ep9-2 探り合い、この勝負どう転ぶかはわからない
「じゃ、行きますよぉ~」
口火を切ったのはヴァーンズィンだった、いつもの間延びした緊張感のない口調で笑みさえ浮かべながら駆け出し、カレッジに向けて拳を突き出す。
「ハッ……!」
短く息を吐き軽くながら身体を捻りその一撃をかわしたカレッジだったが、その頬にピッと赤い筋が走る。
「よく避けましたねぇ? 並みの相手だったら今の一撃でズタズタになってましたよぉ」
ペロリ、といつの間にか鋭く伸びていた爪を舐めながらヴァーンズィンが笑う。
「なるほど、それがあなたの武器ってわけね。ちょうどいいね」
しかし、カレッジは怯まず不敵に笑い返すと、拳を握りしめる。
すると、そこが赤く光り輝き始めた。拳に魔力を纏わせ、攻撃力を高める技だろう。
「格闘戦はアタシも得意なんだ。行くよ!」
カレッジも地面を蹴って駆け出すと、そのままヴァーンズィンに向けて拳を繰り出す。
「あはっ♪」
そんなカレッジの攻撃を嘲笑うように避けると彼女は逆にカウンターで蹴りを放つ。
しかし、それは読まれていたらしく、足首を掴まれてしまった。
「捕まえた!」
カレッジはニヤリと笑うとそのまま体を回転させ、掴んだ足を振り回して投げ飛ばす。
「きゃあっ!」
悲鳴を上げながら飛ばされていくヴァーンズィンだったが、流石は虎の力を持つ暗黒魔女、空中でくるりと回転して綺麗に着地する。
「なかなか、と言いたいところですけどぉ、こんなので調子に乗っちゃあダメですよぉ? まだ序盤も序盤、準備運動にもなってませんしぃ」
そう言ってヴァーンズィンは余裕の表情で構えを取る。対するカレッジも負けじとファイティングポーズを取り、再び攻撃に移るタイミングを見計らっていた。
しかし、あたしが二人の戦いに意識を向けていられるのはここまで、何故なら目の前ではブリスがあたしの出方を伺いつつ魔力を練り上げていたからだ。
ヴァーンズィンとカレッジの戦いは気になるものの他に意識を向けた状態で戦えるほどブリスは甘くない。
あたしは改めて気を引き締めると、腕を振るいながら叫んだ。
「ダークスティック!」
その言葉に答えあたしの手の中に長さ10センチ程度の黒い棒のようなものが出現する、表面に怪しげな紋様が描かれたそれは様々な用途に使える万能ツールである。
「ウィップモード!」
続けて叫ぶとダークスティックの先端から真っ黒い光の帯が伸び、ダークスティックは鞭へとその姿を変えた。
ヒュッ、バシン!
地面を鞭で叩くと乾いた音が響く。
「うふふ、これで叩かれると痛いわよぉ? さあ、ブリス、あんたはどんな声で鳴いてくれるのかしらぁ?」
「衣装といい武器といいセリフといい、あなたって本当に絵に描いたような悪の組織の女幹部なんだね……。だけど覚えておいてね、悪の女幹部は、正義の魔法少女には勝てないってことを!」
ブリスはそう叫ぶと地面を蹴って駆け出した。あたしも鞭を振るいながらそれに応じて走り出す!
「ふんっ、そういうのはアニメの中だけのお話なのよ! 現実はそうそう上手くいかないの、それを教えてあげる!」
そう、現実はアニメみたいにいってくれない……。いつだってあたしのことを叩きのめす。
妖精と出会い夢の魔法少女にしてもらえると思えば、されたのは悪の組織の暗黒魔女。
勉強が辛くて、友達も出来なくて、唯一の癒しだった親友の美幸は突然現れた結城灯に奪われてしまった。
ブリスも痛い目に遭わなきゃ不公平でしょ!? 現実がフィクションを裏切るというのなら、悪が正義を倒すのは必然よね!
ヒュォォッと唸りを上げて眼前に迫る鞭をブリスは避けようともせず突き進んで来る!
まさか、一撃を受けるつもり? いくらブリスにそれなりの耐久力があろうとも、あたしの鞭の威力は半端じゃないわよ?
そう思った瞬間ブリスの姿がフッとかき消えた。
「え……?」
思わずそんな声を上げてしまったあたしの背中に衝撃が走る。
「うぐっ!?」
あたしはそのまま前のめりに倒れ込み、慌てて振り返るとそこにはブリスが立っていた!
「な、なんで……? どうして……?」
混乱してそう呟くあたしにブリスはクスリと笑うと言った。
「確かにあなたの鞭は凄い威力よ? だけど当たらなければ意味ない」
そう言って彼女は再び姿を消す……こいつぅ、こんな真似も出来たの……?
暗黒魔女と魔法少女、立場や属性は違うとはいえ同じ魔法というものを用いて戦う者同士、相手がどんな能力を使うかはある程度予測がつく。
おそらくブリスが使っているのは一時的に瞬発力を超強化させるブースト系の魔法、それならこの異様な動きの良さにも説明がつく。
しかし、それにしてもなんて鮮やかな手並みなのかしら、あたしとは魔法の練度が違う!
しまったなぁ、サンドバックぶっ叩いたり木偶兵士相手に組み手とかしたり、こう脳筋的な特訓ばっかりじゃなくてもっと魔法の練習もしておけばよかった……。
とはいえ今さら言ってもどうしようもない事、あたしはあたしのやり方でブリスに対抗するだけ!
あたしは全神経を集中し耳を研ぎ澄ます。変身時のあたしの五感は常人の数十倍に跳ね上がっている、この状態ならブリスの微かな足音や衣擦れの音からでも居場所を特定出来るはず!
すると、トンットンットンッと軽くステップを踏むような音が確かに聞こえてきた。
おそらくブリスは反復横跳びのような動きをしながらあたしを翻弄するつもりなのだろう。
だがしかし、その程度の動きであたしの目(この場合耳だけど)を欺けると思ったら大間違いよ? あたしは鞭を振るうとブリスの位置に向けて一撃を繰り出す!
「キャアッ!?」
よしっ! 当たったわ! しかもかなりいい手応えだったし……これはいけるかも!? あはっ♪
「う……いたた……まさか、こんなにあっさり動きが捉えられてしまうなんて……流石は暗黒魔女、って言えばいいのかな?」
「ほーっほっほっほっ、スピードであたしを翻弄するつもりだったのかもしれないけど、残念だったわね! あたしの目はごまかせないのよ!」
ブリスの言葉にあたしは高らかに笑う。
「むぅ、一発当てたくらいで調子に乗っちゃってぇ。まだまだ、戦いは始まったばかりだよ!」
言い放ち、さっと身を起こしファイティングポーズを取るブリス。
あたしはそれを睨みつけながら、次の攻撃に備えて鞭を構え直すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます