第25話 スタンピードとその後
「ま、りさま、祈里様。」
「ん?タルタロスか。」
「ああ、目が覚めたのですね?祈里様。御機嫌はいかがですか?」
「ああ、大丈夫だよ。」
「あいつは。ディザイアはどうなったのですか?」
「さぁ、なんか誰かと喋っていたような気がするがそのあとどうなったのかは僕にはよくわからない。」
「まぁ、大丈夫ではないのでしょうか。魔神に乗っ取られていたのなら我々はここにはいないのですから。」
サンダルフォンが言う。
「ああ、サンダルフォン、あなたも力を貸してくれてありがとう。」
「まだまだお貸ししておきますね。」
「え?いや、でも。」
「お忘れかもしれませんが、まだスタンピードは終わってはいませんよ。」
そうだった。
そんな時に本部からの指令の連絡がやってきた。
そこには、
「これは初世班の人間に当てた指令である。たった今、巨大な魔力源の消失を確認した。君たちが頑張ってくれた結果であろう。だが、スタンピードはまだ終わっていない。半分以下には減ったがまだ残っている。初世班も魔物の殲滅に向かって欲しい。」
と、書かれていた。
「魔物達を引き連れていたのは魔神であるディザイアであった。だから、その支配が解かれて、魔物達は彷徨っている状態なんだよ。このままだと、魔物達は獲物、人の多いところを目指すだろう。軍隊の方へ向けばいいが、街に向かえば大災害には変わりがなくなってしまう。」
サンダルフォンが教えてくれる。
「でも、みんなはまだ倒れているんじゃ。」
「それなら大丈夫だよ。」
背後で声がする。
声の主は刀弥であった。
その後ろにはみんなもいる。
「みんな、起きていたの?」
「ああ、お前が寝ている間にな。」
「じゃあ、みんなもう出発できる?」
「ああ。」
「行けるだよ。」
「行けるです。」
「行けます。」
僕らは北の大地を目指して飛び立つ。
北の大地では魔物がどこに行けばいいのかわからずと言う感じで彷徨っていた。
「こいつらを全部倒したらこのスタンピードも終わるのか?」
「ああ、そうだね。」
「じゃあ、行こうだね。」
「行こうです。」
「いや、ちょっと待って。先に僕の一撃で殲滅するよ。ルナ?」
「はい、本部に伝えて、前線の皆さんには下がっていてもらっています。」
よく見ると、空にもたくさんの人がいる。
本部の指示通り、下がってくれているのだろう。
僕は弓を顕現する。
そして、天に向かって手を掲げる。
「六天龍!」
天が割れ、六体の龍が姿を現す。
各属性の龍。
魔物達や周りの軍人の視線が一つになる。
「一つ、炎龍!」
万物を灰へと変える炎の龍。
「二つ、氷龍!」
万物を凍らせる氷と雪の龍。
「三つ、風龍!」
万物を切り裂く風の龍。
「四つ、土竜!」
大地を割り、敵を喰らう龍。
「五つ、影龍!」
万物を飲み込む闇の龍。
「六つ、光龍!」
万物を包む光の龍。
それぞれの龍の力を矢に込めて、一体ずつ放つ。
それぞれが大地を喰らい、魔物を飲み込み、突き進む。
それから、残った魔物を総員で掃討する。
スタンピード終結後、二日が経った今、僕はワルプルギスに呼ばれていた。
本来、ワルプルギスは魔女と七つ星の生徒しか参加できないはずなのだが、今回、特別に呼ばれた。
円卓に座る。
扉の一番反対に黄昏が座っている。
そこから時計回りに逢魔、小夜、宵、僕、暁、東雲、久遠が座っている。
僕はまだ今日の議題を知らない。
全員が深刻な顔をしているから良い話では無いのだろう。
ただ一人だけ黄昏がこちらにニコニコ笑っている。
薄寒い。
「さて、今日初世君にきてもらったのは他でもない、二日前の魔神ディザイアとの戦闘時に発現した諸々の力についてである。」
逢魔の魔女が会話を切り出し始める。
「初世君、その力について教えてくれるかな?」
「はい、ディザイアとの戦いの最中、死ぬかもっと思った時、サンダルフォンと名乗る天使が力を貸してくれたのです。」
「今の君の中にある力はそれだけじゃないな。」
「はい?」
「今の君の中にあるのは魔人と魔神の力、だろう?」
「魔人は分かりますが、魔神についてはよくわからないです。」
