第17話 逃走
「くっ、ここら辺は隠れられるところなんて無いし…………しょうがない、みんな、逃げるよ!」
そう言うとルカは今まで歩いていた方向と別方向に走り出した。
ブーンという不安を掻き立てるような音は段々と大きくなったり、少し小さくなったりを繰り返している。
何が起こっているのか分からないけど、何か良からぬことが起こっているという事は分かる。
なので、僕はルカの中でじっとしていた。
変に動いたり喋ったりするだけでもみんなの迷惑になってしまうかもしれないからだ。
僕は己の無力を恨んだ。
僕の目が見えていれば、僕にもっと力があれば、もっとどうにか出来たかもしれない。
そんな事を考えても意味が無いということは分かっているのだけど、それでもやはり考えずにはいられない。
というか、現在進行形で迷惑を掛け続けている僕がそんな事を考えるのすら失礼かもしれない。
それでも僕はルカ達に頼るしかない。
だからせめて少しでも迷惑をかけないようにじっとしていた。
「…………全然撒けないねー、ルカ、どうするー?」
「…………最悪の場合戦うしかないけど……できるだけ逃げようか。」
「逃げるっていっても…………結構きついな…………。」
今回は珍しくアニまで弱気だ。
それ程までに今僕達を追いかけてきているであろうやせいせいぶつとやらは恐ろしいものなのかと戦慄した。
ブーンという音は一向に無くならない。
不安は高まるばかりだ。
「…………仕方が無いよね、メグ、ちょっと眠ってて貰える?」
「え、何で?」
ルカの意味不明な発言に僕は心底当惑した。
こんな状況で寝るなんて無理だし、意味がわからない。
だが、ルカは変わらずそう頼んでくる。
いつもの僕はルカの話を迷いなく信じる。
それ程ルカに絶対の信頼を置いているし、ルカの話は殆どの場合合っている。
ただ、今回だけは手放しに信用することは出来なかった。
「…………何か考えがあるの?」
僕は一応そう聞いた。
ルカは少し黙った後、話し始めた。
「…………まぁ、そうだね、今からちょっと激しく動くから、ルカが起きてたらちょっとキツいと思ってさ。」
何だか納得いかないけど、ルカが何か考えがあってこの行動を僕にさせようしているということが分かった以上、僕はルカの事を信用しようと思う。
ただ…………。
「あぁ、こんな状況で寝られないよね、ちょっとまってて。」
そう言ってルカは僕に何かを飲ませた。
その瞬間、僕の中で何かが止まったような感覚を感じた。
その瞬間、僕の意識が小さくなっていくのを感じる。
ただ、その瞬間、僕は何かを
それはキラキラと光る、美しい光や、情熱的に輝く、宝石のような星だった。
それらはまるでこの世の美しさを詰め込んだかのような、素晴らしい光景であった。
しかし、それを見た瞬間、僕の心に複雑感情が生まれた。
それは悲しさであったり嬉しさであったり、怒りであったり、喜びであったり、哀愁であった。
その感情は瞬く間に僕の心を蝕んだ。
僕の意識は困惑する間もなく、その感情に呑まれていく。
徐々にはっきりとその光や星が見えるようになってくるが、その速度よりも圧倒的な速さで僕の意識は暗闇へと落ちていく。
この美しい情景を見た時に生まれた感情も何もかもが分からなくなっていき、僕の意識は極限まで小さくなる。
そして、最後に、僕の胸に感じたチクリとした痛みと共に、僕の意識は完全に無くなった。
―――――――――――――
その時僕は泣いていた。
胸が何が悪いものでいっぱいになり、今にも張り裂けてしまいそうだった。
何故そうなっているのかは分からない。
しかし、とてつもなく酷いことが起こっていたということは何故かわかった。
そこからはしばらく何が起こっているのか分からなかった。
景色が黒色に変わり、目まぐるしく点滅している。
寒い。
しかし、何故か僕は冷静であった。
寒い。
僕の体が冷たくなっていく。
何かが、僕の体から何かが抜けていく
頭が、腕が、腰が、足が、酷く痛い。
僕は泣いているはずなのに涙は流れなかった。
痛みが酷い、ただ、それよりも胸の痛みが酷い。
「寒い、寒いよ――――。」
僕は誰かの名前を呼んだ。
その名前を呼んだ瞬間、胸がさらにキュッと痛くなると共に、優しく包まれるような感覚だった。
僕はその名前を何度も何度も繰り返して叫ぶ。
周りから何か不快な音が聞こえてきて、僕を連れ去った。
それでもなお、まだ、寒い、とても寒い。
何故か冷静だった僕の心も何だかどんどんと不快な寒さを感じていく。
体も動かないし、何も見えない。
何だか今の僕の状態に似てるなと思いながらも僕の意識は無くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます