第3話有象無象の友たち

周囲の学生たちも、正式な告示はされていなかったものの、二人が別格であることは理解していたし、きっと今代の魔女王候補者はこの二人なのだろうなと察していた。

憧れと恐怖と好意と畏れがないまぜになった目で、その他大勢の生徒たちは二人に熱い眼差しを送った。


「ヨルさん、魔法薬学の試験の答えで分からないところがあるのだけれど、教えて下さいますか?」


ある月の試験が終わり、答案用紙の返却後。

緊張した顔つきの少女が少し思い詰めた顔でヨルの元にやってきた。


「あら、構いませんことよ。……あぁ、ここで計算を間違ってらっしゃるわ。これが正しければ、少し遠回りだけれど答えに辿り着くはずよ」


先ほど少女が、採点が納得いかないと教官に食ってかかっていたのを目撃していたヨルは、きちんと真剣に少女の相手をした。ヨルにとって、気骨ある女の子は大変好ましい存在なのだ。


「あ、本当!やっとスッキリしましたわ!先生には最初から最後まで違うと言われてしまったのだけれど、どうしても納得出来なくて」


表情を輝かせて感謝の意を述べる少女に、ヨルはにこやかに答えた。


「模範解答のやり方とは違うけれど、これでも答えはでるはずよ。部分点くらいは貰えても良いと思うのだけれど。あなたの解法は発想の勝利だと思うわよ?」

「ふふっ、ありがとうございます!先生に部分点もらえるより、ヨルさんにそう言って頂ける方が何倍も嬉しいわ!」


薬草学の世界で最も権威ある賞を最近三つか四つほど受賞して、現在学院の中でもっとも薬草学に精通していると言われるヨルに褒められて、少女は大層嬉しそうだった。


「勇気を出して話しかけてよかった。心から感謝いたしますわ!」

「ふふ、喜んで頂けてなによりよ」


ヨルは冷静沈着で物静かでクールな優等生タイプで、頼られることも多いが、基本的には周りからは少し遠巻きにされることが多い。

しかし基本的に馴れ合いを嫌うヨルにとっては、その方が都合が良いのであまり気にしてはいなかった。


反対に、明るいアサの天真爛漫とも言える気質は親しみを感じさせ、みんなに愛された。


「アサさん!ねぇ、お昼ごはんをご一緒しましょう?」

「あら、私もご一緒したいわ!」


昼休みになると、アサの周りにはわっと人が集まる。

ぱっと見で近づきやすいのはアサだったので、アサの周りには純粋な憧れだったり、取り入りたいという邪な考えだったりを持つ者達が絶えず溢れていた。

アサは誰に対してもにこやかに、朗らかに、そして楽しげに対応していたので、みんながアサを好きになったし、アサに好かれていると信じていた。

しかし。


「あらアサ、周りを囲んでいた子達はどうしたの?」

「さぁ?わからないわ。気づいたら居なくなってたの」


次は教室移動のはずなのに、いつまでも周りを囲む小雀達とお喋りしているアサを置いて、ヨルはさっさと廊下を歩いていた。しかし、予兆もなく不意に隣に現れたアサに驚くこともなく、片眉をあげるだけだ。


「アナタがコッチにきたのでしょう?急に魔力磁場が狂って、周りの子供達が吐いたりしていないといいのだけれど」

「さぁ、分からないけれど、きっと大丈夫じゃないかしら?吐いてる子は保健室に行くでしょうし、掃除は先生が洗浄魔法を使えるし」

「そういうことじゃないんだけれど、まぁいいわ。……私とアナタには関係ないものね」

「そうよ。私とあなたには関係ないわ」


しかし残念なことに、アサの興味を引くのはヨルだけで、ヨルの興味を引くのもアサだけだった。

だから残念ながら、もしくは当然ながら、アサとヨルにはなかなか友人が出来なかった。

お互いという親友がいたので、あまり気にしてはいなかったけれど。


そして冷たく見えるヨルも、明るく見えるアサも、本当は似たもの同士だ。

二人の本質は、とてもよく似ている。


アサも明るく振る舞っているだけで暗く冷たいところはあるし、ヨルも底抜けに明るく楽天的なところがある。

二人は生まれも育ちも違ったが、闇を抱えるアサと光を抱えるヨルは、なにやらひどく気が合った。


アサはパワー系の自分より、なんでも器用にこなし、なんでも少しだけ得意なヨルを妬み、うらんでもいる。

ヨルはもちろん、それも知っている。

アサは知られていると知っている。


それも含めて二人は仲が良い。


醜いところも悍ましいところも全部知られていると知っていても、分かってもらえるのも相手しかいないとも分かっているので。






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