第13話 ハッピーウェディング
自分のお母さまにお祝いを言われ、相川さんは面食らったそうだ。畠山さんのお母さまも、この段になればさすがに祝ってくれた。相川さんも畠山さんもほっとしたそう。
お母さまのお相手からご祝儀をもらったそうだが、まずご祝儀袋のサイズと豪華さ、厚みに驚き、中をあらためたらその金額がえげつなく、慌てて聞いていたSNSのアカウントに連絡したら、「気持ちやからね!」と強く押し切られてしまったそうだ。しかも内祝いまで辞退されてしまい、相川さんも畠山さんも恐縮しきりだったと言う。
岡町に無事新居も見付かり、落ち着いた9月末の週末、ふたり揃ってやってきた。
「いらっしゃいませ。畠山さんはお久しぶりですねぇ」
「すっかりご無沙汰してしもて。相川にお願いしても連れて来てくれへんし、せやかてひとりで来るんも、相川に何や悪いしなぁと思って」
「ここは私の隠れ家ですからね。いくら畠山くんでも、そこは譲れません」
「でも僕もこれからは岡町住民ですから、頻繁に来れますよ」
「もちろん私ひとりでも来させてもらいます。私、こちらで女将さんとお話をしながらまったりと過ごすのが好きなんです」
「あら、嬉しいです。いつでもお待ちしておりますね」
ふたりはおしぼりで手を拭いて、おしながきに目を落とす。ふたりであれこれと小声で話しながら。
「あの、僕には
「はい。お待ちくださいね」
伯楽星純米吟醸は、宮城県の
宮寒梅純米吟醸は、こちらも宮城県の
「ごはんも食べんとな」
「何しようか。あ、私、筑前煮食べたい」
「ええやん」
相川さんは、素直に自分が食べたいものが言える様になった様だ。多分だが、生活費の財布がふたりでひとつなのだろう。畠山さんにご馳走されるのでは無く、自分たちのお金。だから使える範囲で遠慮が無くなったのだ。
ふたりはこれからも、こうして支え合って
「あ、
「あら」
相川さんの言葉に、世都は目を丸くする。さっそく喧嘩が
「実は、家具とか家電とか、この機に一新したんですよ。畠山くんは実家暮らしやったし、私は祖父母の家で使ってたのをそのまま持って来てたんで、ええ加減年季が入りすぎてて。で、一通りは揃ったんですけど」
「ソファの色で揉めてるんです」
「ソファ……、リビングに置く、でええんですよね?」
「そうです。私はシックな、
「僕は黄色とか黄緑色とかの、明るいのにしたくて」
「でも、そんな淡い色やったら、汚れとか目立つんちゃうんやろかて思って」
「せやけど、明るい色の方が、リビングが明るなるやん」
「て、平行線になってもて。どっちがええか、占ってもろて、それに従おかって」
おやおや。何とも微笑ましい
「ええですよ。ほな、お食事のあとで。まずはお腹いっぱいになってくださいね」
「はい」
「はい」
そう応える相川さんも畠山さんも、とても幸せそうだ。こうして家具ひとつで揉めるのも楽しいのだろう。
しかし一大事だ。お家のメインスペースとも言えるリビングのイメージを示すという、大仕事を請け負ってしまった。これはどちらになっても、恨みっこ無しということで。
しかし世都はこっそりと思う。ベーシックなソファを買い、カラフルなマルチカバーでお着替えを楽しんではどうかと。
だがそんなことは決して言わない。だからこっそりと願う。どうか占い結果が、双方納得のいくものになりますようにと。
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