「お話ししてもよろしいでしょうか?」
タルタロスが俺の影から出てきた。
「構わない、話せ。」
「は、今の祈里様の状態ですが魔神の力は完全に祈里様の中で制御されています。何者かが祈里様の中で魔神を喰らったようです。」
「何者か、か?それについて何か言いたいことがあるか?アリス。」
「え?どうして黄昏に聞くんですか?」
「どうして、か。本当にわからないのかい?」
逢魔の魔女が何を言っているのかが本当にわからない。
「初世君、君はたまたまアリスによって命を救われた。そうだね?」
「はい、死にかけのところを助けてもらいました。」
「それは本当に偶然だったのかと言う話だよ。」
「え?それって。」
「よくよく考えてみてほしい。君は今、魔人と魔神と天使の力を手にし、それが完全に体に馴染んでしまっている。全く異なる力を体が受け入れているんだ。そして、報告ではその精神力、集中力は神の域にまで到達しかけたと言う話ではないか。そんな存在にたまたま魔女という力を持った存在が出会うか?そして、魔女の血まで与えてしまう者だろうか?」
想像してしまった。
最悪の想像を。
今まで一番近くで見ていてくれた人が敵だった、なんて想像を。
「どうなんだ?アリス!すでに初世君は我々の守るべき生徒、いわば宝である。それを利用しようというならば容赦はせんぞ。」
円卓に座る魔女一同が首を縦にふる。
明らかに机の下で術式の準備をしている。
「ふふふ、言いたいことか?あるなぁ、いっぱいあるさ。何より、祈里は私の子だ。君らがどう啖呵を切ろうとその事実は変わらない。利用?そりゃあするさ。私が拾ってきた私の可愛い子供なのだから。」
黄昏を除く、魔女全員が険しい表情を浮かべる。
「初世君をどうするつもりだ!アリス!」
「魔王の復活。」
「は?」
その場にいた全員の動きが止まった。
黄昏の発言に脳の処理のリソースを割く必要ができたのである。
「魔王って、アリス、お前!」
「魔王って誰ですか?」
僕一人だけが状況についていけていない。
「そうだったね。君にはそこから話そうか。」
黄昏は今まで通り優しい口調で話してくれる。
「現実とは違う、この裏側の世界。ここにはこの世界を統治する十三人の存在がいる。それは人間かもしれないし、天使や悪魔、魔人と魔神、彼らのように人ならざるものの場合もある。その十三人の存在は十三の都市や地域を支配している。そして、この街を支配していたのがその魔王なんだよ。魔王は他の十二人を管理していたんだよ。名を万喰の魔王デスピア。」
「万喰の魔王デスピア?」
「そう、名の通りすべてのものを喰らい、その能力を使うことができるようになるんだよ。どんな存在だとしてもね。だから、みんな畏敬の念を込めて魔王と呼ぶんだよ。」
「で、だ。どうして、アリス、お前さんはいきなり魔王様の復活なんて言い出したんだよ?」
「そうですよ、そもそも復活ってどういうことですか?魔王様はいらっしゃらないんですか?」
「逆に見たことあるかい?」
「無いですね。」
「魔王様は十年ほど前にそのお姿を消された。」
逢魔の魔女が教えてくれる。
「そうなんですか。」
「そんな状態で在らせられるというのに復活とはどういうことだ!まるで死んだような言い方ではないか。」
「理想を抱くな!もうあの方はいらっしゃらないのだから今はもう未来を見るべき時なのだ。」
「っぐ。わかった。そのことはもういい。だが、初世君はどうするつもりなんだ?魔王様の復活のための生贄にでもするつもりなのか?」
「そんなわけないだろう。祈里の中には魔王の魂が眠っている。だから、祈里には魔王の椅子に座ってもらうつもりだよ。」
魔王の椅子に座る?
誰が?
僕が?
「はああああ⁉︎」
「それは誰が教育するんだ?」
無視された。
「もちろん、私達、魔女一同だよ。」
「だと、思ったよ。それについては私も力を貸そう。」
『私達も腰を上げますか。』
まさかの魔女全員での教育を受けることになった。
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