第40話 転生者、やはり力なのだと実感する
やって来たのは、屋敷の中にある純魔族たちの兵士たちの集まる兵舎だった。
その中にある訓練場には、純魔族の兵士たちが俺たちを取り囲むように並んでいた。
肝心のヒョウムはというと、高い場所で文字通りの高みの見物としゃれこんでいた。
「獣人ごときが私に意見とはな。その蛮勇を評して、歓迎をさせてもらうぞ」
ヒョウムがそういった瞬間、俺たちを目がけて兵士たちが襲い掛かってきた。
「魔王様、いかがなさいますか?」
「俺一人で十分。キリエとピエラは自分たちを守ることだけに専念しておいてくれ」
「本気なの?」
ピエラが驚いて確認してくるが、すでにもうそこまで兵士たちが迫ってきている。答えている余裕なんてなかった。
「獣人ごときの下につけるか、死ねえっ!」
おうおう、本音がだだ漏れだぞ。しっかり聞いたからな。
襲い掛かる純魔族たちに、俺はギロリと睨みを利かせる。それだけで、一部の純魔族たちは動きが鈍っている。
「おらあっ!」
俺は拳に魔力を乗せて、襲い来る兵士たちへと殴りかかる。奴らは剣を持っているというのに、不思議なくらいにまったく恐怖を感じない。
魔王と対峙した時に比べれば、この程度などおそるるに足りないってわけなんだろうな。
まあ、それにあえて付け加えるなら、魔王領の領主、魔王としてなめられるわけにはいかないということくらいだろう。
次の瞬間、俺の拳が通った軌道に沿って、魔力の衝撃波が放たれる。それに触れた兵士たちは、次々と吹っ飛ばされていった。
「一応手加減してるから、死にはしねえよ。まったく、こうやって襲ってきたということは、純魔族たちは叛意があると見ていいんだな?」
ギロリと兵士たちを睨みつける。すると、派手に吹き飛ばされた現実に、兵士たちは完全に及び腰になっていた。
「キリエ、ピエラ、大丈夫か?」
「大丈夫よ、セイ。このくらいなんともないわ」
ピエラは防御魔法を展開しながらはっきりとした口調で答えている。その後ろにはラビリアが縮こまって身構えていた。
「この程度問題ではございません。まったく、実の娘まで居るというのに、部下たちに剣を向けさせるとは……。見損ないましたわ、お父様」
キリエの方はというと、俺の質問に答えながら自分の父親であるヒョウムに対して厳しい視線を送っている
「ふん、獣人のしもべに落ちたお前など、娘とは思わぬ。俺には他にも息子や娘が居るからな、一人くらい居なくなったところで、痛くもかゆくもないわ」
「お父様……」
魔族というのは親子であっても、その情が薄いところがある。話には聞いていたとはいえ、さすがに目の前で実演されるときついものだな。
俺は思わず拳に力が入る。
「魔王様?」
俺の様子に気が付いたのか、キリエが思わず顔を向けてくる。
だが、その次の瞬間だった。
「それが、実の娘に向けて掛ける言葉か!」
思い切り踏み込んで、ヒョウムに向かって飛び掛かっていた。
この時のヒョウムはかなり高いところに居たのだが、獣人の脚力というのは相当にバカにできないものだった。
「なに!?」
ヒョウムが驚いた声を上げている。
それもそうだろう。たった1回の跳躍で、俺はヒョウムの眼前に姿を見せたのだから。
「キリエは優秀な参謀だ。バカにするやつは、それが肉親であっても許せるものか!」
俺は空中でそのまま攻撃態勢に入る。
「魔族は魔王に従う。確か、そういう掟のはずだよな?」
俺がヒョウムを睨みつけると、ゆっくりと立ち上がって迎撃態勢を整える。
「くっ、汚らわしい獣人のくせに、偉そうな口を利いてくれるな!」
ヒョウムは右手で剣に手をかけ、左手で魔法を使おうとしている。
さすがは純魔族の親玉、剣と魔法の両方が扱えるってわけか。
だがな、それはなにもお前だけの特権じゃないんだよ。
俺を迎え撃つためにヒョウムが魔法を使うと、俺も負けじと左の拳に魔法をまとわせる。そして、鋭く左の拳を打ち出す。
「ふん!」
魔法と俺の拳がぶつかった瞬間、魔法が相殺される。
「なんだと?!」
驚くヒョウムの動きが一瞬止まる。俺はその隙を見逃さない。
転生者だからか元々が能力が高い上に、親父が厳しく特訓を課してきたんだ。その状態でも魔王に勝てるほど強いのに、そこに魔王から受け継いだ力もあるんだ。
そんな俺がちょっと本気を出せばこの通りというわけだ。
「あ……が……」
「うわぁ、ヒョウム様がやられたぞ!」
ヒョウムの剣が繰り出される前に、俺は空中に足場を出してヒョウムに殴りかかっていたのだ。
その一撃は見事にヒョウムの顔面を捉え、見ての通り壁に叩きつけてやったというわけだ。
女になって弱くなったかと思ったが、獣人のこの体、思いの外強力なようだな。
「さあ、お前たちの長はこの通りだ。まだ逆らうやつは居るか?」
訓練場の中に向けて俺が叫ぶと、兵士たちは首を振って剣を収めていく。そして、揃いも揃って俺に向けて跪いていた。
「美しく強い魔王様に、絶対の忠誠を誓います!」
揃って出てきた言葉に俺は驚いた。
そういえば俺の服装ってドレスだったなと、ふと冷静になって思い出した。
気絶するヒョウムを前にして、俺はキリエたちに向けて拳を振り上げて微笑みかけたのだった。
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