第221話 リーダー男の予想
太陽が天高く昇り地上に暖かい陽光を照らす頃、最寄りの街〈ベンガル〉に到着した。
このまま魔物の姿で門兵の相手をすると、確実に大騒ぎに発展するので、久しぶりに首輪型魔道具〈
城門前には入市手続きの順番を待つ人の列ができていたが、リーダー男に門兵と話をしてもらい、入市手続き無しで門を潜った。
大通りを行き交う人々の服装を見て、俺は驚愕に目を見開く。Tシャツに短パン、運動靴を履く男性やワンピースやミニスカを履く女性がいたからだ。
だが、着用している人数はそこまで多くない。
地球でありふれた衣服が現地人に浸透してないのか、製作者が少なく生産量自体が少ないのか、単純に一般的な衣服より高価なのか。
色々理由は考えられるが、庶民の手に届いていることが素直に凄いと思った。
以前、シャワーやトイレを見た時にも同じようなことを思ったが、地球産の物品を再現したいという気持ちや技術力は、尊敬に値する。
与えられた力を自身の欲望を満たすために振るう異世界人がいる中で、現地人にも地球産の物に興味を持ってもらいたくて頑張る異世界人がいることに、同じ異世界人として誇らしい。
(まぁ当の本人も、悪い異世界人の一人だが…)
気持ちを切り替えて建ち並ぶ露店に視線を巡らせると、おにぎりやフランクフルト、フライドポテトに酷似した料理が売られていた。
その光景を見た瞬間、自分達が現在侵攻中であることを忘れ、露店の店主に話しかけていた。
「店主、これは何という料理だ?」
「あぁこれは、オニギリって言うんだ。肉や魚を柔らかいコメで包んだものさ。俺の握ったヤツは、めちゃくちゃうめぇぞ!」
「では、まず一個買います」
「おう、どれにする?」
「このオーク肉を包んだおにぎりで」
このおにぎりが地球産のモノと一緒なのか、試食も兼ねて一個購入する。
早速、一口食べてみるとーーー
「とても美味しいです! 塩加減や握り加減もちょうどいいですね」
「だろ! ここまでの完成度にするのに、めちゃくちゃ苦労したんだよぉ…それで、どうだい? 他のも買っていくか?」
「買わせて頂きます。ここにあるものと在庫も全て」
「は? 在庫も…全て?」
「はい」
「本気か? 全部買うとなると、結構な値段するが…」
「問題ありません。金ならいくらでもあります」
暇な時間にマジックポーチと〈収納の指輪〉の中身は、【空間魔法】の亜空間に移し済みなので、何も無い空中から虹金貨を数枚取り出して見せる。
「…い、今すぐ準備するから、待っててくれ!」
店主が準備に取り掛かると、背後からディアナが声をかけてくる。
「何を買っているんだ?」
「おにぎりだ。俺の元いた世界にあった料理の一つで、おそらくこの国の異世界人が再現したんだろ」
「美味しいのか?」
「試食してみたが、味は問題なかった。大量に購入したから、後で食べさせてやる」
「それは楽しみだな」
少しの間、店主の準備作業や他の露店を見ているとーーー
「待たせたな! これで全部だ」
店主から受け取った大量のおにぎりを亜空間に収納し、大量に購入したことで割引してくれた金額を支払う。
その後もフランクフルトやフライドポテトの露店も冷やかし、今日はこの街で一泊することにした。
「なぁ、何かおかしいと思わないか?」
「そうか? 何もおかしなところはないぞ?」
「ここまで一人も冒険者を見ていない。時間帯的に狩場で活動している可能性もあるが…一人も見当たらないのはおかしい」
俺の抱いた違和感を口にすると、四人は注意深く周囲を見渡し、納得した表情を浮かべる。
「魔王様は、この状況の原因は何だと思いますか?」
「砦を襲撃した時、突然女が現れましたよね?」
「はい。確か…最高戦力〈四聖将〉の一人ですよね」
「そうです。マイカが出向いたということは、既にヒョウマも事態を把握しているでしょう。それに私達の戦力も、マイカがヒョウマに報告していると思います」
「そうですね」
「この状況がそれに関係していると思うのですが…それ以上のことは分かりません。なので、直接住民に聞いてみましょうか」
「分かりました」
早速何人かの住民に聞いて回ると、その答えが判明した。
「強制招集?」
「あぁ。理由は本人も分かっていなかったが、領主から冒険者ギルドにヒョウマ様から連絡があったと伝えられたみたいだ」
「それで、この街に冒険者が見当たらなかったのですね」
「そうだ。それにスラム街のほうへ兵士達が出向き、浮浪者や犯罪者まで連行していたんだ。俺達にとっては街の治安が良くなるからいいが、住民は皆大騒ぎだったよ」
「教えて頂き、ありがとうございます」
聴き取りを終えたので、まずは高級宿屋で俺とディアナ、カミラの三人、騎士団長、リーダー男がそれぞれ部屋を確保し、俺の部屋に集まる。
「先程の聴き取りで、ヒョウマが何かを企んでいることが分かった。ちなみに、お前は何を企んでいるか予想できるか?」
「…貴様の戦力を警戒しているのではないか?」
「俺の戦力…」
「あの時、マイカ様の魔法攻撃を無傷で耐えたことも伝わっているとすれば、戦力を一箇所に集めて迎撃態勢を整えているかもしれない」
「なるほど。だが、何故そんな面倒なことをする? 〈四聖将〉や〈七仙将〉が一斉にかかってくればいいだろう?」
「もし貴様との戦闘で、最高戦力に死傷者が出たらどうする。戦王国の最大の敵ーーー帝国の奴等に攻め入る隙を与えることになる」
「そういうことか」
あくまで予想でしかないが、可能性は高そうだ。
俺と異世界人がぶつかるのは王都になりそうだな。
「さて、今日はこれで解散だ。各自自由に過ごしてくれ。明朝、この街を出発するからな」
俺は露店で買った料理をテーブルに並べ、貪るように食べ始めた。
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