第81話:地下3階3

警報器で駆けつけたメフィットを倒したら丁字路を逆側へ。途中の分かれ道はパスしてその先の部屋2つを調べていく。

部屋の1つにはスチームが1体で控えていたけれど、マジミサからの剣の連打で簡単に倒されてしまう。

「これは熱いな。止むまで下がろう」

最後の爆発は好評だったけれど、倒し方はとても安定していた。攻撃を加えて終わりそうというところで盾ポンで弾いて遠ざける。ううむ。

もう1つの部屋は空き部屋で奥には宝箱。

「この部屋で行き止まりだね。そして宝箱、やったー」

フリアが飛びつくようにして調べ始める。

やはり宝箱さんの存在は大変に好評。こういう反応はうれしいね。

「鍵あり、罠あり。今度はどんなのかな? あー、さっきのと同じかも?」

前回とはやり方を変えたのか、複数の細い棒のようなものを差し込んでカチャカチャといじる。

「ここを押さえて、それから回して、どうだ。押さえているから開けてみて」

解除できたのか、エディが盾で宝箱の正面をできる限りふさぐような形を取りながら蓋に手をかけてそれを開ける。

今回は警報音のような音をさせることもなく開けることができた。

何と2回目で対応してきましたか。ううむ。

中身はポーション。茶色と銀色と灰色と、3色の層を作った液体が入っていて瓶を振ってもその層が混ざることはなく、常にきれいに別れている。

クライミング・ポーションという壁とかを登れるようになる薬。普通のを出してもつまらないので変化球を投げつける方針。楽しんでもらえるといいのだけれど。


そして次は分かれ道の方。ここはね、いろいろと仕込んでいるのだ。

先を行くフリアが通路へ進み、少し行ったところで突然ビーーーーーーーーッという激しい音が辺りに響く。

フリアが、え、え、と周囲を見渡すが幸いこの周辺の魔物はすでに倒していて、前方、通路の先の方にも何かがいる様子はない。警報音もしばらくして鳴り止み、何事もなくすんだようだった。

「え、もしかしてここ通るだけで鳴るの? 何にもないんだけど、足元も天井も何かあるようには見えないんだけど」

周囲を見渡し足元を触りと探っていたフリアが嘆く。

はい、申し訳ありません。ダンジョンそのものが人感センサーの役割をしているので何かが仕掛けてあるとかではないのです。

「そこを通ると鳴るってことか? どういう仕組みなんだ」

「分かんない。ね、ここにいるから通っていってよ。誰か通るたびに鳴るんなら大変だよ」

はい、対策はそれで良いです。どう頑張っても必ず鳴るので、連発されないように1人残して通り抜ければ鳴るのは1回で済みます。もっともこの警報は演出のためというのが主目的で、魔物を呼び寄せる効果はあまり期待していません。

「さて、この部屋は何も‥‥壁に何か書いてあるな」

周囲を見渡していたクリストが気がつく。

左側の壁の中央辺りに文字のようなものが何行かに渡って書き込まれている。

「これは、何が書いてあるんだ? 誰か読めるか?」

壁に書かれている文章に使われている文字は、ここヴェントヴェール王国や周辺国で使われている共通語とは違っている。

「うーん、古語に見えるけれど、僕には難しいかな」

「確かに古語っぽいわね、待って、読めると思う。えーっと‥‥」

クリスト、エディ、フリアは完全にお手上げだったが、魔法を学んでいるフェリクスとカリーナには多少はなじみのある文字だったようだ。

「えー、追われる、追われて、いる、ここ、め、めふぃっと? って読めばいいのかしら。めふぃっとに追われてここにいる。開く、あ、違うか否定だわね、開かない、門、扉、あー、扉を開けられない、ね。数字の6、階数、戻る? 6階に戻る。別、道、探す、かな。6階に戻って別の道を探す。たぶんこれで全部よ」

カリーナが単語を読み、文章になるようにつなげていく。

「めふぃっとってのはあの魔物のことかもな。で、それに追われていると。扉を開けられないってのはあの鍵のかかっていた扉だろう。それでここから6階に戻って、別の道を探す、と」

「6階に、戻る、か」

「ここは3階だ。あの扉を開けられたらその先にあるのは2階への階段だよな。6階ってのは何だ? あん? もしかしてあれか、これを書いたのは下から上がってきた誰かってことになるのか? それで6階ってことは俺たちから見て5階か?」

地下10階まであって、それを下から登ってくるのなら確かに6階というのは地上から見た場合の地下5階になる。答え合わせはそれで正しい。

このダンジョンが見つかったのはつい先日のことで、ダンジョンを本格的に探索しているのは彼らだけ。

しかも使われている文字が古語かそれに近い言葉。

「‥‥面白いわよね。5階へ行けば答えがあるかもしれないわよ。少なくともこれを書いた誰かの痕跡は、下で見つかるかもしれないわ」

「そうだな。俺たちは上から下を目指していて、これを書いた誰かは下から上を目指しているかもしれなくて、そして古語を普通に使っているってことになって。‥‥これは確かに面白いな」

はるか昔に下から上を目指した誰かがいて、今の時代に上から下を目指す彼らがいる。その想像の先の答えは今はない。だがこれから彼らはまだ下を目指すのだ。そこで答えにつながるものが見つけるだろう。


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いかがでしょうか。キャンペーンシナリオのスタートフラグになります。

文章も正しく読んでもらえて良かった。そうでなければこれを書き写して、持ち帰って翻訳してという手順が必要になるし、6階表記のところでうんうんうなることになったかもしれない。ここは迷ったところなのだけれど、5階6階と進んだところに答えがあるので、最終的にはそこで察してもらえるだろう。

