No.17『ソムニウム』だから私は創るのだろう〜シューベルトと歓喜の歌〜
『ソムニウム』だから私は創るのだろう〜シューベルトと歓喜の歌〜
美しい夢を見た。それはまさに天国的な夢だった。
気付けば私はウィーンの街を、一枚の紙を手に駆けていた。向かう先はシューベルトの家。家につくと、私はすぐさま扉を開け、家の中へと入っていった。
シューベルトは何事かと二階から降りてきた。私はそんな彼に向かって持っていた紙を差し出した。
「これは?」
「歓喜の歌。ベートーヴェンの新曲です」
シューベルトはふむと頷きピアノの前に座ってその楽譜を広げた。シューベルトは最初、その単純なメロディーに目を顰めたが、ピアノに両の手を置き、ミミファソソファミレドドレミミレレと弾くと、目を見開いた。きっと、真に歓喜したのだろう。私もシューベルトの奏でる歓喜の歌のメロディーに、心や魂が震えるのを感じた。一音一音、噛みしめるように。
「これは!」
弾き終わると、終にシューベルトは感嘆の声を漏らした。私はこの歓びをシューベルトと分かち合えたことに打ち震える。涙が流れたのは必然だった。
「この響き、やはりベートーヴェンは狂っている!」
シューベルトは言葉ではそう言いつつも、頬が緩んでいた。きっと嫉妬感や尊敬、自尊心に創作意欲、そういった人間の抱く心のしがらみを越えて、純粋な感謝を抱いたのだろう。「よくぞ、この響きを生み出してくれた!」と。その時、涙こそなかったが、シューベルトには珍しく、実に爽快な顔をしているように思えた。
私はもう、それはそれは涙を流した。人生の歓びを知った。きっとそのせいで、私は夢から目覚めてしまった。
春の朝だった。そう言えば昨晩は月が綺麗だった。月の魔力がこの夢を私に見せたのだろうか。目覚めた私の頬は、やはり濡れていた。
シューベルトという天才さえ震えさせたのは、ベートーヴェンの強い魂の鼓動であろう。そして私も、内に秘める何かが揺らいで、躍動するのをひしひしと感じた。
歓喜の歌が、魂たちが、私を鼓舞する、生み出せと。
だから、私はこれからも。
だから、私は創るのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます