第四章

第43話 挟まってきた!

「みーちゃん、こっちこっち」

「あ、えと……ありがと」

「圭ちゃん、隣でいい?」

「うん、ありがとね」


 週末のお昼過ぎ。

 私――――桜庭満弦は友達二人と駅の近くのスタバに寄っていた。

 一緒にいるのは氷見ひみつむぎちゃんと生駒いこまけいちゃん。高校でできた数少ない友人だ。どちらも美人で性格も良く、こんな私とも仲良くなってくれた大切な友達。今日は新作のスタバのフラペチーノを飲むのと、映画を見るために三人でお出かけをしている。


 圭ちゃんは凛々しくて、男子は勿論女子にまで人気な綺麗な子。私が言葉を詰まらせていてもゆっくりと話を聞いてくれるカッコいい子だ。漫画から出てきたかのような短い銀髪はお母さんからの遺伝らしく、聞けばクオーターで海外の血が入っているそう。

 紬ちゃんはゆるふわな可愛いを体現した子。毎回浴びる言葉で浄化しそうなくらいに可愛くて、言葉一つ一つが綿飴のようにふわふわしている。長い茶髪は毎回綺麗に波うっていて丁寧に手入れされているのが容易に分かる。高校で初めて声をかけてきてくれた子で、今日のお出かけも紬ちゃんが提案してくれた。


 正直、こんな根暗な私と一緒にどこかに行ってくれる友達がいるだけで本当に幸せだ。

 幸せだけど……――――頬から冷や汗。

 ブルブルと震える手が今にもスマホを落としそうになる。


「どしたの? 満弦」

「もしかして体調悪かったりする?」

「う、ううん……だいじょうぶ」

「何かあったら言ってね? 付き合わせちゃってるんだし」

「それは……なんともないのでお気になさらず」


 精一杯の笑顔を取り繕って、だんだんと悪くなる顔色を自覚する。

 対面に座る二人の友達は、私の顔を心配そうに覗き込む。

 それすらも申し訳なくなってきて、だんだんと呼吸を忘れて窒息。


「大丈夫、だから! ちょっと席外します!!」

「え、あ、うん……だいじょーぶー?!」

「まぁ……本人が言うなら大丈夫でしょ。そっとしておきな」


 我を忘れて席を立ち、一目散にトイレへと駆け込んでいった。

 傍から見たらなんでいきなり変なことしてるんだって状況だ。

 恥ずかしくて死にたくなる。というか死にたい。

 こんな思いをするなら付いてくるべきじゃなかった……。


 トイレの前で吐きかけるもなんとか精神を保って、寸前で留まる。

 鏡を前にした自分の顔は家で見た時よりも数段げっそりしていて、まるで自分ではないかのようだ。

 元々人付き合いをそこまでしてこなかった人間に、こういった環境はそぐわない。

 お姉ちゃんやリラさんだったらもう少し上手くしていたかもしれないけれど、友達の作り方なんて私には分からない。そもそもこんな人見知りに友達ができただけでも偉いんだ。誰か褒めて欲しい!

 それに相談されて、私に何をしろって言うんだーっ!!!!


「はぁっ…………よし」


 拳を作り意気込んで、深呼吸。

 ある程度落ち着いた後に、身だしなみを整えて席に戻る。


「あ、みーちゃんおかえり」

「ただいま……あれ、もう飲み物ある」

「さっき呼ばれたから受け取ってきたよ~これみーちゃんの分」

「あ、ありがとう……ございます」

「なんで敬語なの」

「いや……なんというか、慣れで」

「慣れって」


 苦笑する圭ちゃんと、にこにこ微笑む紬ちゃん。

 私が座っていた席には頼んであった季節のフラペチーノが置かれてあった。

 そそくさと座り一口。


「あまっ――――美味しい……」

「よね!!! 圭ちゃんのはどう?」

「私のも美味しいよ」

「いいなぁ~」


 楽しそうに微笑む紬ちゃんは、圭ちゃんの綻ぶ顔を見てとても居心地良さそうにしている。それを視認した圭ちゃんは、口元を隠すようにして照れ隠し。

 するとストローから口を離し、何か口ごもらせている。


「……紬ものむ…………?」

「……!!!! の、のむ!」

「(声裏返った……)」

「喜びすぎ」

「だ、だって! しょ、しょうがないじゃん!!!」


 紬ちゃんは頬をぼっと赤らめて圭ちゃんの肩をぽこすかと叩く。

 傍から見ている限りはとても和やかで仲睦まじく感じる場面だ。それは間違いない。私もほっと一息して身体を溶かしながらそれらの光景を眺めてストローを口にする。

 圭ちゃんのフラペチーノを渡された紬ちゃんはストローの先をまじまじと見つめながらぶつくさと何かを口にしている。


「(圭ちゃんの……)」

(な、なんて……?)


 そしてしばらくして意を決した後、勢いよくストローをぱくりと食べた。

 顔は耳まで真っ赤にしていて、眼は泳ぎまくっている。

 ある程度飲み、そのワンセットを終えた後圭ちゃんの方から


「どう?」

「あ、お、美味しかったよ」

「本当に……?」

「ほ、本当だってば!!!」

「じゃあ代わりに紬のも一口貰おうかな」

「へっ!?」

「別にいいでしょ。さっき私の飲んだんだから」

「い、いいけど……」


 紬ちゃんは自身のストローを指で念入りにこすって痕をなくし、圭ちゃんの方に勢いよく渡した。

 圭ちゃんは驚いた様子を見せつつも、受け取ってストローを見る。


「(紬の……)」

(この人も……?)


 躊躇した後で、恐る恐るストローに口をつける。

 圭ちゃんは顔は僅かばかりに照れていて、耳を真っ赤にしている。

 この人も同じような感じらしい。


「どう?」

「美味しかった……よ……」

「嘘だ!!!」

「別に嘘じゃないし」

「え~~? みーちゃんはどう思う~?」

「私は……」


 悩まし気な表情を浮かべる二人を前にして、言葉に詰まる。

 どちらに加担しても――――死。

 それは自己的に抱え込んでいること――――ではない。

 過去の二人からの発言を思い出す。


『誰にも言わないでね? 私……圭ちゃんのことが――――』

『紬には内緒よ? 私、紬のこと――――』



『好きなんだ』


 この状況、私はどうすればいいんですか……?

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