第34話 魔銃士、ダンジョンの厳しさを知る・1

 クエストは早い者勝ち。エドがそのクエストに手を伸ばすと同時に反対側からも手が伸び、一瞬だけ空気が凍った。


「おい銀の翼さんよ、お前さんたちはケルアイユ辺境伯の護衛を成功させて懐があったけーんだろ? だったらこのクエストは受けなくてもいいじゃんか。オレたちに譲れ」


 そう言い放ったのは、何の因果かカミラの新しい所属先である獅子王の瞳リーダーであるマティアスだ。エドはこのウザい……もとい、やたらと上から目線の竜騎士ドラグーンが苦手らしく、人当たりの柔らかい彼に珍しく嫌悪感を露わにしている。さらに副リーダーのダミアンも譲れ譲れと口を挟んできやがった。このダミアンは、分厚い灰色狼の毛皮を防具代わりに着込む狼皮戦士ウルフヘズナルという北方出身の戦士だ。フェンリルは神獣だがルーツは狼だから眷属の灰色狼の毛皮を纏うマティアスに、エド以上の嫌悪感をあらわにしている。


 なぜ俺が獅子王の瞳のメンバーに詳しいかって? カミラの一件以来、やたらと俺たちに絡んでくるんだよこいつら。やれ、こんな立派なヒーラーを追い出して見る目がないだの聖女候補なんてなかなかお目にかかれない、オレたちは優秀だから有能なメンバーが自然と集うとか……ハッキリ言ってウザい。ガキかお前らはと言いたいレベル。


「相変わらず下品なものの言い方だな。これ以上ウチのリーダーにウザ絡みするつもりなら、俺の正拳突きで黙らせてやろうか?」

「はん、脳筋バカのおでましか。何でも暴力で解決しようとしてんじゃねーよ、そんなだからカミラに逃げられるんだよお前らは」

「野蛮人な上に殆ど風呂に入らない不潔なお前ダミアンに言われたくない。臭いんだよ、女性メンバーもいるのに、マナーやエチケットという概念は母親の腹ん中に置き忘れてきたようだな」

「ンだとコラァ!」

「ほう。やるってのか?」


 おや珍しい。ハミルがあんなに挑発するなんて。エドもハミルも割と紳士的だから、よっぽど獅子王の瞳のメンバーとは馬が合わないんだな。アガサはいつものことと我関せずだし、カミラは眉間に皺を寄せて双方を睨んでいる。あ、獅子王の瞳メンバーは三人だけな。この暑苦しい男たちに大抵の冒険者が愛想を尽かして脱退していくんだそうだ。さもありなん、だな。


「いい加減にしてくださいませ! 顔を合わせるたびに突っかかって何なんですの? わたくしを拾って下さったのはありがたいですけれど、この態度はあんまりですわ」


 マティアスもダミアンも自覚があるのか、カミラの言葉にがっくりと項垂れる。


「まったく相変わらずガキくさい言動をしておるの、この小童こわっぱどもは」


 ずいぶんと低い位置から声がしたと思ったら、二人は足払いを掛けられ床に転がっていた。視線を下げればそこには、筋肉質な体躯に顔の下半分は髭に覆われた子どもくらいの身長の大人――ドワーフが立っている。鍛え上げられた筋肉のお陰で軽鎧でも防御力は高そうだ。褐色の肌が健康的に見え、好ましい。


「し、師匠! いきなり何をするんですか!」

「やかましい、ワシの気配を感じ取れん未熟な小童どもがなにをさえずるか」


 そのドワーフは言いながら床に転がるマティアスとダミアンの腹を、容赦なく踏みつける。ぐえっと耳障りな声が二人分あがるが、ドワーフは我関せずで俺たちの方へと向き直った。とはいえ子どもぐらいの身長なので必然的に見下ろすことになるが、彼はそんなことに頓着しないようだ。


「バカ弟子どもが失礼したな、銀の翼よ。わしはAランク冒険者のヴィゴ。領営果樹園内に出現したダンジョンを探索した者じゃ」


 へえ。ってことはこの人がダンジョンがAランクと判断したのか。


「しかしあのダンジョンは手強いぞ。準備は過剰なほどにしないと、足下を掬われかねん。正直言ってAランクパーティーでも踏破は厳しいかもしれん」


――脅しでも何でもないようだよ。本気で彼はボクらに忠告してる。

――そんなに難易度の高いダンジョンなのか。初っぱなに挑むダンジョンとしてはハードルが高すぎるかもだけど、ルチアがいれば何とかなるだろ?

――まぁね。ただ、ダンジョンマスターの正体次第だけどね。


 何やら不穏なことをルチアが念話で送ってきたと同時に、ヴィゴのおっさん……いや失礼、ヴィゴさんが更なる忠告を送ってきた。

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