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正徳タコ

1.IPA

 2075年。国際こくさい刑事けいじ警察けいさつ機構きこう、いわゆるインターポールは突如として大々的な改革を行った。インターポールは各国の警察機関同士が情報共有や連携を図るために設立された、世界的組織だった。


 改革後の名前は『国際International 警察Police 機関Agency』、連携を重心に置いた組織ではなく、完全に独立した警察機関として改設された。


 各国に勤める有能な警察官らが大幅に引き抜かれたのは言うまでもない。


 そして、戸塚とつかかなめもそのうちの一人だった。

 幼少をアメリカで過ごし中高大学校を日本で過ごした要は内一年を費やしてフランスへの留学も行った。国際的な彼は、三か国語を比較的自由に操ることができ、その上ロシア語の教養もある要は日本警察において重宝されたのだ。


 そんな折に『国際I警察P機関A』の再設立の話を耳にした。


 要は出世に興味のない人種だった。

 当時二十五歳。

 挫折を味わうことなかった要は平和主義者で、闘争心も薄かった。


 しかし、目を付けのが、そのときの上司である一課の警部だった。


「……私を『国際警察機関』に推薦すいせん、ですか?」

「そうだ。君は面倒くさがりに見えて新しいもの好きだろう」


 たしかに新しいものは好きだ。そして、ヴィンテージも。

 要は歴史、というものにそそられる傾向がある。新しいものはこれから形作る歴史に、ヴィンテージはそこに刻まれた歴史に。要を釘付けにさせていた。


 ただそれらは趣味の話。


「一課からも一名連れて来いと言われているんだ。人手不足だとは言ったがな、一名でいいからと。それに君はたくさんの言語に精通している」


 それが本音だろう、と要は思った。しかし多言語の人種と全く意思疎通の測れない、人間を送るよりも正しい選択だ。


「実はここだけの話、アメリカではすでにAIを搭載とうさいした超高性能アンドロイドが始動している。……見たくないか?」


 見たい。すごく見たい。

 要は黙っていたがその本心が透けていたようだ、上官は口角を上げて要の肩を叩く。


「そうか! やってくれるか」

「は?」

「よし、申請しておこう。パスポートが期限切れではないか確認しておくように。来月から君の職場はアメリカだ」


 満足そうに笑って、解決解決、と上司は喜びを噛みしめている。

 戸塚要はそうして『国際警察機関』の一警察官として働くことになったのだ。




 ここまでが六年前の話。

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