第13話 魔法の練習
それから一週間。魔力弾の修行を続けた。大きさの課題は、初日に改善出来た。集中させる箇所を杖の先端に変更して、身体からビー玉くらいの魔力を切り離して先端に転がすイメージだ。これで、大きさはビー玉以上に大きくならない。
発射は、銃をイメージしている。実物は分からないし、反動もないけど、そのイメージが一番ちゃんと魔力を飛ばせた。アニメとかで見ておいて良かった。
そして、もう一つの課題である精度は、それほど向上していない。初日が十メートル程の距離から十発撃って三発命中くらいで、今は六発命中くらいだから、三割から六割に上がったくらいだ。
私としては、九割まで持っていきたいと考えている。命中精度が自分の命を左右するという事は分かりきっているからだ。
それと修行が午前と午後で切り替わる事にもなった。午前中は、家の周りをひたすら走る。この間、ずっと魔力増加をし続けるというもの。体力お化けと言われた私には温いくらいの修行だけど、ずっと家の中で筋トレとかストレッチとかをしているよりかは、気分が良くなるので嬉しい。
午後の修行は、魔力弾の修行に費やす。全部魔力弾にしたいと言ってみたけど、師匠的には基礎を満遍なく鍛えておきたいらしい。体力自体に問題も何もないという事は、師匠も分かったみたいだけど、これは変わらない。この走るという行為にも何か意味があるみたい。
そんな一週間を過ごして、今日も師匠の身体で起こされる。
「んぐゅ……」
「起きなさい。朝よ」
「う~ん……起きたぁ……」
「ほら、顔洗って。今日は本格的な魔法の実践よ」
「ん……ん? まだ、魔力弾……終わってないよ……?」
「並行してやるのよ。精度自体は悪くないから」
「う~ん……分かったぁ……」
私としては、もっと続けたいところだったけど、もうここで二週間も過ごしている。一ヶ月もすぐに来ると思う。あまりのんびりとしていられない。
洗顔と歯磨きを終えて、朝食を食べる。洗い物まで済ませたところで、師匠とリビングで向き合う。
「最初に覚えて貰うのは、『
「師匠と同じような感じじゃなくても良いって事?」
「ええ。人によって癖が出て来るものだから。私は、自分を周囲の景色に溶け込ませる風にイメージしているわね。相手からしたら、私のいないその場の景色が見えているという事になるわ。【
師匠が『
「『
「分かった」
「それじゃあ、詠唱の仕方を教えるわ」
「そういえば、やり方は知らないかも」
師匠が魔法を詠唱する時、声が二重に聞こえるけど、私が普通に言ってもそうはならない。つまり、詠唱にもやり方があるという事だ。
「詠唱は、喉に魔力を集中させる事で出来るようになるわ。ただ一つだけ注意が必要なのだけど、水琴の場合、言霊の発動条件の一つも喉に魔力を通す事なのよ」
「下手すると、言霊が発動するって事?」
「そうね。マシロがイメージをしっかりして詠唱すれば大丈夫なはずよ。だから、無闇に魔力を喉に集中させるのは禁止よ。分かった?」
「うん。でも、一つ疑問なんだけど、あの時は魔力の使い方とか知らなかったんだけど、何で言霊が発動したの?」
言霊の発動条件を知った今、師匠を抱えて逃げていた時に発動した意味が分からなくなった。魔力の使い方は、ここに来てから習っている。だから、あの時に使えるはずがないと考えられた。
「言霊の発動条件の一つって言ったでしょ? その中の一つに自身に危機が迫っている状況があるの。水琴自身が危機だと判断した時に、強い想いを持って出された言葉が言霊となるのよ。水琴は、これまでの人生で、そんな経験はない?」
そう訊かれて、昔の事を思い出すけど、特に命の危険とかがあった覚えはない。車に轢かれそうになった事もないし、高いところから落ちそうになったという事もない。ただただ平和に暮らしていた気がする。
「ないかも」
「それじゃあ、鴉に襲われる事で自分も危ないと思ったのね。そこで、言霊となったのよ」
「そうなんだ。じゃあ、そういう時も気を付けないとね」
「無意識下での発動は仕方ないわよ。自分で使おうと思っていなくても使ってしまうのだからね。それじゃあ、早速『
「うん」
取り敢えず、『隠れ蓑』のイメージを固める。私がイメージするのは、さっき師匠がしたような自分を風景に溶け込ませる事。自分を見つけようとしても風景と一体になって見つけられない事。ある意味では迷彩のような感じだ。でも、迷彩だと自分の身体の色を変えるような魔法になると思うので、迷彩の布を被るという風に意識してみる。その方が、『隠れ蓑』という名前に合っているイメージだと思ったからだ。
「【隠れ蓑】」
自分の声が二重に聞こえた。それと同時に、カワードボアと遭遇した際に師匠がしたような空間の揺らぎが起こったのが分かった。自分からは自分が見えているから、ちゃんと成功しているか分からない。なので、師匠の方を見て言葉を待つ。
師匠は、テーブルの上から私をジッと見てから、テーブルを降り、私の周りを歩いていく。
「大丈夫そうね。ちゃんと魔法として発動しているわ。上出来よ。倦怠感とかはない?」
「うん」
「過剰に魔力を使っていないようね。それじゃあ、『隠れ蓑』を解いて良いわ。魔力の供給を断つようなイメージよ」
「供給を断つ……」
言われた通り、私の姿を隠している『隠れ蓑』に供給している魔力を断つイメージで魔法を終わらせる。すると、周囲の空間が再び揺らいだ。
「見える?」
「ええ、見えるわ。やっぱり、筋が良いわね。教え甲斐があるわ。それじゃあ、次は『
「うん。分かってる」
『
『
三十分くらい試していたけど、調節は上手くいかない。
「難しい……」
「そうね。水琴も分かりやすいイメージにしてみると良いかもしれないわね」
「分かりやすいイメージ? ドライヤーとか?」
「そうね。そうなると、乾燥というよりも温風とかになるかもしれないわね」
「温風……でも、それだと瞬時に乾かなくならない?」
ドライヤーでは、瞬時に乾くという事はなく、しばらくの間当て続ける必要がある。そうなると、師匠みたいに一瞬で乾かすという事は出来なくなる。
「最初はそれで良いと思うわ。『乾燥』の調節が出来るまでは、それで良いと思うわよ。魔法はイメージ次第で自由度が高いから。縛られた考え方は捨てなさい」
「うん。分かった。ドライヤー……ドライヤー……【温風】」
杖の先端から、温かい風が出て来る。それは、ドライヤーの温度と変わらない。なので、ずっと当てていると熱く感じる。
「おぉ……出来た!」
「ええ、良い感じよ。その調子で、続けていくわよ」
「うん!」
師匠の教え通りに魔法を使っていく。詠唱は、師匠とは違う形だけど、こっちの方が言いやすいので、私にはちょうど良い。色々な魔法を教わっていく。最初は戦闘とはあまり関係なさそうな生活に便利な魔法ばかりだった。
最初は、そういう安全っぽい魔法で慣していくみたいな感じみたい。初めて使うものなので、その方が有り難い。それからの一週間は、午前中に走り込みで、午後に魔法を習いつつ、魔力弾の修行となった。
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