第17話 紐無しバンジー必須のRTA
中に入ってから同時にダッシュ。
“さて今日はどうなるかな”
“このダンジョン元々時間短いけど更新できるのか?”
“ここまで来たら行けるだろ”
“ふぁいとー”
“アリの巣迷宮の記録更新を達成してるからな。なんでもできそうな気がする”
“くろきん、レイ2人とも頑張れ”
“レイちゃんがみたい”
“陸鳥の主な弱点ってあるっけ?”
“邪魔しに行こうかな?”
“そろそろ視聴者に妨害されても良い時期よな?”
“まぁきっとあそこを使うんだろうなぁ。じゃないとこの時間は越えられない”
“どうなるのやら”
「今回のダンジョンで必須戦闘は3回になる予定です」
“予定だと?”
“増える可能性もあれば減る可能性もあるの?”
“ふむふむ”
“レイちゃんのパワーがみたい”
練習していた道と特に変化は無いため、彩月もしっかりと道を把握している。
激しい動きは特に無いが、単調過ぎても飽きて集中力が切れてしまうだろう。
普通はそうだが、今回は短い攻略時間になるので必須戦闘もすぐにやって来る。
何より、この先やる事を考えれば眠気は簡単に吹っ飛ぶ。
「黒い陸鳥」
「計算通りだね。私が前に出る」
陸鳥は嘴で突き刺すために猛ダッシュで迫って来る。
彩月はタイミングを合わせて剣を突き出し、脳天に突き刺して深く食い込ませる。
相手の走る力と突き刺す力により、簡単に脳を貫通させられる。
“エンチャント無しだと?”
“陸鳥ってそんな簡単に倒せるの?”
“普段のレイちゃんとは一味違うぜ”
“4秒くらいで倒したのか?”
“倒すやり方も決めているのかな?”
“早いな”
“今回も1発クリア行っちゃう?”
“でもあそこを使うにしても2人とも大丈夫なんかな?”
「くろきん。あそこまであとどれくらい?」
「あと13分くらい? 必須戦闘あるからな」
あそこ、とはとてつもない広い空間である。
そこに行けばボス部屋のある場所まで落下する事が可能である。
しかし、そのまま落下してしまえば骨折は免れない。最悪死ぬ。死ぬ方が確率が高い。
そこは彩月のエンチャントで防御力を上げれば緩和される。
それでも完璧では無いだろう。大ダメージは免れない。
だから俺は藁を用意した。
「そろそろ必殺戦闘。色は白だ」
「おっけー。前に出るよ」
“次は白か”
“飛ぶけど2人は大丈夫か?”
“レイちゃん怪我しないでね”
“初見でーす”
必須戦闘に入り、白い陸鳥が飛び立ち彩月に蹴りを落とす。
「【
それを回避しながら肉薄し、剣で逆袈裟を放つ。
一撃で屠り、ペースは落とさずに走り抜ける。
「バッチリっしょ?」
「ああ。流石だよ」
「へへ」
“今のレイちゃんの顔をみたい”
“誰も見てないから想像が許される”
“照れたのか? 演技なのか?”
“モヤモヤする”
黒いのも白いのも、最初の攻撃方法は決まっているのか同じ行動しかさない。
おかげで倒す方法が簡単に決められて、サクサク倒す事ができる。
「そろそろか。藁の準備!」
“藁!(笑)”
“なんでそんなの持って来てんだよ!”
“燃やすんか? それを燃やすんか? なんでだよ”
“うーん分からん”
「【強化付与】『
この藁は中々に新鮮で臭いがかなり強烈だ。
俺は問題無いが、彩月はあまり好きな臭いではなかった。
その臭いを増強させるエンチャントを掛ける。
広がる藁の臭いに見るからに顔を顰める彩月。その顔がたまたま、本当にたまったまカメラに映る。
“嫌そうな顔も可愛い!”
“見下されたい”
“良いね!”
“そんな君が好き”
“だからなんで藁!”
“ネットで調べた。陸鳥藁の臭いが好きらしいぞ”
“は?”
“RTAなのにモンスター集めてどうすんのよ”
ダダダダ、とモンスターが集まって来る足音が聞こえる。
「ひぃ。あちこちから来てるよ!」
「さぁ行くぜ!」
「そうだね!」
エンチャントアイテムの紙を破いて自分のスピードを上げる。
後は一直線。全力で前に向かって走る。
「ちょいちょい。黒の鳥さん足速いって! 追い付かれるよ!」
「あははは。これはスリルだねぇ!」
「ちょっと楽しんでない!」
「大丈夫だから、走れ!」
全力で走らないと追い付かれてしまう。
黒い陸鳥は飛べない分、足が発達して脚力が強いらしい。
猛スピードで俺達を追いかけて来た。
「っても、このままじゃ本当に追いつかれそうだな」
ま、そんな時の為にレンガを用意しているんだがな。
「今のスピードなら軽く投げるだけで、簡単に怯むよな」
狙いは完璧。先頭を走る陸鳥のスピードを落とせば後ろのヤツらも巻き込んで勝手に距離は開く。
白いのは飛んで来るので簡単に妨害はできないが、そこまでスピードは無いので問題無い。
彩月が半泣きになりながらも必死に足を動かし⋯⋯広い空間へと到着した。
「あと1分!」
「ええい! 目指せ中央!」
道は1本道。他の道に移らずに走って真ん中へと向かう。
中央に行く理由は時間稼ぎと落下ポイントとして最適だからだ。
エンチャントした速度でも中央に行くには1分かかるくらいには長い通路。
「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」
巨大な鳥が徐々に迫って来る恐怖はどんなアトラクションよりも恐怖心を煽る。
「あと10秒」
“あと10秒ってなんや!”
“⋯⋯そう言えばまだ変わってない?”
“もしかして計画通りか?”
“ここまで来たら一気に変わるな”
“でも落下大丈夫かな?”
“最深部までの落下は無謀だよな”
“なんで陸鳥集めたのか解説頼むぞ”
“何がしたいねん”
あと10秒⋯⋯そのタイミングで俺はガス玉を取り出した。
今回のガス玉はいつもとは違う。
これには漂白剤をエンチャントしてある。
このガス玉の臭いは漂白剤の臭いに変わる。
そして陸鳥は漂白剤の臭いを嫌う。
「うっし」
陸鳥の横側で爆破させたガス玉により漂白剤の臭いが広がり、集めた陸鳥全員道の無い場所に飛び出した。
「クレーンゲームみたい⋯⋯」
彩月の感想を聴きながら、時間となり重力が反転する。
先程まで天井だった場所に向かって鳥共が落ちる。
白いのも嫌いな臭いで驚いたのか、飛べずに落ちている。
「紐無しバンジーだ!」
「やっぱり怖いよおおおおお!」
陸鳥の方に向かって俺達も落下する。
ヒューっと空気の流れを音と肌で感じる。
“めっちゃ落ちたあああ!”
“陸鳥にピントが合ってるから酔わずに済むわ”
“こわ”
“これ大丈夫か?”
「レイ!」
「う、うん」
俺は約束した。彩月が傷つくような事はさせないと。
だから少しでもその可能性を上げるための行動をする。
俺の伸ばした手を彩月が取り、引っ張る。
抱き寄せて上側に回し、頭を護るように包み込む。
「⋯⋯うぅ!」
「あと少しで地上だ。だから怖くないから」
「⋯⋯べ、別に、そんなんじゃ⋯⋯」
“何イチャついてんの?”
“背中が見える。レイちゃんの背中が見える”
“これ、くろきんをしたじきにしてるだけ?”
“アイキャンフライ!”
地面に落ちる。だが、間に陸鳥のフカフカ羽毛クッションがある。
落下の衝撃で陸鳥を倒しつつ、俺達は何とか最深部に到着した。
羽毛と肉のマットは何体も重なっており、身体に障害は無かった。
「最速で行くぞ」
「⋯⋯え、もう? じゃないね。うん! 行っくぞー!」
最後に1回必須戦闘があるが、それが終わればボス部屋まで一直線。
その必須戦闘は黒と白の計2体いるので、手分けして倒す。
黒い方は彩月が倒しす。
「白は俺。そら!」
ガス玉で怯ませて、足の付け根に短剣を突き刺して骨を折る。
そのまま素早く羽の付け根も突き刺して飛べなくし、暴れても問題無くす。
最後に脳天に突き刺して倒す。
俺が倒す頃には魔石が回収できる程だった。
「くっそ。遅かったか」
「大丈夫だから行くよ」
「ああ」
難なくボス部屋へと到着してボスを彩月がワンパンする。
エンチャントとした剣を強化した肉体で投擲して倒した。
「時間は28分26秒。2秒だけ早くできた。ギリッギリ何とか」
「やったねくろきん」
「ああ!」
ハイタッチして互いに健闘を称える。
何とか1発クリアに持ち込めた。次にやる事と言えば一つだ。
「そんじゃ。休憩とタイミングを見て再走するか」
「はーい」
“レイちゃん毒されてる?”
“もうRTAに染まったのか。昔のレイちゃんには戻れないのか”
“落下怖いんだけど”
“ヤベーな”
“お疲れ様です”
“2秒か”
“うーむ”
“前回のインパクト強すぎだろ”
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