大に祝って迎えた。
今後はクレアデスの王都アガーシャ奪還に向けて、軍と協議した上で各地の拠点となり得る街や砦に部隊を送り、人類の領域を広げていく事になる。
「まずはオーヴィスとその周りの防衛を固めてからだな」
「シゲル君は仕事熱心ですねぇ。しかし今はまず、勝利を祝いましょう」
パルマムの宮殿でシャロルが危惧していた通り、慈はやる気満々だ。
確かに彼の力は強大だが、一戦交える度にあのような感情の反動に苛まれる事を思えば、やはり性急な作戦には参加させられない。
出来るだけ慈の負担を減らせるような戦場を設定しなければと、シャロルは考える。
慈達を乗せた馬車は観衆が湧く大通りを抜けると、王宮の敷地に到着した。
神殿に戻る前に、王の御前で今回の戦果報告があるのだが、この時は勇者と六神官が揃って謁見の間に集合するので、報告や挨拶は全て六神官に任せられる。
城の控え室に案内されたところで、シャロルは慈とアンリウネに声を掛けた。
「では、私は他の者達を呼んで来ますので。アンリウネ、シゲル君を任せましたよ」
「はい」
慈と並び立つアンリウネは、神妙に頷いて了承した。ちらりと、アンリウネに視線を向ける慈。帰りの馬車では、あまり会話も無かった。
「とりあえず、座って待ってようか」
「そうですね」
宝具の詰まった鞄をどっこいせと肩から降ろした慈は、それを脚で挟むようにして椅子に腰掛けた。アンリウネはその隣に佇む。
「アンリウネさんも座ったら?」
「いえ、私はここで」
会話が続かない。
(うーむ……)
内心で唸る慈は、彼女の態度が余所余所しくなったのは、やはりパルマムの宮殿での出来事からかと当たりを付けると、早目早目の関係改善に乗り出す。
世界を救った暁には、寿命を削って召還魔法を使って貰う事になる。そう言う意味では、割り切った付き合い方をしてあまり深い関係にならない方が良いのかもしれない。
だが、五十年後の彼女等と寝食や戦いを共にして来た慈としては、互いに心を許せる信頼関係を築きたいと思うのだ。
「アンリウネさん」
「何でしょう?」
「俺のアレどうだった?」
「ごふぅっ!」
アンリウネが思い切り咽た。
「ああ、その反応。やっぱりあの時の事が引っ掛かってたんだな」
「い、いえ、私はただ、その……」
しどろもどろになるアンリウネに、慈は笑いながら「俺も恥ずかしかったから」とフォローすると、少し畏まって告げる。
「前にも話したけど、俺はメンタル大して強くないから、パルマムの時みたいな戦いは終わったらその都度フォローしてもらわないと、結構キツイんだ」
「は、はい……」
神妙な表情になって頷くアンリウネからは、随分と緊張している様子が覗えた。ほんのり赤面しており、何やら覚悟を決めようとしている雰囲気が感じられる。もしやと思った慈は、念押しに重ねて告げる。
「あの、別に性的になんかしてくれって話じゃないからね? そこはあんまり深読みは無しで」
「え……! あ、す、すみません……」
一瞬の驚きの後、ホッとした表情を浮かべたアンリウネは、慈に見せた自分の一連の醜態を気恥ずかしく思ったのか、顔をさらに赤くしてはうつむいてしまう。
(やっぱりそっち方向に勘違いしてたんかいっ!)
内心で突っ込んだ慈はしかし、確かにあの流れで抱き着いて『フォローが必要だ』では、身体を求められたと勘違いしてしまうのも無理はないと納得した。
そんなこんなと交流を図っているうちに、シャロルに呼ばれた他の六神官達が控え室にやって来た。そこには、何やら拗ねているようなアンリウネと、苦笑しながらそれを慰めている慈の姿。
「あ、ほら、みんな来たから、王様に報告しに行こう?」
「そうですね……」
ポフポフとアンリウネの肩を叩いた慈は、誤魔化すように笑って見せた。
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