SF探偵、世界をあばく!! ~近未来で起こる謎は全てこの僕が明かす!~ ※アクションあり。

夕日ゆうや

第1話 僕は人間じゃない。

 複数の子どもの笑い声。無邪気で、素直で、愛くるしくて……そしてどこまでも残酷な声。

 脳内に響き渡る子どもたちの笑い声。


 僕は人間じゃない。


 この世に謎は多い。

 世界は謎で動いている。

 人の脳波、その活動も解明されていないことが多い。


 この世界は今よりも数百年先の世界。

 AIの闊歩する近未来。

 シンギュラリティに基づく、新たな世界秩序の誕生だ。


☆★☆


 僕はこの街の端に住まう探偵助手だ。

 そして今まさに目の前で謎が起きている。

「それで? 音声の解析は?」

「まだです」

「まさか、あの監視カメラが生きているとは……」

 東雲しののめさんは苦い顔を浮かべている。

「カメラは死んでいるよ。ただ音声データだけが毎日記録されている。このことに気がついていない加害者、と言ったところか……」

「しかし、一体誰が陣内を殺したんだ」

「犯人はこの中にいる」

 僕は静かに告げる。

「なんだと……!」「そんなっ!」

 何人かの容疑者は動揺を見せる。

 人から言わせると僕は穏やかな性格らしい。

 落ち着き、歳よりも高い年齢に思われることもしばしば。

 だけど、謎となればよだれを垂らすほどに、興奮してしまう。

 そんな僕の前に現れるもう一人の探偵。

「ひひひ。この事件は単純明快。犯人はジャック。そう犯人はジャック!」

 まあ、このおっさんは『迷宮入り確定探偵』と呼ばれているけど。

「そんなバカなっ!?」

「お前……」

 周囲の目が一斉にそちらに向く。

「ジャックお前!」

「お前だったのか、ジャック」

「ち、違う……! 俺はやっていない!」

 明らかにうろたえるジャック。

 それは自分の身を案じてのことか、それとも予想していない嫌疑をかけられたことか。

「俺はその時間にはワイドショーを見ていた。本当だ。ホテルの履歴にも残っているだろう?」

「ひひひ。ワイドショーなど、パソコンを起動させ続ければ誤魔化せるというもの」

 へっぽこ探偵はなかなか反論しにくい言葉を紡ぐ。

「僕はその意見には反対ですね」

 明るい顔になるジャック。

「この事件は謎が多い。まだ検討の余地があります」

 とはいえ、持ち帰るにはあまりにも危険が大きい。

 だって、犯人が証拠隠滅を図れるのだから。

 凶器も見つかっていない、この事件。すぐに解決したいところだけど。

 ピコンと電子音が鳴る。

「解析終了。これより再生する」

 ごくりと生唾を飲み下す容疑者、三名。

 ちなみに隣で飲んだくれっているへっぽこ探偵は睨むようにこちらを見てくる。

 待ってくれよ。僕だってわざと言ったわけじゃない。


「な、なにをする。アナト、おわ……!」

 断末魔のような叫びとともにこんな声が入っていた。後ろでノイズのような機械音が鳴っているが、概ねこんな言葉らしい。

 しかしアナトか。どういう意味だろう?

 何かの暗号、それとも人物名?

「皆さんの名前をもう一度教えてくれますか?」

 僕はへっぽこ探偵を含め総勢六人の容疑者をみやる。

「ジャック=田野たのだ」

「アヤメ=九条くじょうよ」

板野いたのはじめ

西島にしじま健乃けんの

東雲しののめ朱鳥あすかです」

 これで容疑者五人がそろった。

 あとはへっぽこ探偵だけ。

へた端丁はちょう。百戦錬磨の探偵だ」

 ふむ。アナトという名前の人間はいない。

 加えて相性とも違うみたいだ。

「それにしても、凶器すら見つからないとは……」

「なあ、ぼくらを解放してくれないか?」

 アヤメがそう言い、ちらりと壁掛けの時計に視点を移す。

「確かに、陣内さんが刺殺されていたのは大事件だ。でもぼくだって仕事がある」

「そうだ。そうだ! ただの探偵ではなく、警察に任せるべきだろ?」

 立場が弱い探偵。

「それなら警察が来るまで待ってください」

 警察が来るまであと五分といったところか。

 何か見落としている気がする。

「陣内さんとの関係を教えてくれますか?」

 僕は六人に問う。

「おれたちは陣内と同じITのシステムエンジニアだ」

「そういう西島は陣内に嫌われていたじゃないか」

「なっ! 今はそんなの関係ねーだろ!」

 西島は血相を変えて反論する。

「いいえ。そう情報も欲しいです」

 僕は続きを促す。

「西島は陣内と出費について揉めていたのよ。それだけ」

 東雲は落ちついたトーンで語る。

「そういう東雲も、セクハラで悩んでいたじゃない」

 アヤメはチクリと刺してくる。

「そうね。でも殺すほどではないよ」

「はっ。そんなのわかんねーだろ」

「そういう板野だって本当はエリートコースだったんでしょ? 陣内に気に入られて昇格することはないみたいだけど」

「それは……」

 板野も苦い顔を浮かべる。

「どういうことです?」

 僕は板野さんに問いかける。

「それが陣内さんに気に入られて、オレは部下に配置換えされたんだ。そして幹部候補から外された」

「飲み会のとき、このまま一生陣内の下につくのかよ、って漏らしていましたね」

 アヤメの言葉に震える板野。

「ち、違う! オレは……」

「何が違うの。あなたが殺したんじゃない?」

「そうだ。そうだ。おれを犯人扱いしておいて、お前だけはない、なんて言わせないぞ」

 ジャックが調子に乗って余計なことを言う。

「ジャックは横領の罪で嫌われていたじゃない」

「ぐっ。それは……」

「横領ですか?」

 それまで俯瞰してた僕は訊ねる。

「正確には未遂ね。しようとしてたのをバレたのよ」

「なるほど」

 おとがいに手を当てる僕。

 そのあとも口論が続き、全員に動機があることが分かった。

 セクハラ、パワハラ。

 陣内はクズだということが分かったが、それ以上に彼の仕事の出来は良かった。むしろ彼がいなければ仕事が回らないくらいには切迫していた状況らしい。

 そんなことを考えると、小さな会社ではなかなか切り捨てることができないのだろう。

 まあそれも心理か。

 あとは凶器と、証拠かな。

「なるほど。皆さん陣内さんを殺める動機はあるということですね」

 おとがいに手を当てて熟考する。

「陣内さんのスーツが湿っていますが、汗かきでしたっけ?」

「ああ、首にかけたタオルがその証拠だ。陣内はいつも汗をかいていた」

「妙ですね」

「妙?」

 へっぽこ探偵が首をかしげる。

「脇汗はなく、背中のみ……」

 加えて額にも汗の様子はみられない。

「一からおさらいしましょう」

 僕はそう言って死体発見までの経緯を辿る。

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