第3話 五目チャーハンの賑やかさ
「
ソファ席で
「はい、お待ちくださいね〜」
要はその底抜けの明るさ、
その
その良し悪しは本人だけのものである。そうであることで幸せなことも不幸なことも起こるだろう。
だがそれは恋愛に限ったことでは無い。差はあるだろうがこだわりは誰しもが持つものである。
「結城さんのこと、実際どうなん?」
カウンタの奥あたりに掛ける
「占いの結果通りですよ。まぁ結城さんのことですから、そのあたりは真っ直ぐに行かれるかも知れませんねぇ」
駆け引きなども必要になってくるのだろうが、きっと結城さんは自覚無くそれらを
世都の横では龍平くんが五目チャーハンの具材の準備をしてくれている。ひとつのバットに五目の素材が揃えられ、小さなボウルで卵がほぐされる。
「俺は恋愛にのめり込むタイプや無いから、あんま気持ちは分からんけど、友だちを
「そうですねぇ」
世都はフライパンを温めてごま油を引き、溶かれた卵を入れる。じゅわっと音がし、卵が周りからふんわりと膨らむ。シリコンスプーンで軽く混ぜながら半熟状態にしたら温かいごはんを入れて、ごはんに卵を絡ませる様に大きく混ぜて行く。
「基本、人の心は自由やと思うんですよ。他人の犠牲が無ければ。でも何かひとつが動けば、必ず何かが犠牲になったり歪んだりしますよね」
「そうやなぁ」
「はなやぎ」の五目チャーハンの具材はみじん切りにしたかまぼこと人参、ハムとザーサイ、小口切りの青ねぎである。人参にはあらかじめ火を通してある。
鍋肌に日本酒を入れ、アルコールをしっかりと飛ばしたら具材を一気に入れた。
「俺も
同じことを目の前にしてどうするか。それは
高階さんはお友だちのことを思って身を引き、結城さんは関係無いと突き進む。自分が犠牲になるか、人を犠牲にするか。その幅は決して狭まりはしないだろう。根本が違うのだから。
端から見ると結城さんの行動は褒められたものでは無いのかも知れない。自分本位だと
世都はチャーハンの味付けをする。お塩とこしょう、うま味調味料、鍋肌にお醤油。全体をざくざくと混ぜて。
「人さまの感情が絡むことは難しいですよねぇ。正解なんてきっと無いんでしょう。ただ、せめて近しい方をないがしろにはしないようにしたいとは思います」
「せやな」
高階さんはロックグラスを傾け、世都は穏やかな表情を崩さない様に努めながら、できあがった五目チャーハンを白い丸皿に盛り付けた。
世都にとって、恋愛とはやっかいなものである。「恋」と「愛」ふたつの感情が寄り合わさってこの「恋愛」と言う文字を形作っているが、このふたつは似て非なるものだと世都は思っている。
恋は自分勝手なもの、愛は相手も大事にするもの。乱暴で極端な解釈だと思うが、あながち間違ってはいない気もする。
愛と名の付く感情はいろいろある。恋愛もそうだし、家族愛、友愛もそうだ。相手を
恋愛がらみの有事にのみ「はなやぎ」に来る結城さんの別の面を、世都はあまり知らない。だから普段の周りへの振る舞いは分からない。
お友だちと同じ人を好きになり、どちらかが
悔しさや悲しさを抱えつつ、それでも落ち着けたとき、ほんの心の片隅ででも「おめでとう」と思えるかどうか。ふたりの幸せを
綺麗事かも知れないが、そこにその人の本質が出てしまうものなのではと思う。恨みつらみを延々と持ってしまうのは、誰にとっても良く無いこと。私の方が相手を幸せにできるのに、なんて思うことは傲慢である。
結城さんは、どうなのだろうか。世都は何だか嫌な予感がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます