在宅医療1
ある日の昼、薬局のドアのベルが軽やかに鳴った。
「あ、セレストさん。こんにちは」
ステイシーは、店内に入って来たセレストを見て笑顔になった。
「こんにちは、ステイシー。……今日は、薬局の皆に相談があって来たんだが、ちょっといいか?」
セレストは、相変わらず黒いコートを着ていて、凛々しい佇まいをしている。
「ええ、どうぞ」
ステイシー達薬局のメンバーは、待合室の奥でセレストの話を聞く事になった。
「それで、セレストさん、本日はどういったご相談ですか?」
「ああ、実は、ある人の自宅に薬を配達して欲しくてな」
「配達ですか?」
「そう。実は困った事があってな……」
話によると、ステイシー達が以前訪れた鉱山の現場監督、ダリル・クロークが困っているらしい。
ダリルの父親、ブルーノは二年前から脳の病気で寝たきりに近い状態になっている。彼はいつも薬を飲んでいるが、当然本人が薬局に薬を取りに行く事は出来ない。そこで、普段はダリルか妻のアデラが代わりに薬を受け取りに行っていた。
しかし、数日前に鉱夫が数人怪我をして、ダリルもアデラも忙しくなった。ブルーノの代わりに薬を受け取りに行く事も難しくなった。
そこで、代わりにステイシー達に自宅に薬を届けて欲しいというわけだ。
「ブルーノさんは肺の病気も患っていてね。採掘作業で生じた汚染物質を吸い込まないように、君達が以前行った山小屋とは少し離れた場所に住んでいるんだ。……行ってくれるかい?」
セレストの言葉に、ステイシーは力強く頷いた。
「はい、是非行かせて下さい」
こうして、ステイシーはまた鉱山に行く事になった。
数日後の昼、ステイシーとアーロンは転移魔法で鉱山に到着した。以前にも訪ねた山小屋のドアをノックすると、アデラが出迎えてくれた。
「ステイシーさん、アーロンさん、お久しぶりです。本日はわざわざ来て頂き、ありがとうございます」
アデラが笑顔で挨拶する。ダリルは採掘作業で忙しく、今は不在のようだ。
「お久しぶりです、アデラさん。早速ですが、ブルーノさんのご自宅まで案内して頂けますか?」
「はい、少々お待ち下さい」
そう言うと、アデラは一旦小屋の中に戻った。中からアデラ以外の女性の声がする。どうやら、その女性はアデラの友人で、アデラが不在の間彼女の子供達の面倒を見てくれるらしい。
「お待たせしました。では、行きましょうか」
アデラは、そう言ってステイシー達の前を歩き始めた。
ブルーノの自宅は、山小屋から歩いて十五分くらいの場所にあった。山小屋より麓の近くにあり、近くに咲く花々が美しい。
ブルーノの自宅は、古くからある石造りの家で、知人の持ち家だったのを譲り受けたらしい。
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