第五話 いざ聖ロマネス学園へ!
月日は流れ、聖ロマネス学園に入学する日が訪れた。
ルシアスパパとエマと共に馬車で学園へと向かう。着いてしまったら、また知らない人たちとの生活が始まるのかと思うと心細いったらないけど、私らしくいればきっと大丈夫……!
ここ数ヶ月の間、たくさんのことを考えた。この世界は本当にあのゲームの中なのか、だとすればシナリオは絶対で、スクリプトに沿った行動しかできないのではないか、元の世界に戻る方法はないのか、現実世界に鈴城こはくは存在し続けているのか――
考えたところで、こちらの世界にはスマホもなければインターネットもない。おまけに本に書いてある歴史だって、現実世界の史実ではなく、こちらの世界の話。周囲の様子を見ても私と同じように別世界から来て戸惑っている様子の人物も見当たらないし、自分の中で考え続けても、堂々巡りになるだけ。でも、現実世界に未練がないかと言えば嘘になる。
母と会うときはいつも楽しそうにしていないと……! というプレッシャーがあったから、最近実家にはなかなか帰れなかった。
友だちにはほとんど毎週のように愚痴電話に付き合ってもらい、最後には
「そんな会社辞めなよ、こはくならもっといい会社に絶対は入れるから」
と友人に心配され
「ありがとう~。でも今私って中途半端なんだよね。法務として採用面接に行くと『直近は企画の仕事をなさってるんですよね? 適性検査の結果的にも法務より企画の方が向いてるんじゃないですかね』なんて言われて、かと言っていざ企画で受けてみると『色々ひとりでやっててすごいけど……まだ1年とかでしょ? それでこの給与額はちょっと……』なんて言われるんだよ……。仕事自体は楽しいしもうちょっと頑張る」
と返すのがもはやルーティンになっていた。
大事に想う人たちと急に会えなくなるのは、人間の最期と同じ。時間が経つにつれ、死んだと思えばまあ仕方がないかと受け入れられるようになった。寂しいし、たまに無性に泣きたくなるけどね。
それよりも、もうあの人間関係ギスギスな職場に行かなくて済むということを喜ぼうと思った。あの会社のことはあんまり思い出したくないけれど、中高女子校だったこともあり、”女社会は恐ろしい”という言説には、性別でものを語るなよなんて思っていたのに、今の職場に入って考えを改めた……とだけ、言っておこう……。
ロマプリにだってもちろん思い入れがある。元の世界では今どんな状況なんだろうと考えを巡らせたこともあったけれど、ロマプリについて社内でしっかり把握しているのは私だけ、しかも実機のスクリプト(簡単に言うと、シナリオや演出をゲームに組み込むためにプログラム化したものかな)は私しか触れないようになっていたから、多分誰かがいじることはできない。ということは、私がこちらの世界にいる限り、ロマプリが世に出ることはないという考えに至った。これも寂しいは寂しいけれど、今いるこの世界が私にとっての今世なのだから、リリースされてこの世界がぐちゃぐちゃになる可能性がほとんどなく、しかも開発中で未完成の状態なら、きっとリアン様の未来も、その中にいる私の未来も、私自身の手でこれから変えていけるはずって希望が持てるのだから、かえっていいと思うようになった。
馬車がゆっくりと止まる。いよいよ学園生活が始まるんだな……。立ち上がろうとするとルシアスパパが優しく手で制する。
「パパ……?」
「アニーがこの家から出ていく日のことはずっと前から覚悟はしていたよ? 聖ロマネス学園入学まであと300日ってカウントダウンもしていたし……。でも頭で考えるのと目の前で起こるのとでは全然違う。アニー、やっぱり学校に行くのやめない……?」
「もう、パパったら。馬車が学園に着いたというのにまだそんなことおっしゃってるの? それに『この家から出ていく』なんて言わないで。ただ寮に入るだけで、私はまだサマエル公爵家の令嬢よ? それに今後どこかに嫁ぐとしても、パパの娘であることには変わりないんだから」
「アニー様! もしもの話でもお嫁に行かれるなんてお話、旦那様の前では禁句ですよ。ほら、旦那様、泣かないでくださいませ」
そういえば変わったことと言えば、リアン様の呼び名がアニーになった。リアンのアンから来ているのだと思うけれど、リリとかリアナとかにはならないもんなんだろうか。ルシアスパパがつけてくれた愛称だから特に不満もないのだけれど。キャラクター設定ではリアン様の愛称は用意していなかったから、やっぱりこの世界は決まったシナリオ通りにしか動けないというわけではないんだろう。
「アニー……。君の成長は心から嬉しいし、君のしたいと思ったことは何でも応援するよ。でも、戻ってきたいと思ったらいつでも手紙を出すんだよ。……何もなくても出すんだよ」
「アニー様のおそばにいることができてエマはとても幸せにございました。アニー様なら、きっと学園でもお友達に恵まれて楽しく過ごせるに違いありません……! それでも、涙を流すようなことがありましたらいつでもお話伺いますからね。嬉し涙ではなかったときは、泣かせた奴を許せそうにありませんが……」
「そんなの当たり前だ。そいつの家門ごと消そう」
こんなに愛されて、リアン様は幸せ者だな。ルシアスパパとエマの笑顔を守るためにも、私頑張るからね!
「パパ、エマ、行ってまいります!」
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