タヌキどんとキツネどん

さくや子

たぬきときつねと・・・

よお キツネどん

やあ タヌキどん ええ葉っぱ着けとりますな

へへ ええじゃろ

いいお天気どすな

そうどすな

冷麦一杯

へい まいど

儲かりまっか

ぼちぼちでんな

ところでキツネどん

なんだいタヌキどん

熱麦はおかないのかい

冷麦で十分じゃろ

まあ そういうもんか

そういうもんさ

ほい お待ち遠さま

ちょいとキツネどん

なんだいタヌキどん

何故に山盛りの薄荷が乗っているのだね

清涼感を出すためじゃけど嫌いかね

得意じゃないのさ全部食べないと駄目かい

駄目さ うちの店でお残しは許しませんで

そんなあ そこをなんとか

駄目ったら駄目じゃ さっさとお食べ

あ いいこと思いついちゃった それっ

ほう タヌキどんも術が使えるのかい

そうさ すごいじゃろ

ふむ してそれはなんだい

お揚げさんよ

そうかいお揚げさんかい 随分と緑なんだねえ

そうさ うちのお揚げさんは緑なんじゃ

へえ そうなのかい というか早くお食べのびてしまう

ではいただくよ あら困った

どうしたんだいタヌキどん

わしお揚げさんそんなに好きじゃないんだよ

へえ そうなのかい

そうなのさ だからキツネどん食べてくれんか お揚げさん好きじゃろ

なんで自分の好きなものにしなかったんだい

なんでかのう ささ食べて食べて

仕方ないねえ 値段はそのままだからね

もちろんさ

ふふん

どうしたんだい

いやあ 美味しいなあと思っただけさ

そりゃあ良うござんしたね

ああ このままじゃ不公平だね 種明かししてやろう

へえ そりゃ有難い

さっきの山盛り薄荷は全部鰹節さ

そりゃ ほんとか

ああ ほんとさ だってあたし薄荷苦手じゃもん

そんなあ 何故匂いでわからんかったのやろ

ふふん 今日のお出汁は鰹じゃ

ほんとじゃ 何時いつもは椎茸とかじゃのに

それにほれ そこに薄荷が生えてるじゃろ それをちょいと揉んどいたのさ

なんと ああ わしの鰹ちゃん

要らぬと言うたのはお主じゃ

ああ やられたわあ

ふむ ちょいと可哀想じゃな 鰹節の礼に≪窓≫で視てやろう

お 噂の≪狐の窓≫か そりゃ楽しみだ

〘けしやうのものかましやうのものかしやうたいをあらはせけしょうのものはましょうのものかしょうたいをあらわせ化生のものか魔性のものか正体を現せ〙

どうだい

あら あんた憑いてるわ

またまたあ そんなこと言っちゃってえ

まあええわ

ええと 参考までに聞くけど何が憑いてるんだい

貉さ

貉かあ ああ だから水の音が聞こえるのかなあ

へえ

でも 害はないんじゃ

へえ

軽い入眠妨害くらいで

へえ

ちょいとキツネどん

なんじゃいタヌキどん

もうちょい興味示してくれんか

はあ どうでも良いことだったんでつい すまんな

そうかい なら仕方ない

ちょいとタヌキどん

なんだいキツネどん

あんた他のも憑いてるよ

あり ほんとかい

うむ

今度は何が憑いてるんだい

時辰儀さ

ほお 時辰儀とな ああ だからざっざっという音が聞こえるんかな

それはまた別のものなんじゃないのかい

いやいや 昔な時辰儀が壊れてな音が二重に鳴るようになっちゃったのよ

そうかい

この音もまた害はないんじゃけどね

へえ

軽い入眠妨害くらいじゃ

へえ

ああでも この前不思議なことがあってな

へえ

夜何時もの音を聞きながらああ眠れないなあと思っていたのさ

へえ

そしたら何時もの音がヒトの跫音のようになってな

へえ

音は近づいたり遠ざかったりするんじゃけど

へえ

暫く小一時間ほど跫音が聞こえてたんよ

へえ

でも ぱたりと何の音もしなくなったんじゃ

へえ

あれはちょいと恐かったのじゃ

へえ

なな キツネどん 他には何も憑いとらんか

なあんにも憑いとらんのお

ほんまのほんとに

ああ ほんまのほんとに

そうかい

良いことと悪いことを教えてやろう 何方どちらからがよいかの

じゃあ 良いことから

住処の周りに薄荷を植えて唐辛子を撒いときな

ほう では 悪いことは

≪狐の窓≫で視られるのは化けたモノの正体だけさ

そうかい 有難うよ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る