でもやはり一番盛り上がるのは発見したその場で訳すことだと思うので。

古語が分かる人がいると判明したところでこういうメッセージを用意することに決めたから急ごしらえな感は拭えないけれど、これはあくまでもスタートフラグになる。本番は当然5階以降です。

そしてメフィットですね。このエリアに登場した魔物はメフィット。アイス、スチーム、スモーク、ダスト、マグマ、マッドと全部で6種類いて、普通に登場しているけれど脅威度は他のエリアよりも1つ2つ上なのです。いわゆる普通に強いレベルにしてみました。

簡単に倒されているのは冒険者のレベルが高すぎるせい。決してメフィットたちのせいではないのです。


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壁に書かれていた文字を紙に書き写したら探索を再開。

メッセージの部屋の先は左右に分かれて、右側からは階段と水場が見付かる。

はい、無事に4階への正解ルートに到達しました。

でも彼らはそのまま4階へと進むことはせず、この専用鍵エリアは埋めることにしたようで、残る通路の先を調べることに。

「いるね、複数、たぶん3」

メフィットとしては今までで最大の同時投入数。さすがに難易度がこれ以上になってもいけないので、同時に出せる数はこれが上限かなと思っている。

「今のうちにブレスを掛けて、それから部屋の中へスローを入れるわ」

「よし、後は基本通りだな。部屋の入り口を俺とエディでふさぐ形で当たる。フェリクスも攻撃魔法を頼む。フリアは遠距離だけ狙えるときにな」

対策は十分、3体の同時投入とはいえ恐らくそう手間取らずに倒されてしまうだろう。

「茶、茶、赤! 3体!」

ダスト・メフィットが2体とマグマ・メフィットが1体ですね。

「スロー!」

部屋の中へと弱体化の魔法が飛ぶ。これでしばらくの間は魔物の動きが阻害される。

「アイス・ストーム!」

フェリクスの強力な冷気魔法で、氷の粒による嵐に見舞われて動きが止まりふらふらとするメフィットたち。ダストには接近したエディとクリストが剣を振るい、順次倒されていく。さらに好機と見たフリアが後方からマグマに向かってナイフを投げ込んだ。

後は爆発に巻き込まれないように通路へ入って盾で防ぎきれば終わり。これはブレスがスローがというよりアイス・ストームが強すぎましたね。

1体目のダストが爆発を起こしてちりをまき散らす。すぐにもう1体のダストも爆発、もうもうと粉じんが立ちこめる。

そこへ最後に倒されたマグマも爆発を起こして溶岩のようなものをまき散らした。

これで終了のはずだった。


部屋の中程がカッと白く光り、その直後。

ドカンッというこれまでに聞いたこともない激しい爆発音が響き渡り、続けて爆風が部屋から通路へと押し出されるようにあふれていった。

通路しか行き場のなかった空気の圧力が盾を構えていたエディを襲うと、その足元をすくい上げ、そしてそのままの勢いで隣のクリストにも襲いかかると2人をまとめて後方へと吹き飛ばした。

すぐ後ろにいたフェリクスとカリーナ、そしてフリアにも巻き込むようにしてぶつかり、さらに後方へと向かって激しい圧力が吹き飛ばす。

そしてその爆風の向こう側、部屋の中央付近からチラリと赤いものが立ち上がるのが見えた。

激しく吹き飛ばされた彼らを、続けて炎の渦が襲った。

壁に床に天井に、打ち付けられてそのまま通路を吹き飛ばされた彼らの上を炎が広がっていく。その勢いと熱が通路を埋め尽くした。


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え?

え? え? 何が起きたの?

どした? あんな爆発が起きるような罠は設置していないよ?

え??


”事故”という言葉が浮かぶ。

いや、これは、事故よ事故、事故。まずい──


『マスター、落ち着いてください。事故が発生しました。対応しなければなりません』


そうね、そうね、ふぅ。事故対応が必要だわ。

何があったの?


『ダストの爆発によるちりの散布、さらにマグマの爆発による溶岩の散布、そこからの爆発でした』


ちりの散布、溶岩の散布ね。それでばくは、つ? あ? あれ?

あーっ! やっちまった! ふんじんばくはつだ!

ぎゃー、いやーっ! 考えてなかった-!


『マスター、落ち着いてください。理解しました、粉じん爆発ですね。なるほど部屋に粉じんが充満したところへ溶岩による着火ですか、これは想定していませんでした。私たちのミスと言って良いでしょう』


ごめん、まったく考えていなかったわ。

そうよね、起こりうる状況だったじゃないの。どうして考えつかなかったんだろう。や、考えても仕方がない。私たちのミスだ。

それで、彼らの状態は? どう?


「う、ぐ、‥‥」

クリストがうめき声を上げ、わずかに体を動かしているのが分かる。その横でずりっというエディが動いた音が聞こえた。少なくとも息はある。

爆風の前にその2人に突っ込まれる形で後方に押し流された3人は通路のあちらこちらで倒れている。動きはまだ見えない。


『重体です。2人が意識不明、3人が意識朦朧です』


駄目じゃん!

回復は? カリーナさんは?


『意識不明、あ、いけません、緊急蘇生の許可を』


きゃーっ! 許可、許可します! 急いで!


『‥‥、はい、蘇生を確認。気絶状態からの回復を確認、これでヒーリングを使用できれば自力で回復まで持って行けるはずですが』


「‥‥だ、だいじょう、ぶ、か」

クリストが身を起こそうとしているようだ。そのかすれた声に反応したように後方、通路の先で倒れ伏していたカリーナの手が動いた。

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