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11月22日。


 深夜テンションで書いたボツなす。

 出だしが決まらんなす。


◆◆◆


 襖で仕切られた六畳の部屋が二つに、小さな台所とユニットバス、あとは、鳥がよく来る狭いバルコニー。

 それが、植園うえその兄弟が住む家の全て。

 板張りの台所にちゃぶ台を置いて、兄弟はそこでご飯を食べる。本日の朝食は、とろとろのスクランブルエッグを乗せたご飯と、切られていないきゅうりだ。

 きゅうりを咀嚼する小気味良い音が室内に響く。向かい合い、座布団も敷かずに胡座をかく兄弟は、無表情できゅうりを噛り続けていた。


「……時に、夏樹なつき


 小さくなったきゅうりを飲み込んで、兄である春花はるかは疑問を口にする。


「昨日はトトロでも観たのですか?」

「昨日は火曜日だろうが」

「金曜日じゃなくてもトトロは観られるでしょう?」

「動画配信サービス何にも契約してねえんだから、観られるわけねえだろう」

「近所のレンタルショップで借りてきたとか」

「そこまでして観たいか、トトロ」

「私はラピュタの方が好きです」


 弟である夏樹は舌打ち混じりに、おれもだっつの、と返した。


「父さんに嫌がらせのように、何度も無理矢理ラピュタを観せられたせいか、ラピュタじゃないと満足できない身体になってしまいました。あと、カリオストロ」

「どういうチョイスだよ」

「父さんの個人的趣味」

「押し付けんな」


 ですね、とだけ返して、春花はスクランブルエッグご飯に手を付ける。急いでいるのか掻き込んでいるが、見ていて汚ならしい感じはしない。逆に夏樹はゆっくりときゅうりを噛っている。


◆◆◆


 ちゃお。

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