第30話 魔銃士、領主の暗殺未遂事件に巻き込まれる・10

 エドが俺たちに視線を走らせる。あーやっぱりな、正義感の強いエドの目には依頼を受けると書いてある。領主の護衛任務ね。冒険者からは俺たちだけだろうけど、辺境伯だって独自に護衛騎士たちを持っている。彼らと連携しなきゃイカンのが面倒。俺、暗殺者時代から基本的にソロだったんだよな。流れでパーティーを組んだけど失敗だったかも。折を見て抜けるのもありかな、俺とルチア二人の方が身軽だし。


 そのことを念話でルチアに伝えると、元々俺以外の人間に心を開こうとしない彼は賛成の声をあげた。


――ボクはマスターであるソーに従うよ。ボクがいれば地上にいる大抵の魔物モンスターは敵じゃないからね。面倒だけど今回の護衛任務だけ、この人間たちに付き合おうか。


 俺だってエドたちが嫌いではない。むしろ好意的な感情を持っているが……どうしても身体に染みついた単独行動の方が楽という思いから抜けられない。背中を預けるなら、ルチアだけで充分なんだよ。俺と主従契約を結んでいるから、裏切りという行為は絶対に出来ないからな。


 あ、決して俺がボッチ属性だからじゃないぞ。単独行動の方が任務に集中できるという話だ。だけどルチアは俺にとって大事な初めての相棒。彼は俺に異世界ここで生きるすべを全て教えてくれた。


 無意識に手を伸ばすと、心得たように頭を下げてくれた。顎の下を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めてすり寄ってくる。元の大きさから超大型犬サイズに縮むと、舌を出して笑顔を見せてきた……可愛いなコイツめ!


――ソーと出会えてよかった。あのままだったらボクは母さんと一緒に殺されて食べられていた。

――フェンリルの幼生は魔物の栄養になるって言ってたな。相反する立場っつーか属性? だと思うんだけど、そこんトコは関係ないのか?

――魔物モンスターはもともと聖属性だったんだ。最高神デウスと魔王神ディアボロスがこの物質界を巡って争った際に、魔王神に味方した聖龍や精霊に妖精が堕天して魔物化した。そこから下級魔物が生み出されていった。

 ボクらを食すことで彼らは力を増す。でも逆に聖属性のものが魔物を食すと、少しずつ彼らと同化していき堕天してしまう。

 幼生がうっかり魔物を食さないように親は全力で子を守る。両親がボクを必死で守ってくれたのは、そういう理由があるんだ。


「――というわけで、これは辺境伯からの前金です。暗殺者アサシン撃退の成功報酬は、ギルドを通してということになりますが必ず支払われます。では皆様の健闘をお祈りします」


 うわ、ルチアと念話を交わしていたらいつの間にか話がまとまっていた。ぜんっぜん聞いてなかったけど、取り敢えず前金は貰ったんだな? ってことはここでイチ抜けたーって出来ないか。エドが前金をギルドに預ける旨を伝えると、タイミング良く扉が開き全身鎧に身を固めた騎士様がひとり入ってきた。


「ケルアイユ辺境伯の警備騎士団長、アンドルー殿」


 エドが思わず姿勢を正すほどに、アンドルー騎士団長は威厳がある。なるほど確かに腕は立ちそうな雰囲気がある。けどわざわざ護衛騎士団長がやってくるほど、今回の護衛任務は喫緊であるようだ。


「銀の翼の皆様、我が主の護衛任務を承諾して下さり感謝の意を申し上げる。早速だが主が馬車でお待ちだ、諸君は主の馬車に同乗して護衛して頂きたい」

「俺は相棒と共に騎士団の皆さんと一緒に、外で護衛したいんだけど」


 俺の声にアンドルー騎士団長はルチアの姿を認め、得心がいったように頷いた。


「貴君が異世界渡りの者で神獣フェンリル様と契約したという魔銃士ガンナーか。よろしい、貴君が外で我らと共に警護してくれれば伏兵の存在も早くに察知できそうだ」


 アンドルー団長は三十代半ばといった感じの、精悍な顔立ちの人。兜のために髪色は判らないが、誠実そうな光をたたえた琥珀色アンバーの瞳が印象的だ。


「というわけでエド、俺とルチアは外で騎士団のみんなと行く。伯爵を頼むな」

「油断するなよソー」


 ルチアもいるし、その辺は心配するな。アンドルー団長に促され俺たちは外へ出ると、それぞれの位置につく。エドたちはアンドルー団長と共に伯爵の乗る馬車に、俺はルチアの背に乗り騎士団の皆の中に。ルチアは馬と同じサイズになり、騎士団を威圧しない配慮を見せている。


――とりあえず、おかしな空気をまとった者はいないみたいだね。

――屋敷までかなり距離もあるし、帰ったとしても既に侵入されているかもしれない。気を張っていような。

――うん。


 あぁ久しぶりだな、この感覚。俺は久しぶりに暗殺者としての顔に戻ると、僅かな気配も逃さぬよう神経を張り巡らせる。最近はルチアに頼りっぱなしだったからな、勘を取り戻さないと。

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